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15.聖女の裏側
後日、わたくしは事情聴取を兼ねて王宮へ呼び出され、そこであらためて説明を受けた。
ロアン様から教えていただいたことに加え、闇魔法は完全に消滅したことをエンドレール様から保証され、セノリィのその後についても聞かされた。
「食堂にいた生徒たちにも、セノリィが闇魔法で君を操っていたことは説明している。名誉回復のために、ほかにできることがあれば協力しよう。……まあ、セノリィの変わりようをみれば、疑いを持つ者などいないだろうが」
ため息をつくヒューバート殿下に、わたくしは首をかしげた。
「変わりよう、ですか」
「君は気づかなかっただろうが、解呪は我々が食堂を訪れたときから始まっていた。そして破られた闇魔法は、セノリィに反射した」
「反射……」
わたくしがかけられていた闇魔法は、悪役令嬢のような振る舞いをするというものだった。それがセノリィに跳ね返ったということは――。
わたくしの想像を肯定し、ヒューバート殿下が肩をすくめる。
「酷い有様だったな、ロアン?」
「はい。……錯乱したセノリィは『あたしがヒロインなんだから、逆ハーエンドは当然でしょ』『ヒューバート殿下もエンドレール様もあたしのものよ』『全部手に入れるの』などと叫びながら殿下につかみかかってきてな。俺が取り押さえた」
ロアン様が眉をひそめながら当時の様子を語ってくださる。
それは錯乱したのではなく本心ね……反射された闇魔法のせいで、本心をめちゃくちゃにぶつけてしまったらしい。
転生者ではないヒューバート殿下やロアン様、食堂にいた生徒たちも、いったい何を言っているのかわからなかったでしょうね。
ただ、セノリィが王太子や高位貴族を狙って闇魔法を使っていたことは理解できる。
そうしてセノリィの罪が確定したのだった。
「現在、セノリィは魔導師の見張る特別牢にいる。魔力を抜きとる足枷をつけてな。あいかわらず意味不明なことを喚いて暴れているそうだ」
わたくしは眉をひそめた。
セノリィの身の上を思ってではない。この先を案じてのことだった。
自分が被害に遭っていたからわかる。ゲームの主人公だけあって、セノリィの魔法は強力だ。身柄を拘束しておくだけでも魔導師が必要になるとすれば、国の負担は大きい。
ゲームでは人を救うために与えられたはずの豊富な魔力を、セノリィは自分のワガママのために使った。そのせいで多くの人が迷惑を被っている。
彼女がしでかしたことを理解した今、湧くのは怒りの感情だ。
黙り込むわたくしを見つめ、ヒューバート殿下はふっと笑いを漏らした。
「……どうして君と婚約しておかなかったんだろうな」
「え?」
突然の言葉に、なんの話かとわたくしは首をかしげる。
ヒューバート殿下も、わたくしの真似をするように小首をかしげた。金色の髪がさらりと揺れる。
「三年前、君と婚約してはどうかという話もあったんだ。だが俺は君の悪い噂を信じ、頷かなかった」
「それは……正解でしょう。わたくしは甘やかされて育った傲慢な令嬢でしたから」
「そうかな。今の君は筆頭公爵家の令嬢で、国を思う心を持っている。闇魔法をかけられながら三年間も耐える強さも、ね。申し分のない相手なのに俺は気づけなかった。ロアンのほうが見る目があったみたいだ」
身に余る賛辞、というものなのだろうけれど。
どう答えたらよいのかわからずに困っていたら、ロアン様がわたくしを庇うように前に出た。
「そこまでです、殿下。人の婚約者を口説くのはやめてください」
「口説いてはないよ。反省を伝えただけだ」
そう言いつつも、ヒューバート殿下はいたずらっぽい笑顔を見せる。
「そんな顔をするな、ロアン」
「ヴェスカ嬢を呼んだのは、今後のことを話すためでしょう」
これ以上言いあっても仕方ないと思ったのか、ロアン様はため息をついて話題をもとに戻した。
ヒューバート殿下はあいかわらずくすくすと笑っていらっしゃる。
知らなかったけれど、ロアン様は、ヒューバート殿下と冗談が言いあえるほど親しい関係のようだ。
「そうだったな」とヒューバート殿下は表情を真剣なものに戻した。
「セノリィの処遇については、難しい面もある。彼女が貴重な聖魔法を使える以上、処刑や追放といった罰には反対する貴族も多い。しばらくは監視付きの牢に入れておくしかないというのが現状だ。だがそれは万全ではない――聖女を捕らえるなど、前代未聞だからね」
「はい」
わたくしは頷いた。ヒューバート殿下が言いたかったのはそこなのだろう。
「手がないわけじゃないんだ。ただ、今はその手が使えない」
ため息をつくヒューバート殿下に、ロアン様も微妙な顔になる。
「セノリィは君への憎悪を口にしているそうだ。今回のことはすべて君のせいだと……万が一セノリィが脱獄した場合、君を狙ってくるかもしれない」
真剣なまなざしでわたくしを見据えるヒューバート殿下。
わたくしはごくりと息を呑んだ。
セノリィの性格はわかっている。ヒューバート殿下の言葉は冗談ではない。
ふたたび、庇うように前に出たのは、ロアン様だった。
「ヴェスカ嬢は俺が守ります」
「そう、なんでかこいつは魔法耐性が高い。セノリィの魅了魔法も自力で突破していた」
ヒューバート殿下が親指でロアン様を指し示す。
「ヴェスカ嬢への愛ゆえでしょうね」
「相思相愛が判明した途端に浮かれまくってるよな、お前」
真顔のロアン様と呆れ顔のヒューバート殿下。
うん、仲がいいのはわかったしよろこばしいことだと思うのだけれど、このコントは心臓に悪いわね。
当然ながら、ロアン様はわたくしとのやりとりをヒューバート殿下に報告したのだろう。もしかしたら、わが家でのことも知られているのかも。
「ヴェスカ嬢が赤い顔で引き気味の笑みを浮かべてるだろ。リアクションに困ること言うなよ」
ヒューバート殿下はわたくしの内心をいちいち当てるのをおやめになってください。
「まあ、そういうわけだから……しばらくはロアンに護衛をしてもらってくれ」
最後は謎にざっくりしたまとめで、ヒューバート殿下は話を締めくくった。
ロアン様から教えていただいたことに加え、闇魔法は完全に消滅したことをエンドレール様から保証され、セノリィのその後についても聞かされた。
「食堂にいた生徒たちにも、セノリィが闇魔法で君を操っていたことは説明している。名誉回復のために、ほかにできることがあれば協力しよう。……まあ、セノリィの変わりようをみれば、疑いを持つ者などいないだろうが」
ため息をつくヒューバート殿下に、わたくしは首をかしげた。
「変わりよう、ですか」
「君は気づかなかっただろうが、解呪は我々が食堂を訪れたときから始まっていた。そして破られた闇魔法は、セノリィに反射した」
「反射……」
わたくしがかけられていた闇魔法は、悪役令嬢のような振る舞いをするというものだった。それがセノリィに跳ね返ったということは――。
わたくしの想像を肯定し、ヒューバート殿下が肩をすくめる。
「酷い有様だったな、ロアン?」
「はい。……錯乱したセノリィは『あたしがヒロインなんだから、逆ハーエンドは当然でしょ』『ヒューバート殿下もエンドレール様もあたしのものよ』『全部手に入れるの』などと叫びながら殿下につかみかかってきてな。俺が取り押さえた」
ロアン様が眉をひそめながら当時の様子を語ってくださる。
それは錯乱したのではなく本心ね……反射された闇魔法のせいで、本心をめちゃくちゃにぶつけてしまったらしい。
転生者ではないヒューバート殿下やロアン様、食堂にいた生徒たちも、いったい何を言っているのかわからなかったでしょうね。
ただ、セノリィが王太子や高位貴族を狙って闇魔法を使っていたことは理解できる。
そうしてセノリィの罪が確定したのだった。
「現在、セノリィは魔導師の見張る特別牢にいる。魔力を抜きとる足枷をつけてな。あいかわらず意味不明なことを喚いて暴れているそうだ」
わたくしは眉をひそめた。
セノリィの身の上を思ってではない。この先を案じてのことだった。
自分が被害に遭っていたからわかる。ゲームの主人公だけあって、セノリィの魔法は強力だ。身柄を拘束しておくだけでも魔導師が必要になるとすれば、国の負担は大きい。
ゲームでは人を救うために与えられたはずの豊富な魔力を、セノリィは自分のワガママのために使った。そのせいで多くの人が迷惑を被っている。
彼女がしでかしたことを理解した今、湧くのは怒りの感情だ。
黙り込むわたくしを見つめ、ヒューバート殿下はふっと笑いを漏らした。
「……どうして君と婚約しておかなかったんだろうな」
「え?」
突然の言葉に、なんの話かとわたくしは首をかしげる。
ヒューバート殿下も、わたくしの真似をするように小首をかしげた。金色の髪がさらりと揺れる。
「三年前、君と婚約してはどうかという話もあったんだ。だが俺は君の悪い噂を信じ、頷かなかった」
「それは……正解でしょう。わたくしは甘やかされて育った傲慢な令嬢でしたから」
「そうかな。今の君は筆頭公爵家の令嬢で、国を思う心を持っている。闇魔法をかけられながら三年間も耐える強さも、ね。申し分のない相手なのに俺は気づけなかった。ロアンのほうが見る目があったみたいだ」
身に余る賛辞、というものなのだろうけれど。
どう答えたらよいのかわからずに困っていたら、ロアン様がわたくしを庇うように前に出た。
「そこまでです、殿下。人の婚約者を口説くのはやめてください」
「口説いてはないよ。反省を伝えただけだ」
そう言いつつも、ヒューバート殿下はいたずらっぽい笑顔を見せる。
「そんな顔をするな、ロアン」
「ヴェスカ嬢を呼んだのは、今後のことを話すためでしょう」
これ以上言いあっても仕方ないと思ったのか、ロアン様はため息をついて話題をもとに戻した。
ヒューバート殿下はあいかわらずくすくすと笑っていらっしゃる。
知らなかったけれど、ロアン様は、ヒューバート殿下と冗談が言いあえるほど親しい関係のようだ。
「そうだったな」とヒューバート殿下は表情を真剣なものに戻した。
「セノリィの処遇については、難しい面もある。彼女が貴重な聖魔法を使える以上、処刑や追放といった罰には反対する貴族も多い。しばらくは監視付きの牢に入れておくしかないというのが現状だ。だがそれは万全ではない――聖女を捕らえるなど、前代未聞だからね」
「はい」
わたくしは頷いた。ヒューバート殿下が言いたかったのはそこなのだろう。
「手がないわけじゃないんだ。ただ、今はその手が使えない」
ため息をつくヒューバート殿下に、ロアン様も微妙な顔になる。
「セノリィは君への憎悪を口にしているそうだ。今回のことはすべて君のせいだと……万が一セノリィが脱獄した場合、君を狙ってくるかもしれない」
真剣なまなざしでわたくしを見据えるヒューバート殿下。
わたくしはごくりと息を呑んだ。
セノリィの性格はわかっている。ヒューバート殿下の言葉は冗談ではない。
ふたたび、庇うように前に出たのは、ロアン様だった。
「ヴェスカ嬢は俺が守ります」
「そう、なんでかこいつは魔法耐性が高い。セノリィの魅了魔法も自力で突破していた」
ヒューバート殿下が親指でロアン様を指し示す。
「ヴェスカ嬢への愛ゆえでしょうね」
「相思相愛が判明した途端に浮かれまくってるよな、お前」
真顔のロアン様と呆れ顔のヒューバート殿下。
うん、仲がいいのはわかったしよろこばしいことだと思うのだけれど、このコントは心臓に悪いわね。
当然ながら、ロアン様はわたくしとのやりとりをヒューバート殿下に報告したのだろう。もしかしたら、わが家でのことも知られているのかも。
「ヴェスカ嬢が赤い顔で引き気味の笑みを浮かべてるだろ。リアクションに困ること言うなよ」
ヒューバート殿下はわたくしの内心をいちいち当てるのをおやめになってください。
「まあ、そういうわけだから……しばらくはロアンに護衛をしてもらってくれ」
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