世界観制約で罵倒しかできない悪役令嬢なのに、なぜか婚約者が溺愛してくる

杓子ねこ

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18.初めてのデート

 週末は約束どおり、ロアン様と王都の商業街へ出かけた。
 
 口から出る言葉がすべて罵倒変換されるせいでこの三年間は引きこもっていたから、おしゃれをして外に出るだけで楽しい。
 今日はいつもと違う雰囲気にしたくて、編み込みにした髪をロアン様の髪飾りでまとめている。ドレスもゆったりと裾を流したもの。
 
 早めのランチをすませ、大通りを歩いていく。乙女ゲームの世界だからか、雑貨屋やカフェなど、かわいらしいお店が多かった。
 
 最後に向かったのはペットショップ。
 
「すまない、少し仕事をしてきてもいいか」
「はい、もちろんですわ」
 
 ロアン様に笑顔を返し、わたくしは店内を見てまわる。
 前世の日本と同じように、店内にはガラスで区切られた部屋があり、子犬や子猫がおもちゃで遊んだり昼寝をしたりしている。
 
 ロアン様は店の奥へ行って、主人と何かを話している。
 仕事というからには騎士団の用事なのだろうけれど……なんだろう?
 
 主人が首を横に振り、話はそれで終わったようだ。
 ロアン様が戻ってくる。
 
「待たせた」
「いいえ、まったく。この子を見ていたらすぐでしたわ」
 
 そう答えるとロアン様はわたくしと一緒になって子犬を眺めた。
 フサフサの毛をした子犬は、ガラス越しに舌を出して人なつっこそうにこちらを見つめている。
 
 かわいい……!
 
 ガラスに手をあてると、子犬も小さな前足をあげてくれる。肉球を見せてくれるようなポーズに思わず顔がにやけた。
 
「ヴェスカ嬢は動物が好きだな」
 
 ほほえむロアン様が小鳥たちへの餌やりを思い返しているのだと知り、わたくしは頬を赤らめた。
 闇魔法のせいとはいえ、餌やりを見られたときの高笑いは黒歴史だ。
 
 でも、黒歴史はすぐに頭から追い出された。
 
「結婚したら、何か飼うのもいいと思ってな」
 
 ロアン様のそんなひと言によって。
 
「……!」
「気が早すぎるのはわかっている。ヴェスカ嬢の卒業を待って、それから準備を始めるから、安心してほしい」
「は、はい」
 
 答えながら、先ほどよりもずっと顔が赤くなる。
 ロアン様も照れくさそうに頬をかいた。
 
「浮かれてるんだ、こんなふうに二人で出かけることができて」
 
 はにかんだロアン様が手をさしだしてくださる。
 わたくしはその手をとって、赤い顔のままほほえんだ。
 
「そうですね。子犬を飼いましょう。庭で遊びたいですわ」
 
 おもちゃのコーナーにはフリスビーもあった。
 公爵家の庭は広い。ロアン様のおうちも同じくらい大きな庭があるだろう。
 
「……あ」
 
 ふと思いついたことがあって、わたくしは声を漏らした。
 
「もしかしたら、鳥を飼うかもしれません」
「うん。巣箱を作ってもいいな」
 
 クーちゃんには、名前をつけてしまった。はっきり飼うと決めてつけたわけではないけれど、あの人馴れの仕方、今思うと彼(?)は脱走したペットかもしれない。
 飛べもしないヒヨコがどうやって脱走するのか、とは思うものの……。
 
 次に会ったら保護して、飼い主をさがしてみよう。見つからなければわが家にきてもらう。
 
 ――そんなことを考えながら、ペットショップを出たときのことだった。
 
 
「見つけたわよお、クソ女ア」
 
 
 怒り、ではない。もっとドス黒くて、渦を巻くような悪意、理不尽な負の感情。
 そうしたものがまざりあった声が耳に届く。
 
 同時に、ぞくりとした悪寒が背すじを這いあがった。
 
 身の毛もよだつおぞましい気配。
 わたくしに向かってのびてくる、闇の魔力。
 
 悲鳴が聞こえた。わけもわからぬままに、それでも逃げようとする人々を、目に見えるほど淀んだ魔力が呑み込んでいく。
 
 大通りを混乱で満たし、立っていたのは、セノリィだった。
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