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22.想う方は(完)
翌週末は、ロアン様のご実家ガーネル家でお茶とお菓子をいただいた。
ここでも目をキラキラとさせたグライツ様に、
「お目にかかれて光栄です!! 今のぼくがあるのはヴェスカ様のおかげです……!」
と挨拶され、ロアン様はどれだけわたくしのことを美化して周囲の方々に伝えたのか……と心配になってしまった。
お弁当を食べながらロアン様が周囲の人々のことを語り聞かせてくれていたのは、それがわたくしに関わる変化だと思っていたから、だそうだ。
ロアン様がわたくしを知った日のことは、王宮の帰り道に聞いた。
記憶を遡ればたしかに泣いていた男の子を慰めたし、その子はロアン様に似ていた。
わけもわからず求婚してきたわけじゃなかったのね……と、その点では安心したけれど。
「わたくしはきっかけになったにすぎません。行動したのはロアン様やグライツ様ですよ」
そう言いつつも、わたくしは嬉しくてほほえんだ。
悪役令嬢から脱しようとしたわたくしの努力がいい影響を与えたのならよろこばしい。
しばらくお話をして、「またぜひお会いしたいです!」と目を輝かせつつ、グライツ様は部屋をあとにした。
わたくしはロアン様を見た。ロアン様もわたくしを見る。
これでふたりきり――ではない。
「クアア」
部屋にはなぜか、クーちゃんがいた。テーブルにちょこんと立っている。
また脱走してきてしまったらしい。学園や王都の公園といった広い場所には行かず、ロアン様のおうちへきたのは……わたくしがいるから、ということみたい。
「クアッ、ケッ」
クーちゃんは目を細め、クチバシを大きく開いて鼻の上にシワを寄せた。
「『こんな若造にヴェスカ嬢を守れるのか』と言われている気がするな……」
ロアン様も眉間にシワを寄せて呟く。
奇遇です、わたくしもそんな気がしていました。
それと、ロアン様が「あなたもヒヨコですが?」という言葉を呑み込んだ気配もする。
「クアッ、ククア?」
小さなふわふわの羽を広げ、胸を張るクーちゃん。
「『こんな男はやめて我にせぬか?』と言っている気が……」
ロアン様もそう思われますか。
フェニックスに求婚されるとは、光栄ですが想定外です。
クーちゃんはこてんと首をかしげてわたくしを見上げた。返事を待っているらしい。
「ありがとうございます。その……お気持ちは嬉しいのですが、わたくしはロアン様と結婚したいと思っておりまして」
ロアン様を横目で見ながら言うと、ロアン様はわずかに頬を染めて直立していた。
「なので、お気持ちには応えられません。申し訳ありません」
「クア……」
……肩を落とすヒヨコを、生まれて初めて見たわね。
クーちゃんはとぼとぼとテーブルを横切ると、窓に向かって羽ばたいた。
ヒヨコのシルエットがふわりと宙に浮かぶ。
何度見ても飛べるとは思えないヒヨコ体型なのに、どうなっているのか。浮遊魔法なのだろうか。
わたくしといるときにのしのし歩いていたのは、この体型で飛べるとわかったらさすがに何かおかしいと気づかれてしまうから?
小鳥たちがクーちゃんを恐れていたのはフェニックスなら当然のことだった。
ロアン様とわたくしは、窓辺に並んで、飛んでいくクーちゃんの後ろ姿を見送った。
王宮の方角を目指していたから、これ以上は脱走しないと信じたい。
「……ようやく、ふたりきりか」
息をついたロアン様に抱き寄せられて、わたくしは頬を染めた。
「ライバルが多くて不安だったが……」
「ライバル?」
「君は人気者だから」
そん……なことはないと思うけれど、思いがけない歓迎に驚きっぱなしの最近を思えば否定はできない。
でも、クーちゃんにも言ったとおり。
「わたくしの想う方は……結婚したい相手は、ロアン様おひとりですよ」
照れくさくなってはにかむと、ロアン様も顔を赤くした。
一年だけの自由だった時間に、一度だけ出会った。
その一度を信じ続けて、わたくしのそばにいてくださったロアン様。
だからこの先は、わたくしがロアン様のおそばにいるのだ。
ロアン様の腕に抱きしめられ、わたくしは身を寄せた。
ぬくもりと、緊張しているのだろう鼓動の音が伝わってくる。
「愛している、ヴェスカ嬢。君にふさわしい男になれるよう、いっそう努力するよ」
「わたくしもです、ロアン様」
腕の中から見上げたロアン様は、わたくしをまっすぐに見つめて、ほほえんでいる。
目を閉じると、誓いのようなキスが贈られた。
ここでも目をキラキラとさせたグライツ様に、
「お目にかかれて光栄です!! 今のぼくがあるのはヴェスカ様のおかげです……!」
と挨拶され、ロアン様はどれだけわたくしのことを美化して周囲の方々に伝えたのか……と心配になってしまった。
お弁当を食べながらロアン様が周囲の人々のことを語り聞かせてくれていたのは、それがわたくしに関わる変化だと思っていたから、だそうだ。
ロアン様がわたくしを知った日のことは、王宮の帰り道に聞いた。
記憶を遡ればたしかに泣いていた男の子を慰めたし、その子はロアン様に似ていた。
わけもわからず求婚してきたわけじゃなかったのね……と、その点では安心したけれど。
「わたくしはきっかけになったにすぎません。行動したのはロアン様やグライツ様ですよ」
そう言いつつも、わたくしは嬉しくてほほえんだ。
悪役令嬢から脱しようとしたわたくしの努力がいい影響を与えたのならよろこばしい。
しばらくお話をして、「またぜひお会いしたいです!」と目を輝かせつつ、グライツ様は部屋をあとにした。
わたくしはロアン様を見た。ロアン様もわたくしを見る。
これでふたりきり――ではない。
「クアア」
部屋にはなぜか、クーちゃんがいた。テーブルにちょこんと立っている。
また脱走してきてしまったらしい。学園や王都の公園といった広い場所には行かず、ロアン様のおうちへきたのは……わたくしがいるから、ということみたい。
「クアッ、ケッ」
クーちゃんは目を細め、クチバシを大きく開いて鼻の上にシワを寄せた。
「『こんな若造にヴェスカ嬢を守れるのか』と言われている気がするな……」
ロアン様も眉間にシワを寄せて呟く。
奇遇です、わたくしもそんな気がしていました。
それと、ロアン様が「あなたもヒヨコですが?」という言葉を呑み込んだ気配もする。
「クアッ、ククア?」
小さなふわふわの羽を広げ、胸を張るクーちゃん。
「『こんな男はやめて我にせぬか?』と言っている気が……」
ロアン様もそう思われますか。
フェニックスに求婚されるとは、光栄ですが想定外です。
クーちゃんはこてんと首をかしげてわたくしを見上げた。返事を待っているらしい。
「ありがとうございます。その……お気持ちは嬉しいのですが、わたくしはロアン様と結婚したいと思っておりまして」
ロアン様を横目で見ながら言うと、ロアン様はわずかに頬を染めて直立していた。
「なので、お気持ちには応えられません。申し訳ありません」
「クア……」
……肩を落とすヒヨコを、生まれて初めて見たわね。
クーちゃんはとぼとぼとテーブルを横切ると、窓に向かって羽ばたいた。
ヒヨコのシルエットがふわりと宙に浮かぶ。
何度見ても飛べるとは思えないヒヨコ体型なのに、どうなっているのか。浮遊魔法なのだろうか。
わたくしといるときにのしのし歩いていたのは、この体型で飛べるとわかったらさすがに何かおかしいと気づかれてしまうから?
小鳥たちがクーちゃんを恐れていたのはフェニックスなら当然のことだった。
ロアン様とわたくしは、窓辺に並んで、飛んでいくクーちゃんの後ろ姿を見送った。
王宮の方角を目指していたから、これ以上は脱走しないと信じたい。
「……ようやく、ふたりきりか」
息をついたロアン様に抱き寄せられて、わたくしは頬を染めた。
「ライバルが多くて不安だったが……」
「ライバル?」
「君は人気者だから」
そん……なことはないと思うけれど、思いがけない歓迎に驚きっぱなしの最近を思えば否定はできない。
でも、クーちゃんにも言ったとおり。
「わたくしの想う方は……結婚したい相手は、ロアン様おひとりですよ」
照れくさくなってはにかむと、ロアン様も顔を赤くした。
一年だけの自由だった時間に、一度だけ出会った。
その一度を信じ続けて、わたくしのそばにいてくださったロアン様。
だからこの先は、わたくしがロアン様のおそばにいるのだ。
ロアン様の腕に抱きしめられ、わたくしは身を寄せた。
ぬくもりと、緊張しているのだろう鼓動の音が伝わってくる。
「愛している、ヴェスカ嬢。君にふさわしい男になれるよう、いっそう努力するよ」
「わたくしもです、ロアン様」
腕の中から見上げたロアン様は、わたくしをまっすぐに見つめて、ほほえんでいる。
目を閉じると、誓いのようなキスが贈られた。
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