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45 新しい約束

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 翌朝、ケェアは家令のトゥアにこってりと絞られた。
 説教に何一つ反論ができないケェアは、おとなしく反省するほかなかった。

 エトレが過労とショックで熱を出して、寝込んでしまったのだ。

 目を細めたトゥアに、その体格で思う存分に好き放題なされば、領主様が倒れるに決まっているでしょう、と嫌味を言われたケェアは、思わず、まだ最後までできてない、と言い訳しそうになった。
 最後までできていないなら、なおさら何をやっているんですか!と説教が増量されるのは間違いないので、言わないのが正解だ。

 エトレは婚姻の儀式まで、準備や領主としての仕事を続けていて、儀式の後は日常の仕事に、夫婦としての夜の仕事まで追加された。
 ケェアが強引に吸引をしなくても、いつかは倒れていただろう。

 いくらエトレがトゥアから教えられた体調管理を怠っていなくても、毛無しは肉体的に弱い。
 ケェアはそのことをすっかり忘れていた。



 説教から解放されたケェアは、自分のしでかした事を自覚して、落ち込んでいた。

 今日は鍛錬もする気になれず、顔を赤くして汗をかきながら寝ているエトレの横で、立ち尽くしていた。
 不器用な偶蹄で布を絞って額に乗せることなどできるはずもなく、介護はできない。

 目の前の寝台は、夫婦の寝室のものよりも小さい。
 代々キツネ系当主の部屋に、ウシ体格用の椅子寝藁なんてないから、立っているしかない。

 ケェアは家令のトゥアから、今夜は夫婦の寝室で一人で寝て欲しい、と言われている。
 ゆっくり休ませて差し上げたいのです、と。
 夫婦の寝室は、体格と力に優れるケェアのために新しく用意された部屋で、床は石、壁も硬い木材だ。
 何よりも、ケェアとエトレが一緒に寝ても余る大きさの寝台がある。
 一番の特徴として、部屋の中央に巨大な偽牝台がある。

「……ん、くーしゃま?」

 目が覚めたのか、ぼんやりとした様子で声を上げたエトレを見た瞬間、ケェアの中で何かが決壊した。
 一人で寝る?
 ない。
 それだけはない。

「エトレ」
 (可愛い寝ぼけ顔は脳内永久保、お熱でぽやややんってとこも萌きゅん!!
 でも原因が俺氏だと思うと、罪悪感も強烈っ!!)

 強がりも意地も、何もかも捨ててしまいたいと心から願った。
 世界一美しい妻を得たのに、まともに触れ合うことができない本能が憎い。
 ウシ最強!なんて浮かれている場合じゃなかった。

 ケェアは言葉にできない全ての思いを、どうにかしてエトレに伝えたかった。
 けれど死んだらそれっきり、と輪廻転生が知られていない世界では、生まれ変わったなんて話を誰も信じない。

 人間の腕が欲しい。
 真っ当な方法でエトレを抱きしめたい。
 それにはまず無茶をしたことを謝らないと、許してもらわないと。
 ケェアのそんな想いは、エトレの一言であっさりと粉々になった。

「くーさま、ごめんなさい」
「何がだ」
 (謝るのは俺氏の方よ、嫁ちゃんだと思うと暴走してしまう不甲斐ない俺氏、ほんとごめんにょ)
「たくさんきもちよくしていただいたのに」
「……エトレ」
 (時々うちの嫁ちゃんが確信犯かなって思うんよね、何これ、誘われてんの?襲って欲しいってこと?)
「ごめんなさい」

 ケェアの言葉に、熱で赤らんだ顔を少し歪めて、もう一度謝るエトレの姿に、胸が切なくなる。
 悪いのはケェアだというのに、どうして寝込んでいるエトレが謝るのか。

「昨日は…………そうだ、初夜の言葉を覚えているか」
 (どうしよう、どうしたらいい、ええと、あ、思いついた!!)

 初夜に告げた言葉を、なんとか本心を垂れ流さずに言えたことを、思い出して欲しいと。
 あれもある意味本心だけれど、オブラートに包んだ上で糖衣コーティングまでして、耳触りは良くなっている。

「ふれたい、ふれられたい、ですか?」
「そうだ」
 (そうそれ、それそれぇ!)

 ケェアは強引すぎるかと思いつつ、まとめてみた。

「今のエトレと同じだ、子作りは二人で行うもので、どちらかが為すものではない」
 (えーと、一緒に気持ちよくなってエッチしようねーって、イラマもフェラもお手てでこしゅこしゅも一方的すぎるとつらたんヨーってことでどうかな)
「……」
「……」
 (やっぱ強引すぎて無理すぎるか、困らせるだけだよな)
「あせってしまってすいません」
「エトレは何も悪くない!」
 (嫁ちゃんが素直しゅぎるぅ!!悪いのはありえない早漏の俺氏でっす!おうふ)

 ケェアが、普段は声を荒げることが少ない事をエトレは理解しているので、一瞬だけ驚いたように目を見開き、そして少しだけ目元を緩める。

「クーさま」
「おう」
 (はいはーい、なんでしょっか!)
「……つぎも、ありますか?」
「当然だ」
 (モロのちん!って違うもっちり論……ダメだ、嬉しすぎておかしくなっとる)

 震える声で問われ、ケェアが食い気味で即答すると、発熱で色気をまとったエトレが微笑む。

「うれしい、です」
「そう思ってくれるなら、しっかり休んで元気になってくれ、次は気をつける」
 (元気になったら、一緒にラブラブ大人時間ぬちょぬちょぐっちょりじゅぽじゅぽしましょうねー、デュフフフ)

 白い頬を伝う汗を優しく舐めとり、ケェアは今夜はここで寝る、と決めた。
 硬くて冷たい床の上で寝ることになってもエトレから離れてたまるか、と狭い部屋に居座るケェアを見た家令のトゥアが、呆れたような嬉しそうな顔をしていたのは、余談である。

 
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