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6 最後の日 ※
しおりを挟む張り詰めた空気の中で、副長が口を開いた。
「それでは〝竜の試し〟を始めよ」
「はい……」
返事はしたものの、普段なら広場にずらりと並べられる地竜は一頭もいない。
餌でつって、鞭で叩いて、引き摺り出そうとしていたが、ただでさえ動きが鈍い上に怯えて、振り回されていた。
だから。
続けて口を開いた
「……ですが副長、試す地竜がいません」
試しをして欲しいなら、ここにつれてこい、という意図を隠さなかった。
本当なら、俺はここで膝を屈するべきだ。
負けを認めて、一生、下僕として騎士団の中で使い潰されるべきなのだろう。
「竜舎に入ってだな、そ」
「副長、それでは試しになりません。
ヒデランテ竜王国、騎竜騎士団団規をお忘れでしょうか、〝試し〟は竜を並べて、第三者の目の前で行うべし、と決められております」
ぐっ、と副長が歯を噛み締めた姿が見えた。
伊達に八年も見習いをしていたわけじゃない。
地竜に認めてもらえるように、試行錯誤した後だ。
団規だって、舐めるように隅から隅まで目を通してある。
地竜の竜舎は広い。
けれど、地竜同士の不要な接触を防ぐために柵で区分けされているので、全ての竜を一列に並べることはできない。
さらに、この場に集まる騎士と見習いの全員が入れるほど、広くない。
立ち会いなしでは〝竜の試し〟とは言えない。
田舎の小さな騎竜騎士団でも、竜王国の騎士団には変わりない。
団規を曲げて、外に知られたら困る、とでも考えたのだろう。
ヒデランテ竜王国の誉を汚す行為だ。
たとえ副長でも、許されることはないだろう。
折れそうだった俺は、この数日で変わった。
俺の心の在り方を変えたのは、あの美しい黒い竜だ。
怖気の振るう生き物だった。
その姿は美しいはずなのに、不穏だった。
毒々しさを感じた。
思い出すと、胸が震える。
清廉潔白であろうと努力してきたことを、恥じたりはしない。
けれど、実直でしか無かったからこそ、俺はつけ込まれたのだ。
気に入らない。
そう、口に出すべきだったのか。
たとえ、それが周囲にあわせた鬱憤ばらしでしかなくても。
「副長、複数人の立ち合いが無理ならば、本日の〝竜の試し〟は不履行ではありませんか」
まるで考えてきたように、すらすらと台詞が口から出てくる。
いいや、実際に考えておいた。
孤児の俺に礼節を教えてくれる者などいなかった。
だから俺は、金満家を自慢していた見習いたちとすすんで会話をして、言動を覚えた。
内向きの時、外向きの時でなにが違うのか、どうふるまうのか、どう話すのか。
相手の立場や年齢、性別に肩書きに対してどう返すのか、なにを見せて、なにを隠すのか。
八年も続けたそれを実践すれば、それなりに上に対するっぽい態度らしくなる、というわけだ。
「……そう、だな」
苦渋に満ちた、憤りを隠せない表情ながら、副長は頷いた。
よし、これで今日の試しは無くなった。
帰りに退職届を出して、そのまま街の反対側に引っ越す予定だ。
ほ、と俺が安堵の息を隠しきれずに吐いた次の瞬間。
ぎぎゅるおおおおおっっっっ
空を震わす叫声が、落ちてきた。
途端に、竜舎の中で息をひそめていたらしい地竜たちが暴れ出す。
恐慌にかられて、壁に体当たりを繰り返し、地を踏み鳴らし、みしみしと崩れそうな音が聞こえてきた。
「……!」
言葉にしたいことはたくさんあったのに、声にならなかった。
ぬるりと光る黒い鱗に包まれた頭が、おれの前に差し出されていた。
黒々とした長大な皮膜を広げて、空中に浮かぶ〝竜〟の頭が。
〝竜の試し〟のように、差し出されている。
「……俺を、乗せてくれるのか?」
おずおずと差し出した手が、つるりとぬめつく鱗に触れる。
ぴりぴりと指先が痺れて、目の前が真っ白に発光した。
くるぅぅぅおおおおおおっっっ
地も建物も震わせるほど低いそれは、歓声だった。
なにが起きてこうなったのか、さっぱり分からない。
だが、幸せだ。
『んぅうっ……うう゛っ……ぅあん゛ん゛っ』
「はっ……はっ……っぁ、っ」
気がつけば俺は、竜に豪華絢爛な部屋に連れ込まれていた。
抱えられて空を飛んだところまでは覚えているが、恐怖で気絶したらしい。
金彩で飾られて七色の絵が描かれた壁や、ツルツルに磨かれた石の床に囲まれている。
そんなとんでもない部屋の中で、俺はうつ伏せで下半身だけ持ち上げた竜の尻に、自分の陰茎を叩き込んでいた。
目の前で、ばさばさと中途半端に開かれた皮膜が揺れる。
困った。
ものすごく、気持ちいい。
これって、困ったことだよな?
数えるほどしか、娼館に行ったことがない。
今なら、強引にでも連れていかれたのは、都合の良い存在として取り込みたかったからと分かる。
経験が少ないから、腰を前後に振ることしかできない。
俺が尻に力を入れて腰を押し付ける動きにあわせて、甘い悲鳴があがる。
つやつやと光る鱗から滲む体液が、窓から差し込む陽光に青白い炎を灯す。
燃え尽きれば、新しい炎が灯る。
きれいだ。
でも。
こいつ、あれだよな、あの巨大な竜だよな、ものすごく縮んでないか?
どうなってるんだ、幻か?
さっきまで、全く気にならなかったけど、やっぱりおかしいよな。
ほとんど衝動任せに手を伸ばして、竜の腰、たぶん腰だと思う場所をつかむと、竜が仰反るように長い首を伸ばして、喜びの悲鳴を上げた。
『ぁああ゛あ゛っ、のばなちゃんんんっ』
「っ、はぁっ、はっ……っんんっ!」
悲鳴と同時に、根元まで熱に包まれている陰茎が、ぎゅ、ぎゅ、ときつく抱きしめられた。
搾り取るようにひくひくと震えた。
気持ちよさで真っ白になって、腹を冷たい鱗に押し付けて射精する。
腰を揺らして、何度も噴き出す精を注ぎ込む。
気持ちいい、すごい、竜だからなのか、こんなにすごいなんて。
自分の手とぜんぜん違う。
娼婦の中より、気持ちいい。
『あっ、でてるぅ……あぁ、私のなかに……うれしぃ、っすきぃ』
縮んだ陰茎を、黒い鱗に覆われた尻の中から引き抜く。
地竜を世話する時の癖で、つぶれたように床に伏せる竜の姿を観察した。
……なるほど、やっぱり雄だよな。
始める前は無かったから、陰茎に骨があって、腹の中から押し出されてきたんだよな。
雌の竜の股間に、男性器に似たものがあるなら、雌の可能性もあるのか?
無難にこいつが雄だと仮定して。
竜の生殖には詳しくないけど、俺が突っ込んだのは女性器では無いだろう。
尻の穴だろうな。
そうか、俺は雄の竜相手に腰を振ってしまったのか。
あんまり驚いてないのは、なんでだ。
陰茎でかいな。
床に垂れてるのは、竜の精液か?
ああ、尻の穴の周りには鱗がないな。
なるほど、皮膚まで黒いな。
ぬるんと抵抗なく抜けた後の穴は、俺ががむしゃらに腰をふったからなのか、そういうものなのかは知らないが、わずかに口を開いていた。
ひく、ひくと動いて。
少しだけ見える中の肉はねっとりと赤くて、見ていると、ぱくぱくと動いて、とろとろと白濁液が垂れてきた。
えろい、すげーえろい。
たまんない。
もう一回、したい。
そう思った時には再び勃起していたから、もう一度、先端を穴に寄せた。
竜だとか、雄かもとか、どうでも良くなっていた。
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