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番外編

42ー妃 SS 自己嫌悪するおれ

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「おはようございますっ」

 可愛くて高い声。
 ふわふわの白銀の髪が、走る動きにあわせて揺れる。
 ふっくらした真っ白い顔には、幸せそうな満面の笑み。

 とことことおれと兄の前に来て、付き従う教育係と護衛を下げてから、笑顔でおれたちを見上げる子供。

 この子はこの国の現在の第一王子である、ディジェテ。
 七歳になったばかり。

 兄とおれの子供ではない。
 歳の離れた弟だ。

 さいしょうさんに教わったんだけど、おれは子供を産めないって。
 兄の子供なら、きっと世界一可愛いのに。
 すごく残念だ。

「おはよう、ディー」
「……おはよう」

 兄のきらきらでほんわかした微笑みに、幼くて愛らしいディジェテが頬をばら色に染める。
 小さい子供は可愛い、ものだ。

 今日は国王一家が国民の前で手を振る日だ。
 兄が、王家を民に身近に感じてもらおうと決めた祝日。

 そして今日は、第一王子〝ディジェテ〟を国民にお披露目する日でもある。

「おにいさま」

 ディジェテの薄青の瞳は、真っ直ぐに兄に向けられて。
 おれは、それが気に入らなくて仕方ないのだ。

 弟なのに。
 なんで。

 子供って可愛いもの。
 そうやって育児経験のある教師に教わったのに。

 こいつをぜんぜん可愛いと思えない。

 それがおれの最近の悩みだ。
 誰にも知られたくない。

 おれ、なんでこんなふうに思うんだろう。
 ディジェテがきらきらの瞳を兄に向けるたびに、可愛らしい声で「おにいさま」と口にするたびに。

 細い首をへしおってやりたくなる。

 最低だ。
 弟なのに。

「スノシティ」
「……はい」
「調子が悪いの?」
「ちょっと疲れただけ」

 こんな醜い気持ちを、兄に気がつかれたくない。
 だから、おれはディジェテを見ない。
 近づかない。

 初めてディジェテが産まれたと話を聞いた時は、兄がおれを愛してくれたようにおれも弟を可愛がるぞーと思ってた。
 気合を入れてた。

 それなのに、初めてあの子が乳母につれられてやってきた時。
 三歳になったばかりのディジェテが、兄を見て嬉しそうに微笑んだ、その瞬間。

 おれは、自分の中にある、これまで知らなかったどろどろしたものを知ってしまった。
 最低だ。

 兄の笑顔は俺に向けるものと同じに見える。
 きらきらでほんわかして、すごく優しい。

 やだよ。
 おれ以外に笑いかけないで。
 仕事用の笑顔にしてよ。

 そう考える自分が、嫌いだ。

「スノシティ」
「あ、兄上?」

 急にかかった重たさに気がつけば、兄がおれを正面から抱きしめてくれていた。
 腕は背中まで届いていないけれど。

「休まないと疲れが取れないよ」
「はい」

 兄はディジェテを次期国王として育てるため、何人もの教育係をつけて、自分の執務室への入室も許している。

 ディジェテが来る日は、おれは兄の執務室に行かないことにしてる。
 だって、兄が弟を可愛がる姿を見たくないから。

 おれだって弟を可愛がるつもりだったのに。
 なんで?
 兄を見てほほを染めるディジェテが、憎くて仕方ない。

 弟なのに。
 可愛がれないなんて。
 おれ、すっごく格好悪い。

 
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