異世界帰りの僕が100人斬りの勇者だなんてまだ誰にも知られていない ~帰還した元勇者の爛れたラブコメディ~

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ダズンローズの花束

これ、中ボス戦だ。

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| 藤堂 京介


 放課後、享和きょうわ駅に向かって一人、歩いていた。

 永遠とわちゃんと対面するには一人が良かったからみんなには先に帰ってもらった。


 釘の彼女の正体が割れた今、『恋アポ』は意味がなくなった。というか男はやっぱり登録出来なかった。だから中に入れず、閲覧出来ない。アイコンから先に進めないから何の意味もない。恋アポ男バージョンはなかったのだ。

 愛香達も特に何も教えてこなかった。僕も永遠ちゃんのことが気になって聞くどころではなかった。屋上でのユニットプレイにそれどころではなかった。

 違くて。

 そう、過去ときちんと向き合ってピロートーク真っ最中のマコト-ライト-ヤマト-レン-シンジ-ターちゃんくんに僕も負けてられないんだ。


 僕も────過去と向き合わないと。





 ところで。

 うちの享和高校は偏差値的には割と上位にあるにも関わらず、何というか、チャラいと世間には思われている。

 制服はブレザースタイルで、生徒の着こなし方はザ、標準が七割。残りは着崩したり、サイズを弄ったり、重ね着したりしている。この三割がまあまあチャラいせいで全体的にそんな印象を持たれているそうだ。

 校則が割と緩いので、チャラくしようとすればどこまででもいける。

 濃い紺色のブレザーの下に淡い淡いブルーのシャツ。細かいチェック柄のチャコールグレーのパンツ。
 女子は同色同柄のスカートで、男女共に茶のローファーが推奨されているが自由だ。

 ネクタイは灰色のベースに斜めに細い白のストライプが入っていて、きちんと着ると結構さまになる。もうすぐで半袖ブレザー無しの夏服だ。


 召喚前は制服を作業着として捉えていたから、もちろんアイロンなんてしていなかったし、汚れなどにも無頓着だった。

 でも今はもう違う。毎日魔法によりパリッと綺麗に仕上げてある。


 異世界を経験すればわかるが、向こうでは通常、手織りで布は作られる。服に仕立てるのにミシンなどない。針子による手縫いだ。

 穴が開けば補正し、魔法に長けた人がいればリペアしてくれる。洗浄の魔法だってある。だから大事に着ることが前提で、古着が主体だ。

 産業革命が入り込む余地はないのだ。

 だから質素、と言えばそれまでだが、位階を上げると人間的な魅力は増す。だから貴族や王族は別として、平民にはそんなに色とりどりな服で着飾る必要がそもそもないのだ。

 モテたければまずは位階を上げる。

 そんな世界だった。


 だけど、娼館の服はそれはもう豊かだった。

 そう、違う革命はすでに起きていた。まるで女子高制服コレクションみたいな娼館もあった。

 ぜったい過去に召喚されたあいつらだ。

 過去召喚された勇者達の活躍を讃えた部屋が、大教会にはあった。

 勇者の間と名付けられたその部屋には、過去の召喚勇者達の肖像画とお名前プレートと何をやらかしたか書いてあった。そのお名前プレートには和名が多かった。

 だから絶対あいつらだ。

 先輩、ありがとうございます。


 違くて。

 ただ…明らかに大昔の人の名があると思えば、キラキラした名前もあった。もしかしたら召喚される時間は過去であり今であり未来なのかもしれない。

 じゃなくて。


 まあなんでそんな事言ってるのかというと。

 うちの高校の最寄り駅である享和駅の駅前はバスやタクシー乗り場のロータリーがあって結構広い。

 この駅前広場に他校の女子高生がたくさん集まっていた。

 それはまるで制服見本市のような有様だった。

 たしか……『おもひでのアルバム』という娼館だったかな…平民のアレフガルド人の思い出に制服は出てこない。アルバム文化もない。だから絶対あいつらだ。

 先輩、ありがとうございました。

 違くて。


 その駅前で屯している女の子達は全員スマホをガン見していた。

 何か…伝説のモンスター集めかな?

 横目で見ながら通り過ぎようとした時に、その集団の中から声を掛けてきた子がいた。


「藤堂京介、ですわね」


 どこの高校かはわからないが、全体的にベージュ色のブレザースタイルの制服を着ている女の子だった。タイは真紅、靴下は深緑色、茶色のローファーだった。

 背は女子平均と同じくらいの高さで、スタイルは良い。顔立ちは…マスクとメガネでわからないがぱっつんの前髪で、長い茶髪をポニーテールにしている子だった。

 その一声に、スマホを覗き込んでいた女子高生達が一斉に顔を上げ、こちらを見てきた。

なにゆえ?


 ふむ……普通の人族ならば、大量の女子高生に一斉にガン見されれば、目線は逸らし、大量に発汗し、足が震え、心臓とかバクバクするだろう。


 だが、無駄だ。

『おもひでのアルバム』は既に攻略している。女子高に男一人の転校生という謎の設定だ。班分けプレイも攻略済みだ。クラス替えも、特殊な進級テストもだ。もちろん制服をエロい目で見ることも可能だ。

 制服耐性はすでにカンストしている。

 体操服耐性もだ。

 だから、制服姿でキレられようが、迫られようが、大量に湧こうが、勇者には効かないのだ。


 それに……僕はこれを知っている。

 これはクエストの途中によくある横槍かもしれない。真っ直ぐ進みたいのにイライラするあれだ。

 今は永遠ちゃんクエストなのに…

 まあまあ魔王討伐くらいの心境なのに…


 彼女たちの瞳には冒険者達がモンスターを討伐に行く時のような色がチラホラ見える。何かモンスター扱いされる気がしてきたな…

 これは僕宛てだろう……けど、なにゆえ?


「…そうだけど…君は?」

「オークに名乗る名前などありませんの。ついてきてくださるかしら?」


 ほらー。やっぱりモンスター扱いじゃん。最近、これ僕じゃないよね、と思ったらだいたい僕だったからなぁ。

 よし、これでもう鈍感系は卒業だ。

 でも…僕、何かしたっけ? うーん。


 まあ────公平じゃないのはよくないね。


「〝所属と/名前は/なんて/言うのかな?〟」

「グロース女子学院高等部二年、生徒会長の嘉多きた 桔花きっかと申し……は? なぜ……」


 グロース…嘉多…知らないなあ。なんで僕が一方的に知られて…あ、恋アポかも。

 ま、いっか。


「嘉多さんね。で、〝何の/用事?〟」

「あなたを懲らしめる為の舞台を用意しました。灰被り姫と眠らせひ……え、なぜわたくしは…」


「うんうん。これはつまり……」


 数々のクエストをこなしてきた勇者を、あまり舐めないでいただきたい。

 これは────中ボス戦だ。

 いきなり! 永遠ちゃん、は僕も気が重かったし。なんかお腹も重かったし。

 気が効くな……

 そうだ。決して現実から目を背けているわけではないんだ。魔王戦の前にこなしておきたいんだ。


「いいよ。〝案内して/くれるかな?〟」


 中ボスを見繕ってくれるなんて、良い子だなあ。

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