異世界帰りの僕が100人斬りの勇者だなんてまだ誰にも知られていない ~帰還した元勇者の爛れたラブコメディ~

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ダズンローズの花束

ひとみジェンガ

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| 藤堂京介


 嘉多きたさんに案内され、辿り着いたのは…なんか大きな灰色の廃工場の中だった。

 ここらの何棟かは嘉多家の私有地だそうだ。その入り口の壁には等間隔で黒服達が控えていて、なんだか王族との謁見の間を思い出す。


 ここに来る道中、嘉多さんは経緯をペラペラ話していた。まあ魔法でだね。そしてやっぱり恋アポだった。



″恋の使徒アポストル~貴女の初恋探します~″

 それは12人の乙女達による、復讐の為のサイトだった。


 なんでもその12人は幼い頃、初恋の男の子に手酷く裏切られ、元々その子を探すためにと仲間とサイトを立ち上げたらしい。

 なんでもその子はオラオラ系のイケイケボーイだったらしい。

 でも、長くなりそうだったからバッサリ割愛した。

 だってそんなのいっぱいいるんじゃないかな? 元々そんなやつで、現在男娼みたいなやつ四匹もいるし…あ、五匹か。


 運営すれど、なかなか初恋情報は集まらず、その代わりにまあびっくりするぐらいクズ情報が集まってしまい、メインの活動が天誅と初恋探しの二本立てにいつしかなったようだ。

 そしてクズさ加減が酷い事や、低評価10を超えた男は問答無用でこの廃工場にご招待らしい。

 ここには、四辺が高さ3メートル程の金網に囲まれたリングがあった。その周りには既に女子高生達が多数いる。一緒に来た子たちも混ざっていった。みんなパイプ椅子にきちんと座っている。…プロレスかな?


 これが、僕のアイコン+100の子達だそうな。

 いい忘れていたが、皆マスクにメガネだった。多分身バレを防ぐためにと、ついでにここに入るための強制ドレスコードみたいなものなのだろう。女の子に優しいじゃん。

 ただ…100全然超えてると思うんだけど…何かしたっけ? 致したと言えばまだ15人だけど…

 女子高生達は登録時のプロフィールで縛られているのか、はたまた元々お行儀が良いのかわからないが統率がとれていて、シーンと黙って座っていた。


 だが、無駄だ。

 『おもひでのアルバム』のクラス総入れ替え戦は既にクリアしている。好みのクラスを自由に編成出来るあれだ。一人ずつの実力テストに、皆が緊張していて痛いくらい静かだった。それはそうだ。勇者公認特Aクラスに入れれば伝説の蝶になれる。独立も視野に入ってくる。

 違くて。

 そう、オプションで先生にもなれる。そうなれば、やらしい抜き打ちテストも可能だ。

 いや、違くて。


 これ…闘技場の…つもりかな? 

 異世界の闘技場と言えば、ラネエッタ王国名物『生か死か?!ドキドキトキドキころシアム』だ。

 これももちろん過去勇者先輩作だ。

 何が先輩にあったのかはわからないし、何でこんなポップとシリアスが同居したふざけた名前にしたのかもわからないが、この名前に油断すると痛い目に合う。

 円形のコロッセオを模した石造りの闘技場で、グルっと周囲は段々畑のように観客席が配置され、真ん中のメイン闘技場を見下ろす格好だ。境界線は高い壁で隔てられている。

 その高い壁は先輩お手製の高耐魔防壁と高耐魔障壁で保護されていて、その壁に不用意に近づくと、やっぱり先輩お手製の、エフェクトに九割は振った雷の魔法を浴びてしまう。

 食らうとダメージは少ないが、身体が透けて骨が見え、なんとも恥ずかしい感じになる仕様だ。


 そして偶に本物がくる。


 魔王戦まで行った先輩の一撃だ。位階が低いと当たれば普通死ぬ。

 それに位階50以下だとまず脱獄出来ず、絶対に逃がさない意志を感じる造りをしていた。

 神殿騎士達も訓練と称して外貨を稼ぎに行っていた。

 まあ、僕も経験者だ。


「ここは完全防音の世界。助けなど来ませんわよ。あら? くすくすっ…今更ながらに怖気付きましたか」

「いや、そういうんじゃ…」


 困惑というか…これ…ペラッペラッなんだけど…金網ってこんな細かったっけ。
 ああ、そうだ、これが普通なんだ。でも嘘つけないしな…なるべく普通に…普通ってなんだっけ。


「ふんっ、強がっても無駄ですわ。もう遅いですわよ。この中で待っていなさい」

「中…………?」


 リングの中も外も、何だったら廃工場の中も外も特に何にも変わらないんだけど…

 というか全部金網だと出入り口わかりにくいじゃん。どこよ、入口。というかペラペラすぎてどこからでも入れてしまう。もうなんか全部入口に見えてきたな…いかんいかん。

 先輩はちゃんと青と赤のコーナーを派手に作っていた。登場の音楽もだ。

 少しは視覚や聴覚などの五感に訴求し続けた過去勇者先輩のあくなき探究心を見習うといい。

 ただあの雷魔法ルーレットはやめていただきたい。

 死ぬかと思ったし。


「何か言いまし───────」

「とりあえず上からか…」


 少しだけ足裏に風の魔法を纏わせ、金網を静かに駆け上がる。もちろん手を使ってるかのように金網にさらりと添えて。

 てっぺん到着。ほら、金網は無事だ。これでもう脳筋も卒業だ。

 とうっ、シュタ。

 クルリ、ごろん。


 僕は大量の女子高生達にざわつかれながら金網の中、リング中央で涅槃のポーズをしてからキメ顔でこう言った。


「〝ちゃんと/君を/待つよ〟」

「はぃ…そ、そうですか…私を…待ってくださるなんて…安心…しました。はっ、また…その中で後悔してなさい! ん~~横にな・ら・な・い!」


「人に物をお願いする時はどんな態度が適切だと思う?」


 素早く次のステージに進むために、僕はキメ顔でそう言った。


「き~~金網の中で格好つけても無駄ですのよ! いいわ! 姫の到着前に痛めつけておきます! フレディ! アンドレ!」

「お嬢様、本当に良いんですカ? そりゃあんだけライトムービングなんだ。逃げ足はそーとーだろうガ…逆ニ大怪我させるゼ」

「あんな、キュートな男に二人とかいらんでしョ。リングの中は逃げらんねェ。先に行くゼ。少し遊んでやるヨ」


 嘉多さんの癇癪に、壁に配置されていた黒服が動いた。

 つまり。

 これは…おかわり打ち止めタイプ…宝箱はナシ…全員ぶちのめせば壁とか床が開いて次のステージに行けるタイプと見た。

 中ボス戦ならそんなもんか。

 このリング狭いしなー。んー。

 なら───人身ひとみジェンガだな。





 人身ジェンガは元世界のジェンガとは違う。積み上がった時の雰囲気的な話で、僕が名付けた。最後は崩れるというか、燃やすというか。誰も助からないからね。


「よくもマイクを! お前は───ウボァ…」

「サイズは…Mか…ハズレだ…次……うん? 嘉多さ──ん! 次の方─ど─ぞ─。なるはやで──倒れちゃう──」


 このアレフガルド式人身ジェンガには手順がある。挑戦者達の意識を刈り取り、身体を直角座りにさせて右に倒す。次のやつが来たら同じように倒して、クルリと約90度回して中寄せに積む。

 こうすると狭いモンスターハウスや山賊のアジトでも倒した順に積めば邪魔にならない。

 リングの中が手狭だからね。

 足元は雨の日と一緒でぐちゃぐちゃだと嫌なんだ。スッキリさせておきたいんだ。

 高架下の壁面をカメコー生で彩ったのもあくまで戦闘環境作りの一環だ。

 伊達や酔狂ではないのだ。

 ないったらないのだ。

 僕にセンスがなかっただけなのだ。


 人身ジェンガと人身キャンプファイヤーとで迷ったけど、スペースの関係で人身ジェンガにした。

 まあ人身キャンプファイヤーは燃やさなかった事が無いから終わりが見えないってのもある。どこまででも積めそうだし。燃やさないと終わった気にならないし。村とか町とか襲うから積まれ、点火されるのだ。


 嘉多さんの用意した人身ジェンガのサイズはMとL、たまにXLだった。入れ替えないと真っ直ぐ立たないだろ。まったく。最初から指名すればよかった。


 人身ジェンガに話を戻そう。

 横向き直角座りを維持する根性がなく、ダラッと解けそうなら膝裏で両手の指と指を結ぶ。関節が粉々なら可能だ。

 その時は人差し指と小指だけ砕いて結ぶ。全部は面倒だ。

 まあ悪魔のポーズだね。メタルポーズとも言う。

 だからそんなの粉々だ。尻尾である親指は情けで残してやる。


 だが、その際は注意がいる。一回結びではいけない。すぐに手の汗や油で解けるからだ。

 だから外科結び。

 まあ、難しく聞こえるが、何のことはない。クルクルと一回結びを二周すれば良いだけだ。

 アレフガルドにいくら魔法があるとはいえ、緊急の時もある。傷口を簡易に針で縫う時に、固結びだと結び目が団子になりチクチクして地味に痛い。

 だからクルクルと二周に結ぶ。

 なんと、これだけで格段に解けにくくなるの、だ!


 でも…さっきから妙に緩いんだよな…なんで…解けるんだろうか……あ! こいつら手に…ハンドクリームか何か使ってる! …ワックスか?


 何という無茶を……

 指固結びを選ぶとか…解きにくいんだけど、いいの…?…だいたい燃やす時にするんだけど…解く必要のない時のチョイスなんだけど……


 いや、僕は全然良いんだけどさ。

 嘉多さんの責任だし。


 なら、ま、いっか。

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