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恋愛小説家オリビア~ンと仮面編集者ミスターX
しおりを挟むカキカキカキ……。
ああ筆を取る手が止まりません! わたくしは夢中でペンを走らせます。
まさかわたくしにこのような才能があったとは思いませんでした。
恐ろしい。わたくし、自分の才能が恐ろしいですわ。
「ふぅ。これで一通り書き終わりましたわね……」
ふうっと息を吐き、ペンを置きました。
すると、背後から拍手が聞こえてきました。
「素晴らしい。オリビア~ン先生。とても素晴らしい!」
振り返ると、そこにはわたくしの専属編集者であるミスターXが満面の笑みを浮かべていました。
「あら、いつの間にいらしていたんですか? すいません。気付きませんでしたわ」
「いやいや、お気になさらず。オリビア~ン先生の執筆活動を邪魔するつもりはありませんよ。それにしても脅威の集中力だ! まさに天才作家! 百年に一人の逸材!」
「うへへ。もうミスターXはおべっかがお上手なのですから! それほどでもございませんわ」
ミスターXは蝶々の仮面をかぶった少々怪しい人物です。
いつも胡散臭い雰囲気をまとっていて、出会った当初はあまり信用できない人なのではないかと疑っていたのですが今は違います。
彼は間違いなく敏腕の編集者。
もはやわたくしの執筆活動になくてはならない存在となっています。
「いえいえ、本当のことでございます。あなたの才能には感服するばかりですよ」
「うへへ。おだてても何も出ませんよ? それでなんの御用ですか?」
「ええ、オリビア~ン先生の小説『婚約破棄された公爵令嬢の復讐物語』が異例の大ヒットを記録しておりまして、続きを読みたいとの声が殺到しております。それで原稿の進行具合を伺いにきたのですが、心配はいらないようですね」
そう言ってミスターXはわたくしの横に積み上がった原稿用紙の束に目を向けました。
「まあまあ! それは大変光栄なことですわ! わたくしも書いていて楽しいですもの! どんどん読んでくださいまし! いくらでも書けちゃいますわ!」
「おお! では早速読ませていただきましょう」
そう言うと、ミスターXは原稿を手に取り、読み始めました。
そして、すぐにその表情が驚愕に染まりました。
「エクセレ~ント! 素晴らしい! 天才的! いや犯罪級のおもしろさだ! 特にこの王太子がどんどん落ちぶれていく様はなんとも言えない! ああ、もっと欲しい! もっと読みたい!」
「うへへ。しかし、ちょっと刺激的過ぎませんか? ミスターXのアドバイス通りに王太子と男爵令嬢の不幸成分を多めに入れたのですが、やり過ぎかなとも思いますの……」
実は少々迷っているのです。
フィクションであっても、登場人物を不幸にしていいものかと……
「何を言っているんです! オリビア~ン先生! もっと刺激的でもいい位です! それになにより書いていて楽しいでしょう? 書いていて楽しいのが1番ですよ!」
「た、確かに! 楽しいは重要ですね! 目が覚めた気分です! わかりました。わたくしこれからもこの調子で書き続けますわ!」
「素晴らしい! さすがオリビア~ン先生だ! もっともっとこの王太子を苦しめてやりましょう! そうだ、アルコールに溺れて暴力を振るう亭主へと成長させましょう! そのほうが面白そうだ!」
「な、なるほど! さすがミスターX! 悪辣非道! 鬼畜外道! わたくし、俄然やる気が出てきましたわ!」
「もっともっと不幸に! 読者はそれを求めているのです! えいえいおー! えいえいおー!」
「えいえいおーですわ!」
わたくしはミスターXと共に拳を天に突き上げたのでした。
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