神龍の愛し子と呼ばれた少年の最後の神聖魔法

榛玻璃

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第三部 白龍の神殿が落ちる日

魔物掃討1

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 翌日。

 ソルニアへの挨拶もそこそこに、一行は白龍の神殿に向けて出立した。スベリアの谷はダーハート教会から馬車で半日ほど進んだ場所にある。念のため近隣の村に、馬車と共にアレスタとマリカを残し、徒歩で進むことにした。

 ――が。

「アル、大丈夫?息上がってるじゃない」

 先頭を歩くロゼッタが息も絶え絶えなアルバートに気づいて茶化してくる。対するロゼッタは呼吸ひとつ乱れていない。アルバートは肩で息をしながら、無尽蔵かと思える二人の体力に呆れが混じる。

「二人とも……よく平気ですね」

「鍛え方が違うのよ。アルはもっと体力つけないとね」

「これだとロゼッタ王女殿下の方が体力あるんじゃないか?しんどいならおぶってってやろうか?」

 ロゼッタとカイルから口々に言われて、アルバートは引きつった笑みを浮かべるしかなかった。

 同い年の少女――しかも王女と比較されるとさすがに悔しさが込み上がってくる。基本的に神殿の敷地内で箱入りで育ったアルバートにとって、長距離移動は実は今日が初めてに近かった。

「い、いいです!一人で歩けますっ」

「無理すんなって。無駄な意地はられるより、このほうが移動速度も上がるし、天下の神童が肝心な時にバテて神聖魔法撃てなかったら、末代まで語られる赤っ恥だぞ?」

 カイルは軽口を叩きながらも、アルバートの方へ向き直り背中を向けてしゃがみ込んだ。

「え……あ……」

「ほら」

 戸惑いを見せるアルバートに焦れたのか、カイルが催促する。背中から漂う圧力に耐えかねて、仕方なく恐る恐る背中に乗っかった。不甲斐なさと肩車された苦い記憶を思い出して、頬が朱に染まる。

「あの、ありがとうございます」

「おう」

 カイルはそのまま立ち上がる。想像以上に安定感があって驚いた。鎧の重々しさを感じさせないほどだ。

「な?だから言ったろ?」

「すごい……」

 思わず感嘆の声を漏らすと、カイルは得意そうに笑った。その振動で少し体が揺れる。
 カイルはひょいとアルバートを背負い上げると、軽い足取りで歩き出した。その速度は歩くよりずっと早く、いつもの自分の歩行速度とさほど変わらない。

「基礎体力の差は仕方ないわ、アル。私たちは有事で国を守れなかったらいけないから日々鍛えているけど、神官であるあなたの本分は戦闘ではなく祈りだもの」

 戦うことに迷いのないロゼッタの瞳はいつだってまっすぐだ。そこに溢れんばかりの覚悟を感じて眩しさを覚える。

(こんな人だから、みんな彼女のことが好きなんだろうな)

 アルバートはロゼッタの気高さに感服する。同時に、自分の情けなさを痛感した。

(神龍の愛し子としてじゃない、俺自身の役割ってあるのかな)

 考えながらふと空を見上げると、木々の隙間から爽やかな青空が見渡せた。そこに浮かぶ雲と空を舞う鳥の群れを眺めながら、アルバートはひとりごちる。

 神龍の愛し子として生まれ、生きてきた。その役割に甘んじて、自分の意思で何かを決めたことなどあっただろうか。
 もし自分が神龍の愛し子としての力を失ったのなら、自分を必要としてくれる人はどのくらいいるのだろうか。

「アル?」

 ロゼッタが不思議そうにアルバートの顔を覗き込んできた。アルバートは我に返ると慌てて笑顔を作る。

「あ、いや。綺麗な鳥が飛んでるなって」

 取り繕うように言うと、ロゼッタは明るく笑った。

「ふふ、確かにね。私も鳥は大好きよ。籠の鳥じゃない、自由に空を舞う鳥はいつだって美しいもの。どうしてだと思う?」

「え?」

 唐突な質問にアルバートは首を傾げる。ロゼッタは悪戯っぽく笑ったまま続けた。

「自由な鳥が美しいのは、その翼が風を受けて羽ばたき、空を駆けることができるからよ。生きるために、残酷なことも、そうじゃないこともひっくるめてそうするの。そのエネルギーが美しい輝きとなって私たちの目に留まるんだわ。人間も同じよ」

「え?」

「人は納得できない宿命に抗うものよ。その運命を変えるために、戦っているの。その時の輝きはとても美しいわ」

 ロゼッタの言葉にアルバートは思わず息を呑んだ。彼女の言葉はまるで自分の心を見透かしているようでドキリとする。

「さ、世間話はこれくらいにして、先に進みましょ!」

 ロゼッタは明るく言うと、アルバートに回した手の力をぎゅっと強めた。
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