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第四部 最後の神聖魔法
私刑
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夜、教会の寝静まった時間。牢の扉が開かれ、石畳を踏む音が聞こえてきて、アルバートは硬い寝台の上で目を覚ました。もとより、寝心地の悪い寝台では身体の痛みが気になってしまって満足に寝付けない。浅い眠りの中にいたアルバートは来訪者にすぐに気がついた。
「誰?」
アルバートは身体を起こし、扉の方を見た。そこには、深くフードを被った人影が佇んでいた。修道士のようだったが、面識はなく、教会関係者の中でも見た事が無かった。
「これより、魔族に組した貴様を断罪する。我らが神を穢した罪、その身を持って償うが良い」
修道士はそう宣言すると、鋭い眼光がアルバートの瞳を捉えた。その目は言葉とは真逆で、脅す素振りはまるでない。しかし光のないその瞳を見て、アルバートは嫌な予感がして、身体を硬直させた。
蒼白する彼を見て、修道士は可笑しそうに笑う。そして、彼は細長い針のような棒を持ち、それをアルバートの腕に打ち込んだ。針は肉を貫き、身体を貫通して寝台に刺さる。
修道士は残忍な笑みを浮かべて針の刺された腕を蹴った。その衝撃で床に縫い止められた身体が左右に動き、傷口が抉れて激痛が走った。
「う……ああぁぁっ」
「痛いか?その痛みはお前が魔族の甘言に耳を貸し、神殿を堕とした罰だ」
――私刑だ。アルバートは直感的にそう思った。ダーハート教会は白龍シュカを祀る教会だ。その神体がある白龍の神殿が惨劇に見舞われ、白龍もまた消えたとなれば、彼らにとっては由々しき事態だったのだろう。
「あ、がっ」
修道士は針を抜き取ると、アルバートの傷口を靴底で踏みにじる。骨の折れる音がして、激痛に視界が霞んだ。
刺された箇所を中心に、徐々に痒みが広がっていく。針には何か薬物が塗られていたようだ。その痒みはやがて耐え難い痛みへと変わり、アルバートを苛んだ。
「はぁ! はぁ! うああぁ……!痛い………いたい………っ!!」
全身から汗が吹き出し、心臓の鼓動が早くなり、彼は荒く呼吸を繰り返す。
「どうだ、苦しいだろう」
修道士が尋ねるも、彼は答えられる状況ではなかった。奔流のように訪れる熱と痒みに全身に脂汗を浮かべて身悶えるだけだ。
言葉にならない悲鳴を上げるアルバートに構うことなく、修道士は蹴りを入れた。脇腹に衝撃が走り、勢いで身体が捩れた。
修道士は再び針を構えると、傷のない別の部分に突き刺した。そして体内を掻き混ぜるかのようにぐりぐりと針を動かす。
それを何度も続けた。その度にアルバートは絶叫し泣き叫んだ。誰にとなく許しを乞うた。しかし彼の願いは聞き入れられることはなく、修道士たちの手は止まらなかった。それどころか徐々に激しさが増しているようにすら思えた。
「お許し……、ください……!!」
絶叫と絶叫の僅かな合間にアルバートは力無い声を漏らした。喉が潰れてしまったようで声が掠れてまともに言葉にならない。アルバートは息も絶え絶えな状態で声を絞り出した。相次ぐ絶叫により喉は潰れ、声は枯れて、息を吐くような小さな音しか出なくなっていた。渇きが酷く、無理に声を出そうとすると喉の奥に痛みが走った。
彼は激しく咳き込んだ。目は焦点が定まっておらず、表情には生気がない。疲労困憊といった様子で身体を震わせていた。
もう許しとくれと、彼は懇願の目を修道士たちに向けた。しかし彼の願いが聞き入れられることはなかった。
修道士はニヤリと笑ってみせた。
「安心しろ。まだ終わらん」
その言葉を聞いた瞬間、彼は絶望に顔を歪ませた。
「やめ……て、ください……もう、無理です……」
アルバートは涙ながらに訴えた。しかし修道士たちは聞く耳を持たず、彼の身体に針を刺した。傷口から血が飛び散り石の床を濡らし、徐々に意識が遠のいていく。荒い呼吸を繰り返し、肩を上下させる。そのたびに刺された針からひきつるような痛みが彼を襲うが、朦朧とした意識ではその痛みを感じることはできなかった。
「あ……ああ」
アルバートの意識はそこで途絶えた。
◆
世界に夜の闇が降り、空に瞬く星々だけが世界を照らす光源となる夜。誰もが寝静まり、静寂に包まれた教会をロゼッタは一人歩いていた。何となく寝付けなかったのだ。
本来、王女たるもの護衛の騎士もつけずに深夜にで歩くのは望ましくない。しかし、一人夜の散歩をすると心が落ち着くから好きだった。
外に出ると、辺りはしんとしていて、静謐な雰囲気を醸し出していた。真夜中の教会は昼間とはまた違う顔を見せていて、ロゼッタはその幻想的な佇まいに目を奪われる。教会に来る時は昼間が多かったため知らなかったが、月明かりに照らされた教会はひどく美しいものだと感じた。
ロゼッタは礼拝堂に足を踏み入れると、そこに祀られた少女の石像に目を向ける。ほんの半年ほど前、雪華の儀が執り行われ、堂々たる装いで神事を執り行ったアルバートの姿が目に焼き付いて離れない。あの時は未来でまさかこんなことになるなんて思いもしなかった。
「……シュカ様。あなたはなぜ消えてしまったの?」
ロゼッタは石像に近寄り、そっとその表面に触れた。ひんやりとした石の感触が指先に伝わるが、どこか温かみを感じるのは気のせいだろうか。
「アルは神殿を失い、父を失って、その上神聖魔法も失ったわ。シュカ様は何故アルにここまで非情な試練を与えるの?」
ロゼッタは石像の足元に跪くと、その小さな石の手を取る。そして祈るようにその手を額に当てて目をつぶった。
――にゃあ。
その時、猫の愛らしい鳴き声が聞こえて、ロゼッタは顔を上げた。
「誰?」
アルバートは身体を起こし、扉の方を見た。そこには、深くフードを被った人影が佇んでいた。修道士のようだったが、面識はなく、教会関係者の中でも見た事が無かった。
「これより、魔族に組した貴様を断罪する。我らが神を穢した罪、その身を持って償うが良い」
修道士はそう宣言すると、鋭い眼光がアルバートの瞳を捉えた。その目は言葉とは真逆で、脅す素振りはまるでない。しかし光のないその瞳を見て、アルバートは嫌な予感がして、身体を硬直させた。
蒼白する彼を見て、修道士は可笑しそうに笑う。そして、彼は細長い針のような棒を持ち、それをアルバートの腕に打ち込んだ。針は肉を貫き、身体を貫通して寝台に刺さる。
修道士は残忍な笑みを浮かべて針の刺された腕を蹴った。その衝撃で床に縫い止められた身体が左右に動き、傷口が抉れて激痛が走った。
「う……ああぁぁっ」
「痛いか?その痛みはお前が魔族の甘言に耳を貸し、神殿を堕とした罰だ」
――私刑だ。アルバートは直感的にそう思った。ダーハート教会は白龍シュカを祀る教会だ。その神体がある白龍の神殿が惨劇に見舞われ、白龍もまた消えたとなれば、彼らにとっては由々しき事態だったのだろう。
「あ、がっ」
修道士は針を抜き取ると、アルバートの傷口を靴底で踏みにじる。骨の折れる音がして、激痛に視界が霞んだ。
刺された箇所を中心に、徐々に痒みが広がっていく。針には何か薬物が塗られていたようだ。その痒みはやがて耐え難い痛みへと変わり、アルバートを苛んだ。
「はぁ! はぁ! うああぁ……!痛い………いたい………っ!!」
全身から汗が吹き出し、心臓の鼓動が早くなり、彼は荒く呼吸を繰り返す。
「どうだ、苦しいだろう」
修道士が尋ねるも、彼は答えられる状況ではなかった。奔流のように訪れる熱と痒みに全身に脂汗を浮かべて身悶えるだけだ。
言葉にならない悲鳴を上げるアルバートに構うことなく、修道士は蹴りを入れた。脇腹に衝撃が走り、勢いで身体が捩れた。
修道士は再び針を構えると、傷のない別の部分に突き刺した。そして体内を掻き混ぜるかのようにぐりぐりと針を動かす。
それを何度も続けた。その度にアルバートは絶叫し泣き叫んだ。誰にとなく許しを乞うた。しかし彼の願いは聞き入れられることはなく、修道士たちの手は止まらなかった。それどころか徐々に激しさが増しているようにすら思えた。
「お許し……、ください……!!」
絶叫と絶叫の僅かな合間にアルバートは力無い声を漏らした。喉が潰れてしまったようで声が掠れてまともに言葉にならない。アルバートは息も絶え絶えな状態で声を絞り出した。相次ぐ絶叫により喉は潰れ、声は枯れて、息を吐くような小さな音しか出なくなっていた。渇きが酷く、無理に声を出そうとすると喉の奥に痛みが走った。
彼は激しく咳き込んだ。目は焦点が定まっておらず、表情には生気がない。疲労困憊といった様子で身体を震わせていた。
もう許しとくれと、彼は懇願の目を修道士たちに向けた。しかし彼の願いが聞き入れられることはなかった。
修道士はニヤリと笑ってみせた。
「安心しろ。まだ終わらん」
その言葉を聞いた瞬間、彼は絶望に顔を歪ませた。
「やめ……て、ください……もう、無理です……」
アルバートは涙ながらに訴えた。しかし修道士たちは聞く耳を持たず、彼の身体に針を刺した。傷口から血が飛び散り石の床を濡らし、徐々に意識が遠のいていく。荒い呼吸を繰り返し、肩を上下させる。そのたびに刺された針からひきつるような痛みが彼を襲うが、朦朧とした意識ではその痛みを感じることはできなかった。
「あ……ああ」
アルバートの意識はそこで途絶えた。
◆
世界に夜の闇が降り、空に瞬く星々だけが世界を照らす光源となる夜。誰もが寝静まり、静寂に包まれた教会をロゼッタは一人歩いていた。何となく寝付けなかったのだ。
本来、王女たるもの護衛の騎士もつけずに深夜にで歩くのは望ましくない。しかし、一人夜の散歩をすると心が落ち着くから好きだった。
外に出ると、辺りはしんとしていて、静謐な雰囲気を醸し出していた。真夜中の教会は昼間とはまた違う顔を見せていて、ロゼッタはその幻想的な佇まいに目を奪われる。教会に来る時は昼間が多かったため知らなかったが、月明かりに照らされた教会はひどく美しいものだと感じた。
ロゼッタは礼拝堂に足を踏み入れると、そこに祀られた少女の石像に目を向ける。ほんの半年ほど前、雪華の儀が執り行われ、堂々たる装いで神事を執り行ったアルバートの姿が目に焼き付いて離れない。あの時は未来でまさかこんなことになるなんて思いもしなかった。
「……シュカ様。あなたはなぜ消えてしまったの?」
ロゼッタは石像に近寄り、そっとその表面に触れた。ひんやりとした石の感触が指先に伝わるが、どこか温かみを感じるのは気のせいだろうか。
「アルは神殿を失い、父を失って、その上神聖魔法も失ったわ。シュカ様は何故アルにここまで非情な試練を与えるの?」
ロゼッタは石像の足元に跪くと、その小さな石の手を取る。そして祈るようにその手を額に当てて目をつぶった。
――にゃあ。
その時、猫の愛らしい鳴き声が聞こえて、ロゼッタは顔を上げた。
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