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第四部 最後の神聖魔法
介抱
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「ロゼッタ様……その子供は魔族の力を……!!」
「落ち着いてください。あれはただの精霊魔法です。もっとも……私も初めて見たので断言はできませんが。魔族固有の魔法はもっと精神攻撃が主体ですから、あのような直接的な攻撃は、彼らはあまりしてきませんよ」
修道士は怯え切った表情でアルバートを指さす。それを諫めるようにロゼッタは首を横に振った。
「それよりも、あなたは何故彼に手を出したのです?彼の処遇はすでに皇帝陛下が決定されています。私刑は重罪です」
「あなた方は白龍様を貶めたあの子供を許すおつもりか!」
「――やめなさい、クーゲル」
声を荒らげる修道士、クーゲルを落ち着いた声で諫めたのはソルニアだった。
「神の教えを説く我らにとって神を祀る神殿は崇高なもの。それを穢され憤る気持ちはわかります。ですが、だからと言って私怨で人を裁くのは異端の考えです」
「しかし……!」
食い下がろうとするクーゲルをソルニアは睨みつける。その視線に気圧されて、彼は閉口した。
「ソルニア様、この子は治療が終わるまで私に任せてもらって構いませんね?」
「ええ、もちろんです。ただし……教会は神官としての責務を全うできなかった彼を決して許すことはできないでしょう。それはお忘れなきよう」
ソルニアの忠告にロゼッタは頷く。
「ええ、もちろんです。私は彼の監視役としてここに派兵されています。今回は皆さんに危害がおよびそうでしたので仲裁に入りましたが、本来であれば傍観するのが陛下の命。ここで起きるすべてのことが彼への裁きです」
ですが、と彼は付け加え、クーゲルを睨んだ。
「弱者を虐げて喜ぶのは下衆のすることでしょう。神に祈りを捧げ、民衆を導くあなた方はそんな低俗な存在ではないはず」
そう言うと、ロゼッタはアルバートを寝台に寝かせ、クーゲルとソルニアに退室を命じた。
白猫はアルバートを労るようにぺろぺろと顔を舐める。その様子を見て、ロゼッタは困ったように眉を下げた。
「貴方も彼が好きなのね」
優しく猫をなでるが、猫は一向に舐めようとするのをやめない。仕方なくロゼッタはそのままにしておいた。
(それにしても……あの力が精霊のものだとして、アルの暴れ方が尋常じゃなかったわ)
脳裏に焼き付いた彼の姿。大人でも恐怖を感じるだろうその形相を思い出すと、ロゼッタは心臓を締め付けられるような思いになるのだ。
(……アルのあんな顔、初めて見た)
アルバートはいつだって穏やかで優しい笑みを浮かべていた。しかし、あの一瞬に見せた顔は、そんな印象とは真反対のものだ。
ロゼッタは白猫を抱き上げると、その小さな身体をぎゅっと抱きしめた。
「ロゼッタ様」
扉の向こうから退室したはずのソルニアの声が響く。ロゼッタは我に返り、慌てて猫を膝の上に置くと「どうぞ」と返した。
扉が開き、ソルニアが部屋の中に入ってくる。
「先程はクーゲルが失礼しました。信仰の厚さゆえに犯した過ち、どうかお許しください」
「いえ……それで、改まってどうされたのですか?」
ソルニアはベッドに横たわるアルバートを覗き込むように見ると、その痩けた頬にそっと触れた。壊れ物でも扱うかのように優しくなでると、彼は眉根を寄せた。
「……この子の具合はどうですか?」
「命に別条はないでしょうが、怪我が酷いですから、しばらくは目覚めないかと――あ、こらっ、舐めちゃダメ!」
白猫がロゼッタの腕をすり抜けてアルバートに駆け寄ると、その傷口を舐め始めた。ロゼッタは慌てて止めに入る。
しかし猫は全く意に介さずに傷口を舐め続ける。思わずソルニアに目を向けると彼はにっこりと微笑んでいた。
「私が言う資格など無いのですが、この子には多くの才があります。神聖魔法だけではない。神官でなくても、神龍の愛し子でなかったとしても、どこかで必ずその頭角を表したでしょう。ここで終えるなど勿体無い。惜しいものです」
ソルニアは笑みを深めると白猫を撫でようと手を伸ばす。しかし白猫はソルニアを睨むと、威嚇するようにしゃーっと声を荒げ、毛を逆立てた。
「私は彼女に嫌われているようですね」
「彼女?」
「あ……いえ、この猫は雌に見えたので」
ソルニアはうっかりと口を滑らせたことに焦り、慌てて口元を手で隠した。
しかしロゼッタは気に留めることなく会話を続ける。
「猫は人を選びますからね」
くすりとロゼッタが笑うとソルニアも釣られて笑みをこぼした。しかしすぐにその笑みは消え、彼はアルバートに視線を移した。
「ところで、ロゼッタ様。このままでは結界が壊れます。『白亜の牢獄』も解除し、彼をこのままにして無策でその日を迎えるというのです?」
「アルは昔、神の規則で浄化を使ったことがあるから大丈夫よ。それよりも世界を作り替えるの。誰も犠牲にならなくて良くて、魔族に怯える必要もない、そんな世界を」
ロゼッタの瞳が輝きを増した気がした。
ロゼッタの言葉に呼応するようにアルバートの身体が淡く光り出した。ロゼッタが驚きの声を上げると同時に光は徐々に弱まっていく。そして何事もなかったかのように消えてしまった。
「今のは……」
光が消えた後のアルバートの全身を見てみれば、負っていたはずの傷が無くなっていた。
「にゃあ」
驚愕を浮かべる二人をよそに、白猫は何事もなかったかのように鳴き声を上げた。
「落ち着いてください。あれはただの精霊魔法です。もっとも……私も初めて見たので断言はできませんが。魔族固有の魔法はもっと精神攻撃が主体ですから、あのような直接的な攻撃は、彼らはあまりしてきませんよ」
修道士は怯え切った表情でアルバートを指さす。それを諫めるようにロゼッタは首を横に振った。
「それよりも、あなたは何故彼に手を出したのです?彼の処遇はすでに皇帝陛下が決定されています。私刑は重罪です」
「あなた方は白龍様を貶めたあの子供を許すおつもりか!」
「――やめなさい、クーゲル」
声を荒らげる修道士、クーゲルを落ち着いた声で諫めたのはソルニアだった。
「神の教えを説く我らにとって神を祀る神殿は崇高なもの。それを穢され憤る気持ちはわかります。ですが、だからと言って私怨で人を裁くのは異端の考えです」
「しかし……!」
食い下がろうとするクーゲルをソルニアは睨みつける。その視線に気圧されて、彼は閉口した。
「ソルニア様、この子は治療が終わるまで私に任せてもらって構いませんね?」
「ええ、もちろんです。ただし……教会は神官としての責務を全うできなかった彼を決して許すことはできないでしょう。それはお忘れなきよう」
ソルニアの忠告にロゼッタは頷く。
「ええ、もちろんです。私は彼の監視役としてここに派兵されています。今回は皆さんに危害がおよびそうでしたので仲裁に入りましたが、本来であれば傍観するのが陛下の命。ここで起きるすべてのことが彼への裁きです」
ですが、と彼は付け加え、クーゲルを睨んだ。
「弱者を虐げて喜ぶのは下衆のすることでしょう。神に祈りを捧げ、民衆を導くあなた方はそんな低俗な存在ではないはず」
そう言うと、ロゼッタはアルバートを寝台に寝かせ、クーゲルとソルニアに退室を命じた。
白猫はアルバートを労るようにぺろぺろと顔を舐める。その様子を見て、ロゼッタは困ったように眉を下げた。
「貴方も彼が好きなのね」
優しく猫をなでるが、猫は一向に舐めようとするのをやめない。仕方なくロゼッタはそのままにしておいた。
(それにしても……あの力が精霊のものだとして、アルの暴れ方が尋常じゃなかったわ)
脳裏に焼き付いた彼の姿。大人でも恐怖を感じるだろうその形相を思い出すと、ロゼッタは心臓を締め付けられるような思いになるのだ。
(……アルのあんな顔、初めて見た)
アルバートはいつだって穏やかで優しい笑みを浮かべていた。しかし、あの一瞬に見せた顔は、そんな印象とは真反対のものだ。
ロゼッタは白猫を抱き上げると、その小さな身体をぎゅっと抱きしめた。
「ロゼッタ様」
扉の向こうから退室したはずのソルニアの声が響く。ロゼッタは我に返り、慌てて猫を膝の上に置くと「どうぞ」と返した。
扉が開き、ソルニアが部屋の中に入ってくる。
「先程はクーゲルが失礼しました。信仰の厚さゆえに犯した過ち、どうかお許しください」
「いえ……それで、改まってどうされたのですか?」
ソルニアはベッドに横たわるアルバートを覗き込むように見ると、その痩けた頬にそっと触れた。壊れ物でも扱うかのように優しくなでると、彼は眉根を寄せた。
「……この子の具合はどうですか?」
「命に別条はないでしょうが、怪我が酷いですから、しばらくは目覚めないかと――あ、こらっ、舐めちゃダメ!」
白猫がロゼッタの腕をすり抜けてアルバートに駆け寄ると、その傷口を舐め始めた。ロゼッタは慌てて止めに入る。
しかし猫は全く意に介さずに傷口を舐め続ける。思わずソルニアに目を向けると彼はにっこりと微笑んでいた。
「私が言う資格など無いのですが、この子には多くの才があります。神聖魔法だけではない。神官でなくても、神龍の愛し子でなかったとしても、どこかで必ずその頭角を表したでしょう。ここで終えるなど勿体無い。惜しいものです」
ソルニアは笑みを深めると白猫を撫でようと手を伸ばす。しかし白猫はソルニアを睨むと、威嚇するようにしゃーっと声を荒げ、毛を逆立てた。
「私は彼女に嫌われているようですね」
「彼女?」
「あ……いえ、この猫は雌に見えたので」
ソルニアはうっかりと口を滑らせたことに焦り、慌てて口元を手で隠した。
しかしロゼッタは気に留めることなく会話を続ける。
「猫は人を選びますからね」
くすりとロゼッタが笑うとソルニアも釣られて笑みをこぼした。しかしすぐにその笑みは消え、彼はアルバートに視線を移した。
「ところで、ロゼッタ様。このままでは結界が壊れます。『白亜の牢獄』も解除し、彼をこのままにして無策でその日を迎えるというのです?」
「アルは昔、神の規則で浄化を使ったことがあるから大丈夫よ。それよりも世界を作り替えるの。誰も犠牲にならなくて良くて、魔族に怯える必要もない、そんな世界を」
ロゼッタの瞳が輝きを増した気がした。
ロゼッタの言葉に呼応するようにアルバートの身体が淡く光り出した。ロゼッタが驚きの声を上げると同時に光は徐々に弱まっていく。そして何事もなかったかのように消えてしまった。
「今のは……」
光が消えた後のアルバートの全身を見てみれば、負っていたはずの傷が無くなっていた。
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驚愕を浮かべる二人をよそに、白猫は何事もなかったかのように鳴き声を上げた。
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