神龍の愛し子と呼ばれた少年の最後の神聖魔法

榛玻璃

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第四部 最後の神聖魔法

神龍1

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 マナの光が天空を覆い、巨大な魔法陣を構築していく。それはかつてアルバートが描いたサンドアートの紋様のように、彼の意のままにまるで舞いでも踊るように自在に動く。

 描くのは浄化の魔法陣。その術式はかつてリオルを撃退するために偶発的に発現させたものとまったく同じ術式だ。それにより周囲で襲撃している魔族を一掃する計画である。

 神聖魔法が使えなくなっても、マナを生成する力は失われていなかった。光の粒子は金色の光を伴いながら、まるで金色の雪のようにアルバートの周囲に降り注いでいく。その幻想的な光景に、ロゼッタは息を呑み、カイルも思わず目を奪われていた。

「これが浄化の魔法陣……」

 天空を覆うほどの巨大な魔法陣を見上げて興奮を抑えきれない様子でロゼッタが呟く。降り注ぐ金粉に触れようと手を伸ばすと、マナは淡雪のように溶けて消えた。

「すげぇ……」

 ロゼッタと同じように感嘆の声を上げるカイルも光に目を奪われるかのように顔を上げる。
 アルバートは二人を優しく見つめた後、魔法陣に向かって手をかざした。

『警告。神の規則コードへの接続アクセスを確認。規定外の体系です。実行しますか?』

 金色の粒子に乗って抑揚のない平坦な女の声が響き渡る。事務的で無機質な女の声からは今日も感情は読み取れない。ロゼッタに目配せすると、彼女は緊張した面持ちで起動のための合言葉を口にした。

「ロゼッタ・ファネル・ヴィゼリアスが接続を要求するわ」

 魔法陣はかつて使用したものと同じ構成のため、間違いはないはずだ。発動権限を持つロゼッタが起動させることで魔法が発動する想定だ。

 これが初めての挑戦であるにもかかわらず、失敗は許されない。ロゼッタの宣言とともに、そんな緊張が二人の間を駆け巡る。天に縋る思いでアルバートは空を見上げた。

 女の声が返されるまで、数秒の間。
 たった二、三回呼吸する程度で過ぎ去るはずの一瞬が永遠のように感じられた。

 ふとロゼッタを見やると、彼女の手が小刻みに震えている。アルバートは彼女の細く白い手を包み込むように自らの手を重ねた。特段、冷たくも温かくも感じない手だった。きっと同じくらいの体温なのだろうなと思うと、彼女の中にも、アルバートが今心の内に抱えている緊張が同じくらい存在していると思えた。

『声紋により接続アクセスを許可します』

 永遠のように長い一瞬の後、再び声が降ってくる。その声を聞いた瞬間、二人は同時に歓喜の声を上げて顔を見合わせた。

「やった……!!」

 魔法陣はその光を強めていき、やがて空を覆うほどに広がった光が大地に降り注いだ。それは雨のように魔物たちの頭上に降り注ぎ、彼らの身を蝕んでいく。

 断末魔のような激しい咆哮が響き渡り、魔物は塵となって消滅する――はずだった。



「――ミツケタ」



 地を這うような低い声が響いたと思った矢先、地面が揺れ、突風が吹き抜け、体勢を崩したアルバートの身体がふわりと浮かんだ。

「な、何が……っ!!」
「アル!」

 ロゼッタは慌てて手を伸ばすが、その手はアルバートには届かず空を切る。焦るロゼッタをあざ笑うかのように、吹き抜けた風はアルバートの身体を持ち上げ、まるで紙屑のようにみるみる上空に運んでいった。

「なんだ……?」

 アルバートとともに巻き上がった粉塵で視界を奪われながらも目を凝らすと、空を見上げると、天空で魔法陣を構成していたはずのマナが形を崩して磁石のように別の場所に吸い寄せられているのが見えた。

 マナの行き先を目で辿ると、大きな巨体がはるか上空を翔けていた。白にも黒にも見える鱗を纏い、大きな翼と太い尻尾、鋭い牙を携えた、不思議な龍だ。ぎょろりとした目がじっとアルバートを見つめていて、目が合うと同時に射抜かれたようにその場にくぎ付けになった。

「まさか……神龍、様……?」

 アルバートを見つめる龍の特徴は、ティーアが教えてくれたものと酷似していた。
 龍は翼を羽ばたかせながら、まるで泳いでいるかのようにゆっくりとアルバートの周囲を旋回し、やがてアルバートの前で止まった。

 龍の周辺だけ無重力空間であるかのように、ぴたりと空中に制止し、じっとアルバートを見つめてくる。

(え――?)

 その龍の視界の囚われた瞬間、アルバートの視界は真っ暗になり、何も見えなくなった。
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