神龍の愛し子と呼ばれた少年の最後の神聖魔法

榛玻璃

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第四部 最後の神聖魔法

戦闘開始2

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 魔物の鋭い爪が振り上げられる。自分を貫く姿を想像して、アルバートは思わず目を瞑った、その時だった。

「アル!!」
 聞きなれた男の声とともにアルバートと魔物たちとの間に大きな影が割って入る。

「え……?」
 想いもしなかった援護に呆けた声が漏れた。

「アル、大丈夫か!?」
 アルバートは声のした方向を振り向く。そこには槍を構えたカイルの姿があった。

「カイルさん!」

「大丈夫か?」

 アルバートは安堵から身体から力が抜けていくのを感じた。そんな彼の元にカイルは駆け寄ると、心配そうに彼の顔を覗き込む。

 カイルはアルバートに手を掴むと彼を立たせ、傷の具合を確かめる。幸いかすり傷程度で、毒などもなかったようだ。血は既に止まっていて、傷自体がほとんど見えなくなっていた。

「お前、相変わらず傷の治りが早いな……」

 怪我がほぼほぼ癒えているのを見て、カイルは呆れたような感想を漏らす。アルバート自身もカイルと同意だったため、返事の代わりに苦笑を返した。
 視線を逸らせると、カイルの持っている武器が目に留まる。アルバートは首を傾げた。

「槍?」

 カイルはいつも剣を腰に提げている印象が強かった。しかし、今は彼の右手には長い槍が握られている。

「ああ、俺は剣より槍派なんだ。室内だと長槍は使えないから剣を使うんだけどな」

 答えながら、襲ってくる魔物を一閃する。その槍裁きは鮮やかで、まるで舞を踊っているかのように優雅だった。カイルは襲ってくる魔物を一瞬のうちに切り裂き、倒して行く。

「すごい……」

 アルバートが五撃の風の刃でどうにか倒していた魔物を一撃で倒す姿に思わず感嘆の声が漏れる。

「お待たせ、アル。浄化の術式、組める?」
 遅れて駆け寄ってきたロゼッタがアルバートに声をかける。

「でも、カイルさんの援護は……」

「対魔物戦は王国騎士の得意分野よ。この程度ならいつも掃討してるし、ここはカイルに任せて問題ないわ」

「わかりました、やってみます。それじゃあその間、お二人に目をお渡しします」

「目?」

 アルバートはそう言うと、精霊に呼びかける。風の精霊が彼の声に答えて青い光を明滅させた。願うことはただ一つ。彼らの視界を借りることだ。それは今朝アルバートが経験したのと同じ魔法だった。

「精霊の視覚情報を送りました。これで敵の位置が掴みやすくなるはずです」

「うそ……っ!?」

「おいおい、そんなことできるのかよ。てか一読で出来んのかよ!?」

 精霊と視界を共有し、彼らの瞳は緑の光を発し始める。
 カイルとロゼッタの視界がそれまで以上に広く、鮮明に映し出された。まるで上空から戦況を俯瞰しているかのように死角がなくなっていく。

「マジでよく見えるわ……アル、ありがとな。助かる」

 カイルはそう言うと、魔物たちの群れの中に身を投じた。

(感謝された……)

 誰かに感謝されたのなんていつぶりだろうとアルバートは記憶を遡る。
 ここに来てからもここに来る前も、神殿で暮らしていた時でさえお礼を言われることはほとんどなかった気がする。

『ありがとう』
 それは遠い記憶。神殿で修業をしていた時の幼い自分が、初めて感謝の言葉をかけられた時の記憶だった。

(ああ、そうだ)

 アルバートは思い出す。あの時も自分は嬉しかったのだ。誰かのために何かができたことが嬉しくて、そしてそれが誰かの笑顔に繋がったことが何よりも誇らしかったのだ。

「ありがとうって、すごく心が温かくなる言葉なんですね」

 アルバートはカイルの姿を目で追いながら呟く。その声はとても小さかったが、彼の言葉にロゼッタは優しく微笑んだ。

「何よ今さら。そんなの当然でしょ」

「ロゼッタ様、やってみたい魔法があるんです。浄化はそのあとでいいですか?」

「え?ちょ、遊びじゃないのよ!?」

「分かってます。でも、俺だって人形じゃないから、言われたことと違うことをしたくなる時もあるんです」

 アルバートはそう言うと、魔物に向かって手をかざした。指先に魔法陣が浮かび上がる。起動方法、威力、射程、その他たくさんの指示を魔法陣の中に書き込んでいく。精霊言語と幾何学模様で構成された緻密な円陣は光の魔法陣として空間に浮かび上がる。そして構築が完了すると、アルバートはかざした手で魔法陣に触れた。魔法陣の中に魔力を注ぎ込む。

 すると、無数の小さな竜巻が彼の周りに出現した。それは徐々に大きくなり、巨大な竜巻へと形を変えていく。竜巻は風を纏い、魔物たちを勢いよく呑み込んでいった。

「すごい……一瞬でここまでできるようになるなんて……」

 アルバートに向かってくる魔物を撃退しながらロゼッタは驚きを隠せなかった。精霊魔法は通常、習得までに十年以上の歳月を必要とする。的確な指導者がいて十年、彼のように独学なら何十年とかかってもおかしくないと思っていた。

 しかし、アルバートの魔法の構築速度と精度の高さには驚嘆するものがある。彼は魔法陣を構築するスピードもさることながら、その発動までにかかる時間が、ロゼッタの知る何倍も短かったのだ。

 アルバートの発動と合わせて、ロゼッタも魔物に斬りかかる。

 ロゼッタが戦っている姿は美しかった。彼女の放つ剣技は、まるで舞を踊っているかのようで、見る者を惹きつける魅力がある。カイルの槍技も素晴らしかったが、ロゼッタの剣技にはまた違った華があった。

「アル、上行くからカバーして!」

「ええ!?」

 予想外の行動に思わず声を上げたのはアルバートだ。ロゼッタはアルバートのサポートを疑うことさえしなかった。彼女は上空に浮かぶ門を破壊するため、鋭い指示と共にアルバートが生み出した竜巻の中に身を投じる。
 そして門の前に到達すると、ロゼッタは持っている剣で門を薙いだ。

「はぁ!!」

 門が形を崩し、まるで霧のように消えていく。それと共に空中に放り出されたロゼッタが落下していく。
 アルバートは再び魔法で風を生み出すと、落下するカイルを受け止め、地上まで送り届けた。

「ナイスカバー、助かったわ、アル」

「無茶しないでください。寿命縮みましたよ……」

 得意気なロゼッタとは対照的に、アルバートは疲労困憊の様相だ。それは魔力消費もあったが、明らかに心労のほうが多くの体力を奪っていた。
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