神龍の愛し子と呼ばれた少年の最後の神聖魔法

榛玻璃

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第一部 神龍の愛し子と神聖魔法

01.神龍の愛し子

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 数十年に一度、世界には瑠璃色の瞳を持つ子供が生まれる。
 自然界に存在するエネルギーをマナと呼ばれる特別な力に変換できるその子供は、神龍が遣わした神の愛し子として、白龍の神殿で大切に育てられるのだ。

 アルバート・グランディアが白龍の神殿に連れてこられたのは、彼が四歳の時だった。

 大陸最北端に位置する小国、シエリア皇国の辺境で生まれた彼は、短い茶髪と北国特有の色白の肌を持つ可愛らしい少年だった。
 その瞳は神龍の愛し子を示す瑠璃色であるが、見知らぬ場所と自分を取り囲む顔ぶれに不安げな表情を浮かべている。

 神官に連れられて神官長室に足を踏み入れた彼は、神官の背に隠れるようにして神官長の様子を窺っている。

「アルバート、こちらに来なさい」

 神官長に名を呼ばれて、彼はおずおずと神官の背後から出てきた。
 神官はアルバートの背をそっと押して、神官長の前に立たせる。

「……っ」

 アルバートは不安そうな表情を浮かべながら、神官長を見上げた。

「私は白龍の神殿を預かるハデス・イルジアスです」

 ハデスが声をかけると、アルバートはびくりと肩を揺らした。
 そしてハデスと目が合うと、またさっと隠れてしまう。
 まるで小動物のような反応に、ハデスは苦笑する。

「怖がらなくて大丈夫ですよ。私はあなたに危害を加えたりしません」

 ハデスは優しく声をかけるが、少年はまだ警戒しているようで神官の後ろから出てこない。

「あなたの名前は何ですか?」

「アル……アルバート・グランディア」

「アルバート。素敵な名前ですね。ご両親からはアルと呼ばれているのですか?」

「……親はいないよ」

「そうですか……では、アルと呼ばせていただきましょう。私のことはハデスと呼んでくださいね」

 アルバートは神官長の言葉に頷いた。

「私の目を見てもらえますか?」

「目……?」

 アルバートは神官の影からハデスの顔を見上げる。

「青い……俺と同じ、目……」

 アルバートはハデスの瑠璃色の瞳に魅入られたように、じっと見つめる。
 彼の無邪気な瞳にハデスは優しく微笑んだ。

「そうです。この瞳は神龍様から寵愛を受けた聖痕スティグマなのです」

「??」

 ハデスの言葉はアルバートには難しかったようだ。聞きなれない言葉にアルバートは首をかしげる。

「ふふ、少し難しかったですね。あなたと同じ瑠璃色の瞳を持つ人間は、神龍様の愛し子と呼ばれる特別な存在なのです」

「とくべつ?」

「そうです。あなたと私は神龍様に愛された人間なのですよ」

 ハデスに優しい笑顔でそう言われ、アルバートは嬉しそうに笑った。

「アル。私はあなたにお願いがあってここに来てもらいました。これから話す内容をよく聞いてください」

 ハデスの言葉に、アルバートはもう一度頷く。
 彼はアルバートの瑠璃色の瞳をまっすぐ見つめて口を開いた。

「私の後継者となって欲しいのです」

「え……?」

「あなたの力は特別だ。神龍様の愛し子として、私の後を継いで欲しいのです」

 ハデスの言葉に、アルバートは驚いたように目を大きくした。
 神龍の寵愛を受けた者は、神龍の神殿で神官となり、神龍に仕えることが定められている。

「俺が……とくべつ?」

 アルバートはハデスに聞く。

「そうです。あなたと同じ瑠璃色の瞳を持つ人間は、神龍様の愛し子と呼ばれる特別な存在なのです」

「とくべつ……」

 アルバートはそう呟くと、嬉しそうに笑った。その反応にハデスも顔を綻ばせる。
 彼はその言葉を嬉しそうに何度も繰り返す。

「そんなこと、言われたことなかった」

 アルバートはにっこりと笑うとまるで宝物を見つけた子供みたいに顔を緩めた。

「大変かもしれませんが、この神殿で決して不自由な想いはさせないと誓いましょう」

 ハデスがそう言うと、アルバートは顔を上げて「うん」と頷いた。

「明朝、皆に紹介をします。今日はゆっくりと休んでください」

 ハデスがアルバートに言うと、彼は嬉しそうに笑って頷いた。
 そしてぺこりと頭を下げると、神官に連れられて部屋を出て行った。

 ◆

 およそ五十年ぶりになる神龍の愛し子の登場は、神殿を大いに賑わせた。
 神龍の愛し子は、アルバート・グランディアといった。
 彼はハデスの後継者として、白龍の神殿に引き取られたのだった。
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