神龍の愛し子と呼ばれた少年の最後の神聖魔法

榛玻璃

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第一部 神龍の愛し子と神聖魔法

14.魔物遭遇2

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「でも、じゃない!無理でもなんでも、やるしかないのよ!!」

 ティーアに一喝され、アルバートは呆けたような表情を見せる。
 叩かれた頬を押さえて彼女を見上げて、アルバートはさらに目を見開いた。
 そこにはティーアの橙色の瞳があった。
 いつも柔らかな笑みをたたえていて、怒ったところなんて見たことがなかった、そんな優しい瞳。
 ――けれど、その瞳が今にも泣きそうに歪んでいて。

(ティーア……泣いてる……)

 その歪んだ目には、溢れそうなほどに雫が溜まっている。

(俺……最低だ)

 アルバートは、自分の不安を彼女にぶつけていることに気づいて、そんな自分自身に恥じた。
 神に選ばれた存在として人々を先導しなければならないはずの神龍の愛し子が、魔物を前にして怯えるだけでまるで役に立たないと知った絶望と失望は、どれほどのものだっただろう。
 抱えきれないほどの不安を押し付けられて、誰の助けを借りることもできない恐怖はきっと計り知れない。
 けれど彼女は自分の不安とアルバートが感じている不安の両方を受け止めて、それでもなお諦めていないのだ。抗おうとしているのだ。

(ティーアはかっこいいな)

 その強さにアルバートはただただ憧憬した。そして自らを振り返り、唇を噛む。
 それに比べて自分はどうだろう。
 ただ泣くだけで、ティーアに縋るだけで、何もできていない。
 弱いから?力がないから?

(――違う。俺は守られることを当たり前にしてしまっていたんだ)

 アルバートは拳を作り、それを強く握った。
 そして大きく息を吸って、それを吐き出す。

「ティーアはどうして……それでも戦おうって思えるの?」

 口から出たのは、あまりに間抜けな質問だった。
 彼女は振り返り、そして笑う。

「戦う?違うわ。怖いわよ。私だって、アルと同じですごく怖い。けど目の前で大事な人が怪我をしたり死んでしまって、何もしなかったことを後悔するのは絶対に嫌なの」

 ティーアの浮かべた笑みはどこか悲しげで、儚くて、遠い過去を見つめているような目をしていて。
 彼女の表情を見ていると、アルバートも胸が締め付けられるような切なさが込み上がってくる。
 アルバートには、自分が今どんな表情を浮かべているのかわからなかった。しかし、そんなアルバートに構わず、彼女は言葉を続けた。

「それにね、行動しなかったら何も変わらないけど、諦めなかったら、もしかしたらとんでもない奇跡が起きて助かるかもしれないでしょ」

 ティーアはそう言うと、アルバートに手を差し出す。
 彼の目にはその手が神々しいものに見えていて、気づけば反射的に手を取っていた。
 その手を取った瞬間に、パニックを起こしていた思考が洗練されていくのを感じた。視界が明瞭になり、冷静さが戻ってくる。

「ティーア、ごめん。俺……自分が情けないや」

「そう思うなら、この場をなんとかしてよね」

 アルバートは笑った。
 不安も恐怖もすべて吹き飛んで行くのを感じた。今ならなんだってできる……そんな高揚感が湧き上がってくる。
 アルバートは立ち上がると魔物に向き合い、意識を集中させた。
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