神龍の愛し子と呼ばれた少年の最後の神聖魔法

榛玻璃

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第一部 神龍の愛し子と神聖魔法

15.魔物遭遇3

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 アルバートは意識を集中させると、手のひらから光の粒子を放出する。
 それに呼応するように、周囲の草木も光を帯びる。
 草木から放たれた光はアルバートの周りをくるくると回り、手のひらから放出された光の粒子と混ざり合う。

(作るのは障壁だ。高くて大きな光の壁)

 その完成形を強くイメージしながら、アルバートは両手を前にかざす。
 すると、アルバートの周囲を回っていた光の粒子がかざした手の前に集まってくる。
 それを隙間なく整列させ、凝縮させる。

(入れ物をイメージして、その中に光の粒子をぎっしりと詰め込む!)

 ハデスから教わったことを頭の中で繰り返す。
 次第に無数の粒子は一つの物体となって、アルバートと魔物との間に巨大な壁を築き上げる。

「グオォォォォ!!」

 魔物は大きな咆哮を上げながらアルバートに飛びかかってくる。
 魔物の行動は、壁が完成するまでにアルバートを倒す算段のようにも見えた。

「させないわ!」

 ティーアが小さなナイフを魔物の身体に突き刺した。
 傷は浅く、致命傷には程遠かったが、怯ませて時間を稼ぐには十分だった。
 ティーアの狙い通り魔物は後ろに飛び退き、二人と距離を取る。
 光の粒子が巨大な障壁となって二人と獣の間に立ちふさがる。
 障壁が完成するのと同時に、全ての光の粒子がそこに集約される。
 そしてそれは巨大な光の壁となって二人の目の前にそびえ立った。

「できた……!!」

 初めての成功にアルバートは歓喜の声を上げる。
 しかし、まだ油断はできないのだということをすぐに思い知らされた。
 魔物が自らの牙を壁に立ててきたのだ。それが少しずつ食い込み始めるのが見える。

(まだ密度が足りてない……?)

 アルバートはさらに光の粒子を放出し、壁に集約させていく。
 その量は先ほどとは比べ物にならないほど多くかったが、魔物はそれを意に介さず食い込み続ける。

(だめだ、破られる!)

 魔物が牙を食い込ませたところを中心に、障壁に亀裂が生じ始める。

「アル!今のうちに逃げるわよ!」

 ティーアの声に焦りの色が滲む。
 彼女はアルバートの手を取ると、魔物に背を向けて走り出す。
 ティーアに手を引かれるようにアルバートも走った。
 二人は魔物から少しでも距離を取ろうと、必死で足を動かした。
 魔物は二人の後ろで何度も障壁に頭突きを加える。
 その度にピシッピシッと音が響き、振り返らなくても障壁に亀裂が広がっていくのがわかった。
 壁はまだ完全に消失してはいないものの、その崩壊が近いのは明白だった。
 何か手を打たなければ――アルバートは思考を巡らせる。
 と――

「あっ……」

 そんなことを考えていたアルバートの身体が突然大きく傾いた。
 次の瞬間には地面に倒れていた。
 アルバートは足元を見る。
 そこには太い木の根が地面から迫り出していた。
 木の根によって隆起した地面に足を取られたのだ。
 膝を少し擦りむいていて、足も捻ってしまったのか動かすと痛みがあった。

「アル、大丈夫?」

「うん、大丈夫」

 アルバートは気丈に立ち上がると、再び足を動かす。
 しかし、片足を引きずりながら動かすその速度は、先程までとは比べ物にならないほどに遅かった。
 背後で魔物が障壁を破壊する音が響く。振り返ると、まるで窓ガラスを割るかのように粉々に砕け散る光の障壁が目に入った。

「ティーア」

 アルバートはごくりと唾を飲み込んだ。
 そして意を決してティーアに向き合った。

「俺は茂みに隠れるから、ティーアはなるべく遠くに逃げて」

 アルバートはそう言うと、茂みの中に入って身を隠す。
 ティーアも、アルバートの負傷した足では逃げきれないことを薄々察していた。
 隠れるほうがまだ生存の確率が上がると思えた。 
「わかったわ」

 ティーアは頷くと、魔物と逆方向に駆け出す。なるべく魔物の注意を引くように彼女は駆けていく。

「こっちよ!私はここにいるわ!」

(ティーア、ごめん)

 アルバートは心の中で彼女に謝りながら茂みに隠れる。静かに目を閉じ、息を殺した。

「ガアァ!!」

 魔物の咆哮が森に響き渡る。
 茂みの中からそっと様子を窺うと、魔物がティーアを追いかけているのが見えた。しかし――魔物がアルバートの前を通過する直前で、その金色の瞳がアルバートの隠れる茂みに向けられる。

(気づかれてる……)

 そんな予感はすぐに的中する。魔物はまっすぐこちらに駆けてきていたからだ。

(どうして……)

 しかし、逃げるにはもう遅く、引きずる足では逃げ切れないことは明白だった。
 絶望に打ちひしがれるアルバートに近づいてくる魔物の足音が聞こえてくる。
 その音が徐々に大きくなっていくにつれ、心臓の音が早くなるのを感じた。
 恐怖で身体が震えてくるのがわかったが、それでも必死に声を殺す。
 魔物はアルバートの前にたどり着くと、大きな咆哮を上げながら彼に飛びかかった。
 ティーアが何かを叫んでいる。
 アルバートは思わず目をつぶり、次に訪れる衝撃に備えた。
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