神龍の愛し子と呼ばれた少年の最後の神聖魔法

榛玻璃

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第二部 雪華の祈り

28.舞

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 アルバートの様子を見ながら、ハデスは彼に伝え忘れていることがあることを思い出した。

「そうでした。来週、ダーハート教会に赴き、雪華の祈りを執り行います。神事はあなたが勤めなさい」

「え、俺が!? ハデス様のほうがいいんじゃないの?」

 アルバートはあからさまに狼狽する。彼にしては珍しい反応に、ハデスは目を瞬かせた。

 雪華の祈りはヴィゼリアス帝国北部にあるダーハート教会で三ヶ月かけて行うマナ奉納の神事である。

 大陸北部は雪深く、厳冬期は例年多くの死者が出るため、北方結界によりその乱天候を緩和させている。結界の維持にはマナが必要になることから、十年に一度雪華の祈りと呼ばれる儀式を執り行い、結界の維持に必要なマナを補充するのだ。

 しかしマナを奉納できるのは神龍の愛し子だけである。ハデス一人だった頃は三ヶ月も神殿を離れるわけにもいかず、白龍の神殿から遠隔で、魔道具を用いた簡易の神事を執り行っていた。今期は珍しく二人いるのだ。現地で正式に執り行うのが筋というものであろう。

 そんな簡単なことはアルバートなら察しているはずだ。何をそんなに慌てる必要があるのか、ハデスには理解ができなかった。

「おや、随分な慌てようですね。嫌なら留守番でも構いませんが、その代わりに三ヶ月間私の仕事をすべて引き受けて白龍の神殿を統率してもらうことになりますよ」

 ハデスの仕事を引き受けると言われたら言われたで、ハデスの秘書であるアレスタが悲鳴を上げて卒倒しそうだなと思いつつ、アルバートの出方を待つ。
 冷静沈着なアレスタの焦る顔も見てみたいと密かに悪魔的想いが生まれたが、アレスタに烈火のごとく怒られそうなので、それは黙っておくことにする。

「あーいや、うん、まあ、その……」

 歯切れが悪い受け答えをして視線を彷徨わせるアルバートに、ハデスはジロリと一睨みした。無言の圧力をたっぷりと孕んだ視線に屈し、観念したように眉を下げた彼は口を開いた。

「雪華の祈りはめちゃくちゃ寒いって聞いたし、舞もあるんだよね?」

「ええ」

「俺が舞が苦手なの知ってるでしょ?」

「……それが何か?」

 ハデスは彼が何を言いたいのか察してはいたが、敢えて知らないふりをした。

「うぅ……」

 アルバートはハデスの言葉に顔を歪める。どうやら、雪華の祈りで舞を舞う必要があるため尻込みしていたようだ。彼が舞に対して苦手意識を持っていることは知っていたが、仕事であるからにはやってもらわねばならない。

ハデスは後光が差しそうなほど優しい微笑みを浮かべると、アルバートの頭を撫でた。

「大丈夫です。苦手なものはたくさん練習したら良いんですよ。アルならすぐに上達します」

「……はい」

 観念した様子の彼は、小さく返事をして項垂れた。
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