神龍の愛し子と呼ばれた少年の最後の神聖魔法

榛玻璃

文字の大きさ
58 / 106
第二部 雪華の祈り

57.恋焦がれるほどの陶酔を1

しおりを挟む
「ディアーナ様、待った」

 転移門から響いた声に、聖印に触れようとしていたディアーナの指先がピタリと止まる。不満げな表情を浮かべた彼女の背には、一人の男が立っていた。

 長い銀髪に、切れ長の金の瞳をした美丈夫――その姿はアルバートも知る人物だった。リオル・ルーウェンだ。

「何の用だ、リオル。なぜ止める」

「そんながつがつ行っちゃダメなんだよ、人間はね。結構無理に言わせたでしょ? こういうのはもっと恋焦がれるほどに陶酔するくらい焦らしてあげないと。恋愛と同じだよ」

「フンッ人間の情事など我は知らぬし興味もないわ。お前こそ物事を色恋に例えるのは止めたらどうだ? それがその右腕の傷の原因であろう?」

「あはは、それ言われちゃうと返事に困るなぁ」

 リオルは笑って流す。その彼の右腕は人の手とは思えないほど酷い火傷の痕で黒くなっていた。リオルはアルバートの前まで足を進めると、彼を見下ろした。

「やあ、アル。三年ぶりくらいかな? 少し見ない間に大きくなったね」

 リオルはまるで久しぶりに会う友人か知人のように人懐っこい声で話しかけてくる。アルバートは一瞬、怯えるように身を震わせるが、すぐに睨むように彼を見上げた。それと共に空気中に粒子状となった金色の光を浮かび上がらせる。

「神聖魔法『浄――」

「それはダメ」

 呪文を唱える途中で、リオルはアルバートの背後に回り込むと、彼の首に腕を回して首を締め上げてきた。そして猿轡の代わりに自らの人差し指を彼の口に差し入れる。

「っ、ぐっ……」

 喋っている途中でのその妨害に、魔法は中止させられ、苦しげな呻き声がアルバートの口からこぼれた。

「それ放たれると龍のディアーナ様はともかく、僕は死んじゃうからね、禁止。わかった?」

 アルバートはリオルを睨むと、口の中に突っ込まれた指に歯を立てる。しかし、彼の指は魔法で強化されているのか鋼のように固く、歯が食い込むことを許さなかった。

「こーら、犬じゃないんだから、人の指噛まない」

 リオルはそう言いながら、アルバートの口の中で指先を転がして遊びだす。

「んーっ!! んぐーっ!!」

「可愛いけどダメだよ。ふふ、万能と思われる神聖魔法の以外な弱点、びっくりしたでしょ。詠唱による発動形式を取る魔法は、喋れなかったら詠唱が完了できなくて発動できないんだよね」

 アルバートが苦悶の表情を浮かべる。指を吐き出そうと身を捩るが、首を固定されているためされるがままになってしまう。口の中を他人の指でかき回されるなど、気持ちが悪いに決まっている。だがリオルはそんな反応を楽しむように、さらに指を奥へと侵入させる。異物の存在に反射的に嘔吐いた。

「ふふ……苦しい?」

 アルバートは涙目になってリオルを睨みつける。だが彼はそんな視線を気にする様子もなく、むしろ嬉しそうに微笑んだ。
 そして、彼の耳元で囁くように告げてくる。

「でもさ、数年前の君が放った浄化で僕はもっと痛くて苦しい思いをしたんだから、これくらい我慢しないとね。抵抗するならもっと苦しくなるようにするだけだから、大人しくしたほうが身のためだと思うよ。苦しむのは君じゃなくて、そこの彼かもしれないわけだしね」

「――っ!」

 リオルは近くで倒れているアレスタの方を見て、アルバートにも見えるように彼の首を動かした。力無く横たわるアレスタの姿が、かつて守れなかった橙色の髪の少女と重なり、アルバートの表情が凍り付いた。みるみる身体が弛緩し、抗っていた意思が薄れていくかのように脱力していく。

 その間もリオルは彼の舌の上で自らの指の腹を這わせるが、もう反抗されることはなかった。

 そんな様子を見て、ディアーナは呆れた様子で呟く。

「……お前の脅しも存外効果的なのだな」

「ふふ、これが魔王軍での僕の本職だからね。覚えておくといいよ」

「ふん、生意気なやつめ。それで、この黒龍を待たせてお前がやりたかったことはそんなくだらん遊戯ではないのであろう?」

「うん、そうだね。そろそろ本題に入ろう」

 リオルはアルバートの口から指を引き抜くと、彼を抱き抱えたまま地面に胡座をかき、膝の上にアルバートの身体を乗せ、腰に腕を回して固定した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

精霊のお仕事

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
【完結】 オレは前世の記憶を思い出した。 あの世で、ダメじゃん。 でもそこにいたのは地球で慣れ親しんだ神様。神様のおかげで復活がなったが…今世の記憶が飛んでいた。 まあ、オレを拾ってくれたのはいい人達だしオレは彼等と家族になって新しい人生を生きる。 ときどき神様の依頼があったり。 わけのわからん敵が出てきたりする。 たまには人間を蹂躙したりもする。? まあいいか。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...