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第二部 雪華の祈り
60.マナの適量
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それから数日の間安静状態となったアルバートであったが、精神干渉魔法の影響は徐々に抜けていき、日を追うごとに身体が動かせるようになっていった。
「本日より神聖魔法の修練を始めましょう」
アルバートがソルニアにそう告げられたのは、雪華の祈りの儀式が再開してから一週間ほど経過してからだった。
「はい、よろしくお願いします」
アルバートは、ソルニアに一礼する。その動作がどこかぎこちないものになってしまうのは仕方がないことだった。雪華の祈りの儀式を中断させてしまったことは事実であり、それを自覚しているからこそ罪悪感に苛まれるのだった。しかしそんなアルバートの様子を気に留めることなく、ソルニアは淡々とした様子で続ける。
「私は神聖魔法は使えませんが、その魔法体系は把握しているつもりです。あなたの神聖魔法は雑すぎです。それではあまりに効率が悪い」
「……う……」
いきなりの指摘に、思わず言葉を詰まらせる。だが反論できるはずもないので口を噤んだまま俯いてしまった。その様子を一瞥するとソルニアは続ける。
「料理に例えましょう。目分量で料理を作るのと、レシピに則って作るのでは味が違うでしょう。神聖魔法もそれと同じことなのです」
「は……はぁ……」
アルバートにはよく理解できなかったが、とりあえず相槌を打っておいた。しかし、それがソルニアの気に障ったようで、鋭い視線が飛んできた。
「どの程度のマナをどのくらい集めるか、あなたの神聖魔法では目分量ではありませんか?」
「えっと……なんとなくいつもこのくらいかなって」
「でしょうね。発動力にムラがありすぎますから」
「うっ……」
図星を突かれ、アルバートは何も言えなくなった。そんな彼の様子をソルニアは一瞥すると溜息を吐いた。
「ハデス殿から教わらなかったのですか?」
「えっと……いや、その……」
ハデスからそのような指導を受けた記憶はなかったが、それを正直に伝えるのはハデスの面目を潰すようで憚られ、アルバートは口籠る。その様子でソルニアは察したらしく、もう一度深く息を吐くと呆れの混じった声で言った。
「まあいいでしょう……あの方は目分量で適量を測れているので、このようなことは考える必要は無いのかもしれないですね。昔から彼の魔力のコントロールは完璧でしたから。いわば寸分の狂いもない精密機械です」
ソルニアの言葉にはある種の畏怖と尊敬が混ざっており、ハデスへの想いを感じ取れた。
「ソルニア様はハデス様と仲が良いのですね」
「ええ、立場こそ違えど、ともに学んだ学友ですから」
「……え?」
アルバートは驚きの声を上げたが、ソルニアは特に気にする様子もなく淡々とした口調で続けた。
「幼馴染というものです。ハデス殿も昔はこの教会で修練を積んでいました」
ソルニアは懐かしむように遠い目をして窓の外を眺めた。その表情はとても穏やかで優しく見えたが、その瞳はどこか悲しげで、寂しさを感じさせた。
アルバートはそんな彼の様子に何も言えずに、ただ黙ってその姿を見ていることしかできなかった。
「余計な話でした。話を戻すとしましょう。神聖魔法発動の瞬間、マナが散っていることに気づいておられますか?」
「え?」
「神聖魔法の形になる際、マナは収束し、固体に変わりますが、その時に収束しきれなかったマナが散っているのです。これは適量を超えたマナを集めている証拠です」
「えっと……すみません、よくわかりません……」
アルバートは申し訳なさそうに答える。しかしソルニアはそれを咎めることはしなかったが、代わりに困ったような表情を浮かべた。そして少し考える素振りを見せた後、再び口を開いた。
「ふむ……例えばこのコップに水を注ぐ時、」
そう言うと彼はテーブルの上に置いてある空のグラスを手に取り、それを目の前に置いた。そして傍にある水差しを手にする。
「この水差しの中の水をグラス一杯に注ぐと、水は溢れる。この溢れた水が、神聖魔法発動の際に散ったマナです。出来るだけ多くのマナを神聖魔法というコップに注ぎ込んでいて、コップに収まりきるぎりぎりが適量となります」
「あぁ……」
アルバートは納得したように頷くと、その意味を理解することができた。
「つまり、適量を知らなければせっかく注いだマナを無駄にしてしまうということです」
「なるほど……勉強になります……」
アルバートは素直に頭を下げた。その様子にソルニアは微笑ましさを覚えつつ説明を続ける。
「コップの水は溢れるだけですが、神聖魔法の場合は、この無駄が魔法自体を狂わせます。治癒の魔法は散ったマナの影響を受けやすいため、マナの放出が粗雑だと発動効率は大きく下がります。……あなたが治癒を苦手とするのも、このマナの制御が原因でしょう。苦手意識を持ち、力み、魔法が狂う。そのような負のループが起こった結果と言えます」
ソルニアの指摘に思い当たる節があるアルバートは俯く。
「マナの調整はあなたにとって厳しい修練になるでしょう。申し訳ありませんが、あなたを甘やかすつもりはありません。覚悟はよろしいか」
「はい」
アルバートは力強く答えた。その返事に満足したのか、ソルニアは小さく微笑むと立ち上がった。
「では始めましょう。まずは最小限のマナで神聖魔法『障壁』を発動しなさい。生成する壁の厚さは一ミリを維持するように。明日は厚さ二ミリ。まずはそれぞれの厚さで必要な適量を把握するように」
「わかりました」
アルバートはソルニアの指示に頷くと、早速神聖魔法の修練に取り掛かった。
「本日より神聖魔法の修練を始めましょう」
アルバートがソルニアにそう告げられたのは、雪華の祈りの儀式が再開してから一週間ほど経過してからだった。
「はい、よろしくお願いします」
アルバートは、ソルニアに一礼する。その動作がどこかぎこちないものになってしまうのは仕方がないことだった。雪華の祈りの儀式を中断させてしまったことは事実であり、それを自覚しているからこそ罪悪感に苛まれるのだった。しかしそんなアルバートの様子を気に留めることなく、ソルニアは淡々とした様子で続ける。
「私は神聖魔法は使えませんが、その魔法体系は把握しているつもりです。あなたの神聖魔法は雑すぎです。それではあまりに効率が悪い」
「……う……」
いきなりの指摘に、思わず言葉を詰まらせる。だが反論できるはずもないので口を噤んだまま俯いてしまった。その様子を一瞥するとソルニアは続ける。
「料理に例えましょう。目分量で料理を作るのと、レシピに則って作るのでは味が違うでしょう。神聖魔法もそれと同じことなのです」
「は……はぁ……」
アルバートにはよく理解できなかったが、とりあえず相槌を打っておいた。しかし、それがソルニアの気に障ったようで、鋭い視線が飛んできた。
「どの程度のマナをどのくらい集めるか、あなたの神聖魔法では目分量ではありませんか?」
「えっと……なんとなくいつもこのくらいかなって」
「でしょうね。発動力にムラがありすぎますから」
「うっ……」
図星を突かれ、アルバートは何も言えなくなった。そんな彼の様子をソルニアは一瞥すると溜息を吐いた。
「ハデス殿から教わらなかったのですか?」
「えっと……いや、その……」
ハデスからそのような指導を受けた記憶はなかったが、それを正直に伝えるのはハデスの面目を潰すようで憚られ、アルバートは口籠る。その様子でソルニアは察したらしく、もう一度深く息を吐くと呆れの混じった声で言った。
「まあいいでしょう……あの方は目分量で適量を測れているので、このようなことは考える必要は無いのかもしれないですね。昔から彼の魔力のコントロールは完璧でしたから。いわば寸分の狂いもない精密機械です」
ソルニアの言葉にはある種の畏怖と尊敬が混ざっており、ハデスへの想いを感じ取れた。
「ソルニア様はハデス様と仲が良いのですね」
「ええ、立場こそ違えど、ともに学んだ学友ですから」
「……え?」
アルバートは驚きの声を上げたが、ソルニアは特に気にする様子もなく淡々とした口調で続けた。
「幼馴染というものです。ハデス殿も昔はこの教会で修練を積んでいました」
ソルニアは懐かしむように遠い目をして窓の外を眺めた。その表情はとても穏やかで優しく見えたが、その瞳はどこか悲しげで、寂しさを感じさせた。
アルバートはそんな彼の様子に何も言えずに、ただ黙ってその姿を見ていることしかできなかった。
「余計な話でした。話を戻すとしましょう。神聖魔法発動の瞬間、マナが散っていることに気づいておられますか?」
「え?」
「神聖魔法の形になる際、マナは収束し、固体に変わりますが、その時に収束しきれなかったマナが散っているのです。これは適量を超えたマナを集めている証拠です」
「えっと……すみません、よくわかりません……」
アルバートは申し訳なさそうに答える。しかしソルニアはそれを咎めることはしなかったが、代わりに困ったような表情を浮かべた。そして少し考える素振りを見せた後、再び口を開いた。
「ふむ……例えばこのコップに水を注ぐ時、」
そう言うと彼はテーブルの上に置いてある空のグラスを手に取り、それを目の前に置いた。そして傍にある水差しを手にする。
「この水差しの中の水をグラス一杯に注ぐと、水は溢れる。この溢れた水が、神聖魔法発動の際に散ったマナです。出来るだけ多くのマナを神聖魔法というコップに注ぎ込んでいて、コップに収まりきるぎりぎりが適量となります」
「あぁ……」
アルバートは納得したように頷くと、その意味を理解することができた。
「つまり、適量を知らなければせっかく注いだマナを無駄にしてしまうということです」
「なるほど……勉強になります……」
アルバートは素直に頭を下げた。その様子にソルニアは微笑ましさを覚えつつ説明を続ける。
「コップの水は溢れるだけですが、神聖魔法の場合は、この無駄が魔法自体を狂わせます。治癒の魔法は散ったマナの影響を受けやすいため、マナの放出が粗雑だと発動効率は大きく下がります。……あなたが治癒を苦手とするのも、このマナの制御が原因でしょう。苦手意識を持ち、力み、魔法が狂う。そのような負のループが起こった結果と言えます」
ソルニアの指摘に思い当たる節があるアルバートは俯く。
「マナの調整はあなたにとって厳しい修練になるでしょう。申し訳ありませんが、あなたを甘やかすつもりはありません。覚悟はよろしいか」
「はい」
アルバートは力強く答えた。その返事に満足したのか、ソルニアは小さく微笑むと立ち上がった。
「では始めましょう。まずは最小限のマナで神聖魔法『障壁』を発動しなさい。生成する壁の厚さは一ミリを維持するように。明日は厚さ二ミリ。まずはそれぞれの厚さで必要な適量を把握するように」
「わかりました」
アルバートはソルニアの指示に頷くと、早速神聖魔法の修練に取り掛かった。
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