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貴方の帰りを側で待つ(後半)
しおりを挟む歌が聞こえる。
低い声。ささやいてるみたいな。
うーん気持ちがいいわ。
お願い。このまま髪を撫ぜていて。。。
ああっ、ヤダ。明るくなってきた。
眠ってられないじゃない。
それに森の香りがする。
薄っすらと目を開けると赤い物が見える。
何?これ。
髪だ。
私を抱きしめながら髪をゆっくり撫ぜている。
オデコの辺りで彼が歌をささやくたびに息がかかる。
それが心地よくって。
気がつけば彼の頬に手を添えていた。
「起きたか?」
なんだろう?いつもの彼だけど違う。
何だろう?
何?
?
?
ああっ、そうか!
私だ。
私は頬に添えていた手を彼の背中に回し抱きついた。
マーベリックがビクリとした。
分厚い胸板に彼の香りに安心する。
微かに聞こえる心臓の音。
私の中から湧き上がるフワッとしたものが教えてくれた。
私はこの人が大好きなんだわ。
なのに忘れていたなんて!
「マーベリック、いつからいたの?」
「ずっとさ。目が覚めたか?」
「ええ、、、少しだけね。」
まだ愛しい気持ちしか思い出せないけれど、私はこみ上げる気持ちのまま言ってみた。
「ねぇ、マーベリック。あのね。」
でも、その先の言葉をちゅうちょして飲み込みかけた時、マーベリックが促した。
「なんだ?」
「あのね、、ずっと、、ずっと側にいてくれる?」
マーベリックが私の顔を驚きみつめた。
「思い出したのか?!」
私は遠慮がちにうなずいた。
「あなたを愛してる事だけは思い出したわ。情けないわね。」
言い終わらないうちにマーベリックがキツく抱きしめてきた。
小さな声で「良かった。良かった。」と噛みしめている。そしてとろける位に甘く優しく見つめてきた。
「返事は勿論だ。俺を知っていけば良い。お前が消える時まで俺が守るから安心しろ。前にも言っただろう?」
「こんなに素敵なのに何故忘れたのかしら?」
私は彼の頬に手を添えて無意識でつぶやいたようで、マーベリックが照れて赤くなってしまった。
その顔が愛しくてってたまらなくなって抱きしめた。
彼はまたビクリとして確かめるように、そーと私のおでこと髪に優しく口付けをした。
*****
連れられて来たのは、人けのない木が生茂り苔むした石畳のある古ぼけた小さな神社だった。
「ここ、、、知っている!」
そうだ。
ここは、愛しい人を追って、走って、走って、胸が痛くなっても走って、足が絡まっても走り続けて手を取った場所!
あれは誰の手だった?
「どうした?また頭が痛むのか?」
両耳に手を添え目をつむっていたらマーベリックが心配して声をかけてきた。
「大丈夫。何でも、、」
そう言って顔を上げた時、彼を見た!
そう。マーベリックだ!
彼はマーベリック。
愛しい人。
「私、、大事な子供達を捨てて貴方を追ってここへ来たわ。
貴方が行ってしまったと絶望してたら貴方がそこから現れたの。」
私の指差す神社の鳥居を見てマーベリックが嬉しそうに微笑んでいる。
「そうだ。ここで俺の手を取って入れたんだ。」
彼を見つめる目から涙が溢れ出した。
「ええ。そうだったわね。」
涙を拭っているとユタカとサエが心配して覗き込んできた。
「思い出したの!マーベリックもあなた達も。ごめんなさいね。忘れるなんて酷い母親よね。」
2人とも立派に成人しているのに子供のように抱きついてきた。
「良かった!本当に良かった!」
3人とも涙で視界が見えなくなっていた。
「またしばらく会えなくなるな。元気で。」
「寂しくなったらマーベリックに連れて来てもらってね。」
ユタカとサエはそう言うとギュと抱きついた。
「ああ。お前が望めば連れて来てやる。約束だ。だが、当分は忙しくなるぞ。
向こうでは、ケイコのクッキーを楽しみにしている人が大勢いるからな。」
ああ、そうか。私はお店を出していたんだったわ。パズルのように穴抜けのピースが埋められていく。
「さあ、名残惜しいが、そろそろ行こうか。」
そう。ここよ。ここから私はマーベリックと生きるって決めてスタートしたの。
かつてこの道を通った事のあるサエがアドバイスをくれた。
「お母さん、鳥居をくぐったら何があっても真っ直ぐに歩くのよ。決してマーベリックの手を離さないでね。」
「ええ。道を抜けてもこの先、ずっと永遠にそうするわ。じゃあね!」
次の瞬間、2人がここにいた存在があとかたもなく消えていた。
「行っちゃった。」
静寂に包まれた鳥居に向かい兄妹は母の幸せを願い手を合わせ祈りを捧げたのだった。
(おわり)
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