初恋奇譚

七々虹海

文字の大きさ
上 下
12 / 13

追記 正一くん

しおりを挟む
 その地下室を見つけたのは、暑い夏の夜中の事でした。暑くて寝る前に水を飲み過ぎて、珍しげ夜中用を足したくなったのです。ぼんやりと歩いてて自分の部屋を通り越していました。と、物音と啜り泣くような声が壁の向こうから聞こえた気がしたのです。

 壁に耳をつけ寄りかかってみると、壁は簡単に扉となり開きました。開いた奥には階段があり、下へ下へ降りていくと、父がいたのです。
「お父様?何をしているのですか」
「正一…」

 長い沈黙の後に父はポツリボツりと話してくれました。
「見つかってしまったね。ここには昔恋人だった人との思い出が詰まってるんだよ。たまに思い出すんだ。しかし今はお前たちの事を一番愛しているよ。思い出とは綺麗なものだ…」
遠い目をして寂しそうに話す父の姿は初めてでした。

「どんな方だったのですか?」
「そうだな…。綺麗な人だったよ。外見はもちろん。内面も。正一もそのままの綺麗な心で居続ければ、あの人に近づけるかもしれない…。さぁ、この話はここだけの話にして寝なさい。明日も学校があるだろ」
「はい。お休みなさい」
 父が外見も内面も綺麗だと話すその人の事が気になりました。




 次の日。学校から帰った僕はそぉっと昨夜の地下室へ行きました。父の恋人だったというその人の事が頭から離れなかったのです。

 地下室には昨日は気付かなかったカーテンが沢山ありました。窓にかけられてるのではなく、何かにかけてあります。埃にならないようにでしょうね。
 捲ってみると様々な道具が出てきました。何に使うのか分からないものばかり…これは…身体に使うのだとしたら身体を傷つけるモノでしかない気がします。

 縄や鎖もありました。父と恋人の思い出とは?このような道具も思い出の品なのでしょうか。
 心拍数が上がってきて、どくんどくんと心臓が脈うってるのを感じます。僕は単なる好奇心でここに来たのを後悔するべきなのかもしれません。
 
 あぁ、しかし、後悔、恐怖、そんなものよりも、見てみたいという好奇心の方が勝ってしまっています。僕がまだ知らない世界がここにはある気がするのです。


 手近な所からカーテンを捲っていき、最後の一枚になりました。最後はカーテンではなく、白い布が箱にかけてありました。

 これだけ特別なもののように見えます。箱自体も何やら彫ってあって、子どもの僕には分かりませんが、高価な代物なのではないでしょうか。パンドラの箱みたいだなと思いながらドキドキしたまま開けました。

 中には写真がありました。二人の青年が写っています。1人は若かりし日の父でした。もう1人の方は、大変綺麗な整った顔立ちをしている青年です。写真は二人が立ち姿で並んだものが数枚。
 
 それから、絵が出てきました。あぁ…父の恋人はこの隣に立っている青年だったのですね。出なければ裸の絵など描くわけないのです。絵も何枚かありました。先ほどの道具に股がってる青年、縄で繋がれている青年…。初めは少し恐怖を感じたあれらの道具が、素敵なものに思えてきて、僕はいつの間にか下着を濡らしていました。

 最後の絵の隅の方小さく竹久功清くんと書いてありました。これがあの方の名前のようですね。この方は死んでしまって、父は母と結婚したのでしょうか。


 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】暴君アルファの恋人役に運命はいらない

BL / 完結 24h.ポイント:1,973pt お気に入り:1,849

裸散歩よりもコレが好き

BL / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:32

悪役令息の義姉となりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:20,058pt お気に入り:1,499

いちゃらぶ×ぶざまえろ♡らぶざま短編集

BL / 連載中 24h.ポイント:4,658pt お気に入り:453

俺の愛娘(悪役令嬢)を陥れる者共に制裁を!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:27,300pt お気に入り:4,314

【R18】執着ドS彼氏のお仕置がトラウマ級

BL / 完結 24h.ポイント:170pt お気に入り:197

「欠片の軌跡」①〜不感症の魔術兵

BL / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:35

処理中です...