東方伝奇録

橋本健太

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Ⅰ 1840〜1886年 インパクト・オブ・チャイナ

7 立ちはだかる獅子

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 1853年に南京を天京に変えて、太平天国は成立した。徐傑と毛蘭は、夢見た地上の楽園が出来たことに歓喜に暮れた。
「見たか!!女真人!!我らの楽園が出来たぞ!!!」
南京陥落時には、太平天国の兵力は20万人以上に膨れ上がった。太平天国軍が膨張した理由は主に2つある。

1 清朝の増税
2 匪賊の横行

1は、戦争における資金調達や敗戦後の損害賠償を支払う為、清朝は法で定める何倍もの税を東南沿海部の地方から徴収した。当時、土地の税は銀で納めることになっていたが、三角貿易で銀が流出し、、銀一両のレートが銭1000文だったのが、銭2000文以上にまで増額した。この不満に耐えかねた庶民が大挙して、太平天国軍へ参加したことで、組織は膨張した。2は、アヘン戦争後の余波である。戦後、多くの匪賊が横行し、これらを太平天国が吸収した。南京条約により、交易が広東一港に限定されなくなり、国内の物流ルートが変化。貨物輸送に関わっていた人々の多くが失業し、匪賊化した。また白蓮教徒の乱以後、組織化された「郷勇」と呼ばれる募集兵が、アヘン戦争後に解散して匪賊化した。

太平天国が快進撃を続けていた同年の夏、隣国の日本では、ペリーが来航、俗に言う黒船である。ペリーはフィルモア大統領の書状を持ち、江戸幕府に開国を迫った。日本はアメリカから、清はイギリスからインパクトを受けた。

 太平天国の領土は、南京を中心とした華南地域で、反清革命国家として成立した。太平天国は天朝田畝制度を頒布し、男女平等を明示した。

天朝田畝制度
太平天国の目指す絶対平等の理想社会を集約的に実現するもの。

1 16歳以上の男女農民全てに平等に田土を支給する。
2 25戸ごとに国庫と礼拝堂を設置し、収穫物は、自家消費用と種籾を除いて、全て国庫に納め、国庫に納められた物資は、天王が全ての人々に均等・公平に分配する。
3 1家から兵士1人を出すが、孤児や障害者は兵役を免除され、国庫により養われる。 

また、当時の悪習である纏足やアヘン吸引を禁止するなど、革新的政策を掲げた。太平天国天主 洪秀全は、ここを地上の楽園にすることを目指した。

「田があれば皆で耕し、食物があれば皆で食い、衣服があれば皆で着、銭があれば皆で使う。」という自給自足の共同体を掲げた。
「理想郷だな。」
徐傑は、この時は希望に満ちていた。毛蘭も同じであった。

 太平天国は1853年5月に北伐軍を送り込むも、清朝軍の反撃に遭い、1855年3月に全滅させられた。天京を守るために、西征軍を送るも、成果は芳しくなかった。清朝は強力な軍を送り込んだ。湘軍である。湘軍は湖南地方の軍で、太平天国を清朝正規軍で鎮圧出来なかったことから、やむを得ずに清朝政府の命により、各地の郷紳に臨時の軍隊を組織させた。これの創始者は、郷紳の曾国藩である。


 曾国藩は1811年に、湖南省湘郷県(現在の双峰県)にて誕生した。1838年に進士となった。1852年に母が死去して、喪に服すため帰郷した。その頃、1851年に太平天国の乱が勃発し、清の正規軍は連戦連敗を喫していた。このため、清国政府は各地の郷紳達に郷勇を組織させた。彼ら湖軍の反撃により、太平天国は徐々に追い詰められていく…。

 それらと同時に1856年にアロー戦争が勃発した。背景としては、アヘン戦争後に締結された1842年の南京条約まで遡る。

南京条約(一部)
・香港の割譲
・広州の他、厦門・福州・寧波・上海の計5港の開港
・領事を置く

かつての広東十三行のような特許商人が貿易を独占して徴税請負を行い、外国商人や外国船の保証人となって、それを強く、統制下に置く、という制度を廃止させた。イギリス統治下に置かれた香港では、1842年に広州英国商館焼き打ち事件が起こり、それ以降、英国人との衝突が増える。アヘン密売を行うイギリス人への反感と反イギリス運動を取り締まるように、英国外務大臣パーマストンは北京の清朝政府に抗議した。パーマストンは武力行使をしようとしていた。

 太平天国の乱が起きていた頃、1856年10月8日にアロー号事件が起きた。清の官憲はイギリス船籍を名乗る中国船アロー号に臨検を行い、清国船員12名を拘束。
「内3人は、海賊容疑で逮捕!」
これに対し、当時の広州領事のハリー・パークスは、清の両広総督(広東省・広西省の総督)・欽差大臣である葉名琛(中国語:イェ・ミンチェン 日本語:よう・めいちん)に対する清国官憲の臨検は不当だと主張。
「よくも、我が大英帝国のユニオンジャックを引きずり下ろしたな?許すまじ。」
葉名琛は国旗は掲げられていない、と主張するも、パークスは強硬に自説を主張。交渉は決裂した。パークスの行動を見た清国駐在英国全権使節兼香港総督ジョン・ボウリングは、イギリス海軍を動かし、広州付近の砲台を占領させた。そして、戦争が起こった。こうして、清は太平天国とアロー戦争の内憂外患に苦しめられ、太平天国も徐々にだが、陰りが見られていったのであった。
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