【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき

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二年生 冬休み

29 マチルダ様の独白

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私はバイト先の宿屋の一室で、マチルダ様と向かい合って座っている。

あの後、ますますマチルダ様を放っておけなくなった私は、錬金術師ギルドのバイトを早退させてもらった。
宿屋のバイトも休もうと事情を話しに来たら、女将さんに一部屋空いてると言われ借りることにしたのだ。

寮の私の部屋に連れて行こうと思ってたんだけど、知り合いに会ったらまずいだろうし、丁度良かった。

「それでは…」

「ええ」

改めて話そうとすると緊張する。

「どうして、家出したんですか?」

直球で行こう。

「そうですわね。簡単に言うと、あの家に私がいる意味がなくなってしまったからですわ」

マチルダ様は、頭から被っていたマントを脱ぎ、今はブラウスにベスト、膝下までのスカートにブーツという庶民風のいでたちだ。

突発的に家出をしたにしては準備がいい。

マチルダ様は私を見ると、悲しげに微笑んで話し始めた。



私は、子供の頃からあまり父に良く思われていませんでしたの。

私は父の姉、私にとっては叔母にあたりますが、その方によく似ているそうなのです。
栗色の癖のある髪も鳶色の瞳も…父も同じ色で、キャンベル伯爵家の色なのですが、少し釣り気味の目元や唇の形が叔母にそっくりなのだそうです。

叔母は明るく社交的で、勉強も出来て魔力も多く、父はそんな叔母にコンプレックスを持っていたそうなんですの。

時折り父が私を見て、お前は本当に姉上にそっくりだなと吐き捨てるように言うことがあって…子供の頃はとても傷付きましたわ。

それでも、妹が生まれる四歳の頃までは、両親の愛情を感じていましたわ。
父はどんなに忙しくても、食事は家族で食べるものだと夕食はなるべく一緒にとってくれましたし、母も時間を作っては私と過ごしてくれていましたもの。
父が私を高く高く抱き上げて、それを母が笑いながら見ていたのを覚えておりますわ。

でも、妹が生まれてから、私の生活は一変しましたの。
母がもう子供を生むことが出来なくなってしまったのですわ。

跡継ぎの男子がいないので、長女である私が婿養子を取って家を支えることになり、未来のキャンベル伯爵夫人となるための教育が始まりましたの。

婿養子となってくださる方に失礼のないようにと、厳しいマナー教育を受けましたわ。
さらに、領地経営や事務処理も手伝えるようなるために、毎日勉強勉強の日々でしたの。

食事やお茶の時間もマナーの勉強を兼ねていたので、両親と一緒に取ることはなくなりましたわ。
朝から夜まで勉強していますので、両親や妹の顔をニ、三ヶ月見ないことは普通でしたの。

私が勉強をしている間、両親は妹に夢中でしたわ。
妹は私と違って母の色を受け継ぎましたの。
明るい金茶の髪に大きな青い瞳、山猫族の特徴である耳と尻尾は艶々でとても愛くるしかった。

今でもとても可愛らしいんですのよ。
ただ、両親が妹を可愛がるあまりに甘やかしすぎて、何でも言うことを聞いてしまうものですから、何をしても叱られることもなく、欲しい物は全て与えられてきたせいで、少し…我儘というか…堪え性のない子になってしまったんですの。

勉強が嫌いで、家庭教師をすぐに辞めさせてしまうので、来年は魔法学園の入学試験があるのに、もうとっくに終えているはずの基礎教育もまだ全然終わっていないのです。

それなのに、両親は妹に強請られるまま有名なレストランに食事に行ったり、お芝居を見に行ったり、ドレスや宝飾品も衣装部屋に入りきらないほど与えていて…。

私は…両親や妹と食事やお芝居に行ったことはありません。
私はそんな時間があったら勉強をしなくてはいけませんし、将来伯爵家を支える私が贅沢を覚えてはいけないと言われていましたから、ドレスはどうしても新しいものが必要になった時だけは誂えてもらいますけど、なるべく自分で手直しするようにしていましたの。

何故?と思いましたわ。
私も妹も、キャンベル家の娘であることに変わりはないはずなのに、姉妹でこんなに扱いが違うのはどうしてなのかと…。

私が父が嫌いな叔母に似ているから?
妹は母に似て可愛いらしいから?

だから両親は妹ばかり可愛がって、私のことは見てくれないのでしょうか?

妹と両親が楽しそうにお茶をしたり外出をする声が聞こえてくると、いつも胸が張り裂けそうに辛かった。

正直、妹を妬ましく感じていたこともありましたわ。

そのことを両親に訴えたこともありましたけれど、私は婿養子を迎えずっと家にいるけど、妹はいずれ家を出て他家に嫁がなくてはならないから、手元にいるうちに可愛がっているのだと言われましたの。

だとしたら私に出来ることはただひとつですわ。

どんなに勉強が辛くても、ひとりぼっちで寂しくても、家を支えるためにひたすら努力を重ねること。

いつか、私が婿を取りキャンベル伯爵夫人として我が家を支えるようになったら、お父様やお母様も私を見てくださる、一緒に過ごしてくださるのだと、それだけを心の支えにしていましたの。

私の婚約者になってくださったのは、ハリソン伯爵家の三男で、私よりふたつ年上の方でしたわ。
魔法学園卒業後、我が家を継ぐために経済学校に通ってくださっていますの。
私も婚約者も来年卒業になりますから、その一年後に婚姻を予定しておりました。

見た目は…青い髪に水色の瞳で、エルダー様のように麗しくはないですが、整ったお顔立ちだと思いますわ。

最初は良かったのです。
婚約者も私を気遣って優しくしてくれていましたし、私も、この方とならキャンベル伯爵家を支えていけると神々に感謝したくらいですから。

でもいつの頃からか、婚約者の様子が変わってきたのです。

我が家に来るたびに私に贈ってくれていたお花やお菓子は、いつの間にか妹の元へ届けられるようになっていましたわ。
婚約者が来たと知らせを受けて応接室に行くと誰もいなくて、妹と庭を散策していたり、二人で外出したと聞かされたりしましたの。

どういうことなのかと婚約者に聞いたら、将来義妹になるから仲良くしているだけだと言われて、そんなことで悋気を起こすなと叱責されましたの。

不安でしたわ。
私の目から見ても、婚約者と妹は仲が良すぎるように感じましたから。

でも、信じていましたの。
いいえ、信じたかったのですわ。

父も母も妹も、婚約者のことも。

何より、これまでどんなに辛くても重ねてきた私の努力は、いつか報われるのだと…。

でも……。

学園のウィンターパーティーが終わって自宅に帰りましたら、父に呼ばれて、妹と婚約者は想い合っているから、婚約者を譲ってやれと言われましたの。
私の婚約者と妹にキャンベル伯爵家を継がせて、私には何処か良い嫁ぎ先を見つけてやると。



マチルダ様はそう言うと、両手で顔を覆い静かに泣き出した。

「伯爵家を継がないのなら、あの勉強の日々は何だったのでしょう?私だって両親と一緒に食事がしたかった。抱きしめて欲しかった。両親の顔を見ることも出来ない毎日が寂しくて堪らなかった」

マチルダ様の細い肩が細かく震えている。

「寂しくて悲しくて苦しかった日々を耐えたのは、キャンベル伯爵家を支えるためでしたのに。それだけが、私が両親に愛してもらえるたったひとつの希望でしたのに。
もう私があの家にいる意味は何ひとつなくなってしまいましたわ。両親にとって私は、愛する価値のないどうでもいい娘だったのです。
私は、今まで一体何のために耐えてきたのでしょう」

マチルダ様の悲痛な声に、私は思わず席を立ち、マチルダ様をギュッと抱きしめた。

ギュッギュッと強く抱きしめる。

マチルダ様の震える肩から、マチルダ様の悲しみが伝わってくる。


なんて声をかけたらいいのか分からない。

前に家族の話しをしてくれた時、あまり一緒にいた記憶がないとか、寂しい子供だったと言っていたから、家族と上手くいってないのかなとは思ったけど、ここまで辛い思いをしていたとは考えていなかった。


宿屋の小さな客室に、マチルダ様のすすり泣く声が響く。
マチルダ様をギュウギュウ抱きしめながら、私も悲しくなってきた。



ガタン!ゴン!
ガタガタガタ!

突然の大きな物音にふたり揃ってビクンと肩を揺らし、見つめ合う。
涙に濡れたマチルダ様の目がキョトンとしていて可愛い…じゃなくて、今の物音は何?

私はマチルダ様から離れて内開きのドアをパッと開けた。

「わあ!」
「きゃあ!」

アンさんとセイラさんが転がってきた。
そして何故か二人共泣いている。

「何やってるんですか?」

なるべく低い声で言うと、セイラさんが涙に濡れた目をこちらに向けて言った。

「シェリルがまた突っ走らないか心配で…」

「ごめんね、シェリルちゃん」

続けて涙声でアンさんが謝る。
と、セイラさんが立ち上がり、キョトンとしたままだったマチルダ様をギュッと抱きしめた。

「辛かったね!本当に今までよく耐えた!頑張ったよ!」

アンさんも慌てて立ち上がり、マチルダ様をムギュッと抱きしめた。

「貴女にいけないところなんてないわ。今までよく我慢したわね、偉かったわね」

ムギュムギュムギュー!!!

二人は泣きながらマチルダ様を挟んで力一杯抱きしめた。

「ううっ…く…苦し…」

「ああ、大変!」

セイラさんの逞しいお胸とアンさんの豊かなお胸に挟まれて、マチルダ様が潰れちゃう!!!

私は大急ぎでマチルダ様救出にかかった。
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