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二年生 後期
38 新しい魔法?
しおりを挟む「心臓が止まるかと思った」
「あれはやり過ぎですよ、シェリル嬢」
取り調べが終わって生徒会室の外に出たら、ウィルフレッド様とユラン様に捕まって、空き教室に連れ込まれた。
そしてお説教されている。
「だって…」
「だってじゃありません!」
ユラン様の厳しい声が空き教室に響き渡る。
「ううっ、でもちゃんとマチルダ様の居場所は教えたじゃないですか」
「そもそも、王族であるレオナルド殿下からの直接の質問に、すぐ答えないのは非常識です」
たとえ相手が王族でも、マチルダ様の居場所なんてほいほい喋る訳ないだろう。
って言ってもわかってくれなさそうな気がする。
私は助けを求めて、チラリとウィルフレッド様を見た。
「王族に、貸しを返せとか言ったら駄目だ」
こっちも助けてはくれなさそうだ。
バタン!!
「シェリル!」
空き教室のドアが凄い勢いで開き、エルダー様が飛び込んで来た。
「エルダー?」
「ユラン!シェリルに何してるの!」
エルダー様がユラン様に掴みかからんばかりに詰め寄る。
ユラン様は少し身を引いて言った。
「エルダーには関係ありません。貴方こそ何をしに来たんですか?」
「ユランとウィルがシェリルを無理矢理連れて行ったって聞いたから、助けに来たんだ!」
エルダー様はそう言うと、私に近付き手を取った。
「シェリル、大丈夫?」
「え?」
「ユランとウィルに、酷いことされなかった?」
酷いこと?
「い、いえ。酷いことはされていません」
叱られてはいたけど。
エルダー様は私の言葉に安心したのか、険しかった表情が少し和らいだ。
「こんな所に連れ込んで、何してたの?」
「話していただけですよ」
ウィルフレッド様がうんうんと頷く。
「何の話し?」
「それはエルダーには関係ありません」
ウィルフレッド様がうんうんと頷く。
「シェリル」
「私の口からは言えません」
叱られていたって言ったら、その理由も話さなくてはいけないだろう。
マチルダ様の失踪は、表向きには知らされていない。
学園は体調不良で休んでいることになっている。
貴族の娘が行方不明なんて、外聞が悪い所の話しじゃない。
まあ、あの家を捨てようとしているマチルダ様には今さら関係ないかもしれないけど、大切な友達が醜聞にまみれるなんて状況は、なるべくなら避けたいと思う。
エルダー様は不満そうに私達三人を見回した。
エルダー様は後期になっても相変わらず私に言い寄ってきている。
ウィンターパーティーであんなことしたくせに、冬休み明けから毎日、花束だのアクセサリーだの持ってきては付き纏っている。
全部突っ返してるけど。
なまじ高位貴族なだけに風魔法で吹っ飛ばすわけにもいかない。
いや、そろそろ少しくらい飛ばしてもいいんじゃないだろうか。
「行こう、シェリル」
エルダー様が掴んだままだった私の手を引っ張り、教室から出て行こうとした。
「まだ話しは終わっていません!」
ユラン様の鋭い声が飛ぶ。
「うるさい!シェリル、行くよ!」
そう言ってぐいぐい手を引っ張っるエルダー様。
「ちょ、ちょっと待ってください。私もユラン様とウィル様に聞きたいことがあるんです」
マチルダ様をどうするつもりなのか、レオナルド殿下からは聞き出せなかった。
二人も素直に話してくれるとは思わないけど、ヒントくらいはもらえるかもしれない。
それに、エルダー様に助けてもらう義理はない。
手を離してもらいたい。
「…シェリル?」
エルダー様が振り向いて、掴んでいた私の手をギュウッと強く握りしめた。
紫の瞳がいつになく暗い色をしている。
「ユラン様とウィル様?…シェリルはいつから二人を名前で呼ぶようになったの?」
ギュギュウッと手を握りしめる力が強くなる。
痛い!痛いよ!
「エルダー様、手が痛いので離してください」
「嫌だ!!!」
ええー!
まさかの拒否!
「エルダー!シェリル嬢が痛がっているではないですか!離しなさい!」
ユラン様がそう言うと、空気がビリビリ震える感じがして、私を掴んだエルダー様の手に何かがバチンと弾けた。
「っ!」
衝撃でエルダー様の手が離れ、その瞬間反対の手をグッと後ろに引かれた。
「シェリル、大丈夫か?」
私の手を引いたのはウィルフレッド様だった。
エルダー様とユラン様はまだ睨み合っている。
でもそんなのはどうでもいい。
今の衝撃は…もしかして…。
「今のは何だろう。ユランの魔力を感じたけど…風魔法?でも、あんな術は見たことがない…それに空気がビリビリ…ピリピリ…している?」
ウィルフレッド様も今の現象が気になったらしく、ブツブツと呟いている。
「たぶん、雷じゃないかと思います」
「雷?!」
私はウィルフレッド様を見て頷いた。
実はこの世界、七柱の神の力である聖・光・闇・火・水・風・土の七つの魔法しか無い。
新しい魔法を探している時に、私が持つ風魔法で何か出来ないかと考えて、最初に思い付いたのが雷だった。
雷は氷や砂の粒子が空気中でぶつかり合い、静電気が溜まったものが地面に落ちる現象だったはず。
風魔法で摩擦を起こして雷を発生させられるんじゃないかと考えたのだ。
そして雷を起こそうとして、何度も魔力不足でぶっ倒れた。
幼かった私の微笑ましい失敗談だ。
「どうして雷だと?」
ウィルフレッド様の黒い瞳が生き生きと輝く。
「…冬場空気が乾燥している時に、金属に触るとパチンとなって痛みを感じますよね。アレに似てまいました」
「成る程。神の悪戯か…」
電気という概念のない世界で、静電気の説明は難しい。
ちなみに静電気は神の悪戯と言われていて、雷は神の怒りとも呼ばれている。
「貴方達は今の状況を分かっているんですか?」
呆れたようなユラン様の声が聞こえてそちらを向くと、ユラン様とエルダー様が私達のことを見ていた。
「ユランとウィルも、シェリルのこと名前で呼ぶようになったんだね」
地を這うような低い声。
え?今のエルダー様?
いつものショタ声どうしたの?
「…エルダーは少し頭を冷やした方が良さそうですね」
ユラン様がエルダー様に冷たい声で言うと、エルダー様は何も言わずドアに向かい、ご丁寧にも私のことをひと睨みして教室を出て行った。
何だ今の。
「…シェリル嬢。今まで以上にエルダーには気を付けてください」
「へ?あ、はい」
もちろん、いつでも気を付けていますとも。
「それよりも…」
私とウィルフレッド様は、息の合った動きでユラン様を取り囲む。
「さっきの、どうやったんだ?」
「さっきの、どうやったんですか?」
いつも冷静沈着なユラン様が、右手にウィルフレッド様、左手に私を引き摺って、もう勘弁してくださいと言いながら這々の体で公爵家の馬車に乗り込む姿は、しばらく学生達の間でおおいに話題にされていた。
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