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―第二十六話― 一週間

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 はあー、まさかこんなことになるとはなぁ。
 子供の時のこととか、正直ほとんど覚えてないけど、こんな感じだったんだな。
 ま、ベロニカさんが何とかしてくれるっぽいし、とりあえずは一安心だな。

「おーい、ベロニカ―」

 ……反応なし。

「ベロニカ! 早く出てきなさい!!」
「……今はいないっぽいし、またあとで来ようぜ」
「……ちょっと待ってて。すぐに探してくるから」
「ジャスミンさん、私も手伝いましょうか? 二人で探したほうが早いでしょうし」
「大丈夫よ。大体の予測はついているから」

 な、なんか、声に殺気が含まれているような……。



「ほら、さっさと歩きなさい!!」
「いーやーでーす!! もうちょっと回してたら勝ててたのに!! ジャスミンさんの意地悪!!」
「あんた、いい減にしなさい!!」
「いひゃいいひゃい!! ほっぺたを引っ張るのはやめ……あ!」

 …………。



「お見苦しいところをお見せしてしまい、大変申し訳ありません。わたくし、サルビア教会サンビル支部責任者をしております、ベロニカと申します。以後お見知りおきを」
「えっと、私はツツジです。最近、ジャスミンさんたちのパーティーに加入させていただきました。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
「あ、そうだったんですか! それで、そちらの方は……」
「俺です。リアトリスです」
「……え!?」



「……なるほど。そのようなことが……」
「ジャスミンから、ベロニカさんはこういったことに詳しいと聞いたのですが、どうですか? 解除できそうですか?」
「うーん……。どんな魔法がかけられたのかが分かれば、大丈夫かと思います。少々お待ちください……」

 そう言ってベロニカさんは、近くにあったチョークを使って床に魔法陣を書き始めた。

「この魔法陣の真ん中に立ってください」

 言われるがままに魔方陣まで移動すると、

「おわっ!」

 魔方陣が白く輝き始めた。

「……はい、終了です。リアトリスさん、この文様に見覚えはございませんか?」
「……あります」

 魔方陣に映し出されていたのは、この間のダンジョンの魔物に刻まれていたものと同じものだった。

「おそらくは、それが原因でしょう。見たところ接触型のトラップのようですし、一週間もいただければ解除できると思いますよ」
「一週間か……。すみません、ありがとうございます」
「いえ、お気になさらず。ですが、どうしてもお礼がしたいというのであれば、こちらの入信書にサインを……」
「それでは、また一週間後に!」



「えっと、それで、リアトリスさんはどうするんですか?」
「どうするって?」

 ツツジの質問に、首を傾げながら答える。

「いや、一週間も能力が使えないんだったら、冒険のほうにも支障をきたすんじゃないですか?」
「あ、そういえば言ってなかったな。俺、この町では一応最弱の冒険者って通り名で、ほとんど活動してないから」
「え!?」
「ついでに言っておくと、能力のこともお前ら以外は知らないからな。だからさ、一週間程度動かなかったからって別に何も問題は起きないんだよ」
「な、なるほど……?」

 それに、と付け加えて言葉を続ける。

「いざってときはお前らに頼めばいいだろ。なんだかんだ言って、ジャスミンだって強いし、ツツジに関していえば俺とほぼ同格じゃないか」
「ふふ、ありがとうございます」
「ふっふーん、もっと褒め称えてくれてもいいのよ」
「……せいっ」
「痛っ、なんでいきなりチョップしてくるのよ!」
「お前はもうちょっとツツジを見習え」



 ジャスミンたちと別れて数時間経ち、俺は家で頭を抱えていた。
 ジャスミンたちの手前、問題がないように言ったが、状況はかなりまずい。
 あのトラップは、ダンジョンのボスが張ったものではない可能性が高い。
 あれほどに高次な結界を、あのレベルのダンジョンのボス程度が張れるわけがない。
 だとすれば、外部からそれだけ強力な魔物がこの町周辺に潜んでいるということだ。
 しかも、今の俺ではそいつを倒すことができない。
 ツツジの能力の詳細はわからないが、ギリギリ勝てるかどうかってところだな。
 ……うーん、相手がこの一週間行動を起こしてこなければいいのだが……。

 しかし、あのトラップを張った奴の目的は何なんだ?
 まさか、相手を子供にするというだけのわけがないし……。
 ベロニカさんが予定よりも早く解除できるようになったらいいんだがな。

 それに、問題はそれだけではない。
 あの能力がなければ、俺の素の身体能力しか残らない。
 普段は能力でパワーアップしているが、アレがなければ一般人にも劣る俺の身体能力が炸裂することとなる。
 それこそツツジに頼るべきかもしれないが、あいつはそれほど信頼できない。
 今のところはツツジに心を開いたように演じているが、あいつに背中を預けるなんてことはできない。
 最良の未来は、さっき言った通り相手が一週間行動を起こさないことだ。
 ……はぁ、面倒くさい。
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