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―第百二話― いい夢を
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「あ、ごめんね。遅くなっちゃった」
ちょうど指輪をしまったタイミングで、ツツジが部屋に入ってきた。
あ、危ねえ……、間一髪だったな……。
「お兄ちゃん、お腹すいてない? スープ持ってこなくて大丈夫?」
『ああ。大丈夫だ』
……そうだ。
『そういえばお前、なんで死ななかったんだ? 呪縛喰らって今もぴんぴんしてる理由が分からん』
結構な出力で出るようにしたはずなんだけどな。
「あ、たぶんそれは、私の体質のおかげ」
『……体質?』
「うん。私、半分アンデッドだもん」
……はい?
「あれ、言ってなかったっけ!? 魔王軍に入ってから、ちょっと実験でアンデッドの遺伝子を体に埋め込んだんだよ。おかげで、お兄ちゃんよりも強くなったんだー」
…………。
「あれ? お兄ちゃん、何か怒ってる?」
『……いいや、別に』
人体実験か。
副作用がなければいいが……。
「というか、やっぱりスープ持ってくるね」
『は?』
「私がお腹すいちゃったからさ。お兄ちゃんも一緒に食べよ!」
そう言ってツツジは、前と変わらぬ笑みで部屋から出ていった。
◆◆◆
…………。
「……ジャスミンちゃん、少しは休んだほうが良いぜ」
「いえ、結構です」
「……そうか。……コーヒー、ここに置いとくからな」
コトっと小さな音を立て、サントリナさんがカップを机に置く。
──リアがいなくなってから、数日が経過した。
あの場にあった死体や魔力から考えて、リアはツツジに連れていかれたとしか思えない。
そう考えた私は、様々な情報を探し、ツツジの場所を特定しようとするが、未だに見つかっていない。
「……もう朝か……」
コーヒーで何とか眠気をごまかしながら、また次の本へ手を伸ばす。
占い師やベゴニアさんにも協力してもらっているが、そちらも手掛かりはないらしい。
ルドベキア王子にもお願いしたいところだが、生憎まだ回復しきっていない。
「なあ、もう何日寝てないんだ……?」
「さあ……。三日前くらいに仮眠をとってからは覚えてないです」
「……今すぐに寝てきなさい。その間に僕も探しておくから……」
「サントリナさんは、ご自身の業務があるじゃないですか」
「もう終わらせてきたからさ。な?」
「…………」
そんなこと、できるはずがない。
今この間にも、リアは苦しんでいるかもしれないんだから。
私が休んでいい理由なんてない……!
「《眠れ》」
……あれ?
目の前が暗く……。
◆
「やあ、お疲れのところごめんね」
「ルビーさん!? あれ、私、さっきまで……」
「あんまりにも働き過ぎだったから、見かねたどこかの亡霊様が能力で眠らせたんだよ」
「……今すぐ戻してください」
「無理」
「なんでですか!?」
「このままだと、君は間違いなく体を壊す。そんなの、僕が許すわけないだろう?」
「……でも」
「リアトリスは無事だから。安心して」
……!?
「大体、あいつがそんな簡単にやられるはずがないだろう?」
「それは……」
「まあ、無事ではあるが、かなり厳しい状況だ。能力を封じられた……? ……いや、自ら使えないようにしてしまったからね」
「えっ!?」
能力を使えないようにって、どういうこと……!?
「簡単に言えば、舌を切り落とした」
「はあ!?」
「まあ、あれはしょうがなかったといえばしょうがないのかな……。ちなみに、ツツジのおかげで魔法も使えなくなってる」
「…………」
絶体絶命じゃん。
「さて、本当はリアトリスから止められてるんだけど……。どうする?」
「どうするって……?」
「助けに行く?」
「当り前です!!」
「……そうか」
微笑みながら、ルビーさんは大きく頷いた。
「俺が手を貸したって、リアトリスには絶対に言わないでくれよ? あいつ、ジャスミンに危険なことはさせたくない、とかで来させないように俺に言ってきてたんだから」
「そうだったんですか……」
「あ、俺が妨害してたとかはないからな? そこは安心してくれ。……てなわけで、まずは……」
そう言いながら、パチン、とルビーさんが指を鳴らした……!?
「体をしっかりと休ませなさい。果報は寝て待てっていうくらいだしね」
「ちょ、ちょっと待って……!」
「じゃ、おやすみ。いい夢を」
ちょうど指輪をしまったタイミングで、ツツジが部屋に入ってきた。
あ、危ねえ……、間一髪だったな……。
「お兄ちゃん、お腹すいてない? スープ持ってこなくて大丈夫?」
『ああ。大丈夫だ』
……そうだ。
『そういえばお前、なんで死ななかったんだ? 呪縛喰らって今もぴんぴんしてる理由が分からん』
結構な出力で出るようにしたはずなんだけどな。
「あ、たぶんそれは、私の体質のおかげ」
『……体質?』
「うん。私、半分アンデッドだもん」
……はい?
「あれ、言ってなかったっけ!? 魔王軍に入ってから、ちょっと実験でアンデッドの遺伝子を体に埋め込んだんだよ。おかげで、お兄ちゃんよりも強くなったんだー」
…………。
「あれ? お兄ちゃん、何か怒ってる?」
『……いいや、別に』
人体実験か。
副作用がなければいいが……。
「というか、やっぱりスープ持ってくるね」
『は?』
「私がお腹すいちゃったからさ。お兄ちゃんも一緒に食べよ!」
そう言ってツツジは、前と変わらぬ笑みで部屋から出ていった。
◆◆◆
…………。
「……ジャスミンちゃん、少しは休んだほうが良いぜ」
「いえ、結構です」
「……そうか。……コーヒー、ここに置いとくからな」
コトっと小さな音を立て、サントリナさんがカップを机に置く。
──リアがいなくなってから、数日が経過した。
あの場にあった死体や魔力から考えて、リアはツツジに連れていかれたとしか思えない。
そう考えた私は、様々な情報を探し、ツツジの場所を特定しようとするが、未だに見つかっていない。
「……もう朝か……」
コーヒーで何とか眠気をごまかしながら、また次の本へ手を伸ばす。
占い師やベゴニアさんにも協力してもらっているが、そちらも手掛かりはないらしい。
ルドベキア王子にもお願いしたいところだが、生憎まだ回復しきっていない。
「なあ、もう何日寝てないんだ……?」
「さあ……。三日前くらいに仮眠をとってからは覚えてないです」
「……今すぐに寝てきなさい。その間に僕も探しておくから……」
「サントリナさんは、ご自身の業務があるじゃないですか」
「もう終わらせてきたからさ。な?」
「…………」
そんなこと、できるはずがない。
今この間にも、リアは苦しんでいるかもしれないんだから。
私が休んでいい理由なんてない……!
「《眠れ》」
……あれ?
目の前が暗く……。
◆
「やあ、お疲れのところごめんね」
「ルビーさん!? あれ、私、さっきまで……」
「あんまりにも働き過ぎだったから、見かねたどこかの亡霊様が能力で眠らせたんだよ」
「……今すぐ戻してください」
「無理」
「なんでですか!?」
「このままだと、君は間違いなく体を壊す。そんなの、僕が許すわけないだろう?」
「……でも」
「リアトリスは無事だから。安心して」
……!?
「大体、あいつがそんな簡単にやられるはずがないだろう?」
「それは……」
「まあ、無事ではあるが、かなり厳しい状況だ。能力を封じられた……? ……いや、自ら使えないようにしてしまったからね」
「えっ!?」
能力を使えないようにって、どういうこと……!?
「簡単に言えば、舌を切り落とした」
「はあ!?」
「まあ、あれはしょうがなかったといえばしょうがないのかな……。ちなみに、ツツジのおかげで魔法も使えなくなってる」
「…………」
絶体絶命じゃん。
「さて、本当はリアトリスから止められてるんだけど……。どうする?」
「どうするって……?」
「助けに行く?」
「当り前です!!」
「……そうか」
微笑みながら、ルビーさんは大きく頷いた。
「俺が手を貸したって、リアトリスには絶対に言わないでくれよ? あいつ、ジャスミンに危険なことはさせたくない、とかで来させないように俺に言ってきてたんだから」
「そうだったんですか……」
「あ、俺が妨害してたとかはないからな? そこは安心してくれ。……てなわけで、まずは……」
そう言いながら、パチン、とルビーさんが指を鳴らした……!?
「体をしっかりと休ませなさい。果報は寝て待てっていうくらいだしね」
「ちょ、ちょっと待って……!」
「じゃ、おやすみ。いい夢を」
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