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9/15は何の日?
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「作りすぎですかねぇ」
「そんなことないよ、大丈夫だよ。環菜ちゃん達も来ることになってるし」
「それならいいのですが」
「もし残ったら、明日そのお団子でみたらし作って食べたいな」
「いいですね、みたらし。櫛もつけて?」
「うん、櫛も!」
会話が交わされているのはコーヒーショップクレマチスの2階のリビングルーム。
彩華と浩介の実にのんびりとした夫婦の会話だ。
9月15の今日、「中秋の名月」ということで巧からの発案で、急きょクレマチス隣の巧家ビル屋上で月見が開催されることになったのだ。
集まるのは会場となる巧と菜々の夫婦、彩華と浩介の夫婦、みうと朝倉、そして、最近よく遊ぶようになった高校の同級生の木槌環菜(きづちかんな・旧姓、三田)と籍だけを先に入れた夫である木槌宗司(きづちそうじ)も来ることになっている。
遼一と七海夫婦にも声を掛けたのだが、生憎仕事の都合がつかなくて今回は欠席という連絡が入った。
今回大勢集まる中でも一番良く食べるのは環菜だろう。彼女は背も高くて細いその体のどこにそれだけ入るのかが謎なほど良く食べる。
目の前には8人分とは思えない程のお月見団子がどんとお重に詰められているのだ。
「それじゃあそろそろ移動しますか」
「うん、ごめんね。私あんまり手伝えなくて」
申し訳なさそうに彩華がいうのは自分のお腹がそろそろ臨月に入ろうとしているから。長時間立っているだけで重労働になる。だから彩華は椅子に座りながら豆腐と白玉粉を合わせた生地を一口大にするお手伝いだけをしたのだ。
勿論出来上がった団子を運ぶのも浩介の仕事。重いものは彩華に持たせることは出来ない。
「無理はして欲しくないですから。行きましょうか」
「うん」
彩華に厚手の上着を羽織らせまずは彩華と手を繋いでお重に入ったの団子を手に会場に向かった。
***
屋上には彩華達以外が既に集まって席についていた。
「遅くなりました」
コンクリートの床に簡易テーブルと丸椅子が置かれ、暖かいお茶と花瓶に生けられたススキ、他にも稲荷寿司や海苔巻きといった幾つか食べ物までも用意されていた。
「いらっしゃーい」
「こんばんは」
浩介は巧にお重を手渡した。
「これ月見団子」
「ああ、有難う」
「これ全部が団子?」
「そう、全部。もし残っても大丈夫。明日みたらしにして食べるから」
「ああ、みたらしもいいね」
浩介は彩華を椅子に座らせ、巧か菜々が用意したであろうひざ掛けを手渡した。
さらにどこから出したのか浩介の手には白いニット帽子にうさ耳が付いた可愛いものを妻の頭にかぶせた。その出来上がりに浩介は満足そうにしている。
「似合ってますね。今日はこれを被っててくださいね。寒くないですか?」
「うん、寒くない」
「これと同じものを女性の人数分買いましたから、良かったらどうぞ」
そう言って浩介はうさ耳帽子を3つ取り出した。
「きゃー、可愛い。どうしたの、浩介兄さん」
帽子を早速被っている菜々の質問に浩介は、
「中秋の名月を見るなら、うさぎも、と思いまして。うさぎは子沢山としても有名ですし、いいかなと思いまして」
「彩ちゃんと菜々さん、そのうさ耳似合って可愛いね。ところでなんでいきなり子沢山の話が出てくるの?」
と言ったのは環菜だ。被るのは恥ずかしいのか手にまだ帽子を持ったままだ。その横ではみうは彼氏の朝倉に似合うー?と言って尋ねている。
「あー、環菜ちゃんにまだ言ってなかったか。まだ目立たないけど菜々も妊娠してるの」
「えっ!?菜々さんも!?」
彩華の言葉に驚いた環菜はまじまじと菜々のお腹の辺りをみた。目立たないと言われた通り彼女のお腹はペタンとしていた。
驚いているのは環菜と宗司だけみたいだった。みう達も知っていたらしい。
「わ、おめでとう、菜々さん。あれ?でもまだ確か製菓の専門行ってなかった?」
環菜は菜々におめでとうと伝えたが彼女はまだ学生では無かったか?
「うん、そう行ってる。残り半年ぐらいだからどうにか卒業したいんだけどねー。予定日はその後だし」
本人はいたってのんびりと構えているらしい。彩華も妹の横で平然としているし。
「大丈夫なの?」
「うーん、悪阻も今の所大したことないし、大丈夫かなーと思ってるんだけどね」
凄い。彩ちゃんの妹で3才年下って言ってたからまだ19かな?
「19でお母さん!」
結婚してるから問題は全く無いけど、19才でお母さんは早いなぁ!と環菜はさっきから驚かされてばかりだ。
「ううん、その頃には20才になってるよ」
それでも早い。
「そっかー、彩ちゃんも菜々さんもお母さんか。凄いなぁ」
入籍だけはしたものの、子供を授かっても居なく、結婚式をまだ挙げていない環菜にはまだ未知の出来事だ。
「環菜さんだってきっとすぐだよ。式もそろそろでしょ?」
「まぁ、そうなんだけど」
「結婚式かぁ。なんだか懐かしいな」
去年式を挙げた彩華は感慨深げだ。
環菜と木槌は来月に式を挙げる予定になっている。勿論ここにいる全員と、今回来ていない遼一夫妻にも参加してもらうことになっている。ただ、彩華だけは出産予定日と近いので、体調次第で参加出来るかどうか微妙なのは仕方がない。
「楽しみだね」
「うん、準備は大変だけど、楽しみなの」
環菜は空に浮かぶ月を眺めた。つられて全員が空を見た。
今年の中秋の名月の日の今日。後2日すれば満月の月。
澄んだ夜空に浮かぶ、少しだけ欠けた名月を眺めてのお月見は和やかに過ぎて行った。
「そんなことないよ、大丈夫だよ。環菜ちゃん達も来ることになってるし」
「それならいいのですが」
「もし残ったら、明日そのお団子でみたらし作って食べたいな」
「いいですね、みたらし。櫛もつけて?」
「うん、櫛も!」
会話が交わされているのはコーヒーショップクレマチスの2階のリビングルーム。
彩華と浩介の実にのんびりとした夫婦の会話だ。
9月15の今日、「中秋の名月」ということで巧からの発案で、急きょクレマチス隣の巧家ビル屋上で月見が開催されることになったのだ。
集まるのは会場となる巧と菜々の夫婦、彩華と浩介の夫婦、みうと朝倉、そして、最近よく遊ぶようになった高校の同級生の木槌環菜(きづちかんな・旧姓、三田)と籍だけを先に入れた夫である木槌宗司(きづちそうじ)も来ることになっている。
遼一と七海夫婦にも声を掛けたのだが、生憎仕事の都合がつかなくて今回は欠席という連絡が入った。
今回大勢集まる中でも一番良く食べるのは環菜だろう。彼女は背も高くて細いその体のどこにそれだけ入るのかが謎なほど良く食べる。
目の前には8人分とは思えない程のお月見団子がどんとお重に詰められているのだ。
「それじゃあそろそろ移動しますか」
「うん、ごめんね。私あんまり手伝えなくて」
申し訳なさそうに彩華がいうのは自分のお腹がそろそろ臨月に入ろうとしているから。長時間立っているだけで重労働になる。だから彩華は椅子に座りながら豆腐と白玉粉を合わせた生地を一口大にするお手伝いだけをしたのだ。
勿論出来上がった団子を運ぶのも浩介の仕事。重いものは彩華に持たせることは出来ない。
「無理はして欲しくないですから。行きましょうか」
「うん」
彩華に厚手の上着を羽織らせまずは彩華と手を繋いでお重に入ったの団子を手に会場に向かった。
***
屋上には彩華達以外が既に集まって席についていた。
「遅くなりました」
コンクリートの床に簡易テーブルと丸椅子が置かれ、暖かいお茶と花瓶に生けられたススキ、他にも稲荷寿司や海苔巻きといった幾つか食べ物までも用意されていた。
「いらっしゃーい」
「こんばんは」
浩介は巧にお重を手渡した。
「これ月見団子」
「ああ、有難う」
「これ全部が団子?」
「そう、全部。もし残っても大丈夫。明日みたらしにして食べるから」
「ああ、みたらしもいいね」
浩介は彩華を椅子に座らせ、巧か菜々が用意したであろうひざ掛けを手渡した。
さらにどこから出したのか浩介の手には白いニット帽子にうさ耳が付いた可愛いものを妻の頭にかぶせた。その出来上がりに浩介は満足そうにしている。
「似合ってますね。今日はこれを被っててくださいね。寒くないですか?」
「うん、寒くない」
「これと同じものを女性の人数分買いましたから、良かったらどうぞ」
そう言って浩介はうさ耳帽子を3つ取り出した。
「きゃー、可愛い。どうしたの、浩介兄さん」
帽子を早速被っている菜々の質問に浩介は、
「中秋の名月を見るなら、うさぎも、と思いまして。うさぎは子沢山としても有名ですし、いいかなと思いまして」
「彩ちゃんと菜々さん、そのうさ耳似合って可愛いね。ところでなんでいきなり子沢山の話が出てくるの?」
と言ったのは環菜だ。被るのは恥ずかしいのか手にまだ帽子を持ったままだ。その横ではみうは彼氏の朝倉に似合うー?と言って尋ねている。
「あー、環菜ちゃんにまだ言ってなかったか。まだ目立たないけど菜々も妊娠してるの」
「えっ!?菜々さんも!?」
彩華の言葉に驚いた環菜はまじまじと菜々のお腹の辺りをみた。目立たないと言われた通り彼女のお腹はペタンとしていた。
驚いているのは環菜と宗司だけみたいだった。みう達も知っていたらしい。
「わ、おめでとう、菜々さん。あれ?でもまだ確か製菓の専門行ってなかった?」
環菜は菜々におめでとうと伝えたが彼女はまだ学生では無かったか?
「うん、そう行ってる。残り半年ぐらいだからどうにか卒業したいんだけどねー。予定日はその後だし」
本人はいたってのんびりと構えているらしい。彩華も妹の横で平然としているし。
「大丈夫なの?」
「うーん、悪阻も今の所大したことないし、大丈夫かなーと思ってるんだけどね」
凄い。彩ちゃんの妹で3才年下って言ってたからまだ19かな?
「19でお母さん!」
結婚してるから問題は全く無いけど、19才でお母さんは早いなぁ!と環菜はさっきから驚かされてばかりだ。
「ううん、その頃には20才になってるよ」
それでも早い。
「そっかー、彩ちゃんも菜々さんもお母さんか。凄いなぁ」
入籍だけはしたものの、子供を授かっても居なく、結婚式をまだ挙げていない環菜にはまだ未知の出来事だ。
「環菜さんだってきっとすぐだよ。式もそろそろでしょ?」
「まぁ、そうなんだけど」
「結婚式かぁ。なんだか懐かしいな」
去年式を挙げた彩華は感慨深げだ。
環菜と木槌は来月に式を挙げる予定になっている。勿論ここにいる全員と、今回来ていない遼一夫妻にも参加してもらうことになっている。ただ、彩華だけは出産予定日と近いので、体調次第で参加出来るかどうか微妙なのは仕方がない。
「楽しみだね」
「うん、準備は大変だけど、楽しみなの」
環菜は空に浮かぶ月を眺めた。つられて全員が空を見た。
今年の中秋の名月の日の今日。後2日すれば満月の月。
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