ひとひらの雪片をともに融かして

清杉悠樹

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16 一家団欒

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 雪が降っていないからと気を抜くことなく、助手席に座る伊倉さんが少しでも体調をこれ以上崩すことの無いよう慎重に運転しアパート近くまで来ると、ここで降ろしてくださいという伊倉さんから言われたけれど、心配だからと車から降りてアパートの入り口まで見送ってから自宅へと帰ってきた。
 内心ではドアまで一緒についていきたかったけれど。車から降りなくてもいいと言ってくれていたのを入り口までとはいえ、無理についてきたのだから流石にドアまで強引についていくのも気が引けたのだ。
「もし具合が悪くなってもう一度病院に行きたくなったら、絶対に連絡くださいね?水分も沢山取ってくださいね?」
 これからまだ熱が上がるかも知れないし。そうなれば喉が渇いたとしても動くことも億劫でそのままになるかも知れないと紬の頭の中は心配事でいっぱいだ。
「はい。そのときはまたお願いします。それじゃあ今日は有難うございました」
「・・・じゃあ、お大事にしてくださいね?」
「はい」
 はにかんで微笑む伊倉さんのその頬は赤い。インフルのせいだろう。
 熱があるのに見送ってくれる伊倉さんが早く温かな部屋に行けるように、紬は後ろ髪をひかれる気持ちを抑え込んで再び車に乗り込んだ。

「ただいまぁ」
 お昼の時間を少しだけ過ぎて自宅へ帰って帰ってきた紬は、誰に聞かせるでもなく少し疲れを含むような声で帰宅の挨拶の言葉を玄関をくぐりながら言った。
 家族はもうキッチンに集まってお昼ご飯を食べているだろうなと思いながら、廊下を進み、まず洗面所へと向かいマスクを捨ててから手洗いを厳重に終えた。

「お帰り。先に手洗いとうがいしてからご飯ね。それでどうだった?」
 ドアを開けた音で家族全員の視線が柚へと集まった。予想通りに皆は先にお昼ご飯を食べている。雪が降って寒いからかお昼はうどんらしい。
 娘の顔を見るなり、手洗いとうがいを勧めてくるお母さん。これもいつもの事。家族みんなに対してこんな感じだ。柚はマスクをゴミ箱へと捨ててからシンクの所に行き、手洗いをしながら結果を報告した。
「ちゃんと手洗いうがいは終わってるよ。うん、インフルだった。A型だって」
「あらあら、やっぱり」
 お母さんは眉を寄せ、少し考え込むような表情を見せた。きっと大変ねーとでも
考えているのだろう。
「げ。マジかよーっ。とうとうインフルの菌が俺の近くにもっ!ねえちゃん、俺に絶対に近づくなよ!?絶対だからなっ!というか、同じ部屋に居たくねーっ。今うつったらシャレにならねーっつうの。ねえちゃんの彼氏になった奇特な人にも言っておいて。俺にうつすなよって!」
 ほぼ食べ終わろうとしていた弟の麻人は身の危険を回避すべく残りのうどんを急いで食べ終えると、ご馳走様と言い置きバタバタとキッチンから出て行き、バシャバシャと水の音が聞こえた。
「なっ!?」
(か、彼氏って・・・っ!)
 紬は、まるで保菌者決定したかのようなあんまりな態度の弟の言葉に怒りを覚えるより、「ねえちゃんの彼氏」と言われたことに動揺した。
「紬、お母さんから聞いたぞ。なんでももの凄い綺麗な彼氏なんだってな。紬に彼氏が出来るとはなぁ。今日は美味い酒が飲めそうだぁ。なぁ、母さん」
「飲みすぎは駄目ですよ」
 すかさず宣言するお母さんに普段から勝てないお父さんは、それでも禁止されずに酒が飲めることが許されたのが嬉しいらしく、ほくほくした顔をしている。最近、メタボ予備軍まっしぐらになりそうなお父さんの体調管理の為にと、お母さんから毎日飲むことを禁止されたのだ。
 おばあちゃんも、湯飲みに入れられたお茶をすすりながら、にこにこと嬉しそうにしている。

 家族全員にいつの間にか彼氏認定されている事に何か言おうとしても、ぱくぱくと言葉にならずに真っ赤になったまま立ち尽くす紬の分のうどんを、お母さんがお椀に入れてくれた。
「ほら、早く食べちゃいなさい」
 温かな湯気を上げているお椀を紬の席へと置き、お母さんは元の椅子に座りなおした。
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