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8 これもデートの内ですか?
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「あの。伊倉さん、ほんとウチのお母さんが済みません・・・」
雪が降り、視界が悪い。車のワイパーを作動させながら、何か言わなきゃと焦りにも似た思いを抱え、紬は自分の車に同乗し助手席に座っている相手へと車道に目を向けたまま謝った。
現在、何故か伊倉さんと共に車に乗って走っているのである。
仕事が終わり、家へと帰ってきてこれからゆっくりできると思ったのもつかの間。玄関先でお母さんにお使いを頼まれたことが運の尽きと言うべきか。それとも幸運と言うべきか非常に悩むが、お母さんの一言がきっかけでお告白された相手と出かけするとこになったのである。まだ返事はしていないものの、自分の気持ちの中ではとっくに恋に落ちていることは分かっている相手と、だ。緊張感はすでにMAXだ。
だが雪道の運転は気が張る。運転が疎かにならないよう気を付け、いつも以上に安全運転を心掛けながら車を走らせている。
「いえ、全然。どちらかと言えば、役得だと思ってますよ」
―――はうっっ。役得って!
気負いなくさらっと言われた言葉に紬は思わずとくんと感情が跳ねた。同時に、握るハンドルにかなり力が入った。運転しているから横を見ることは出来なかったが、声色からするとどうやら本心らしい。平常心が保てない。
もうっ、もうっ、運転中じゃなかったら顔を覆いたいくらいに恥ずかしいんですけどっ!
あいにく両手が塞がっていて敵わない。変な奇声を上げなかったことを自分で褒めたい。どういう返事を返していいのか悩んで悩んで、結局返事は出来なかった。
シンとする小さな密室は居たたまれないだろうと、予めお気に入りのCDを流していた。適度な音量で流れている男性ボーカリストの曲でラブバラードのサビの部分だった。伊倉さんも紬からの返事かなかったことに特に気にした風ではなくほっとした。
恋愛スキルが底辺どころか、全くない紬にとってどう対応していいのかこんな小さなでも分からない。知っているのは友達の惚気話や、喧嘩の元になったくだらない理由。そして恋愛小説の本の中のスキルだけ。必要だと感じているこんな時に、役立つものを全く思い出せない自分が歯がゆい。
対して伊倉さんはやっぱり慣れてるんだろう。何となく機嫌が良さそうな気配を感じる。
(ほんと、どうして私なんかを気に入ってくれたのか、謎だわ・・・)
現在二人が向かっているのは、紬が良く利用するショッピングセンターだ。同じ敷地内には電気店、ホームセンター、本屋、カフェなども併設されているから欲しいものが大抵同じ場所で済むという利点がある。
どうしてこんなことになっているかと言えば、すべてお母さんのせいである。
玄関前で伊倉さんに声をかけられ、驚いた紬はぎこちなくこんばんはと挨拶を返し、お母さんには東海深川工業株式会社に研修で派遣されてきた社員だと言うこと。今日会社で初めてお会いした人だと紹介した。
伊倉さんの折り目正しい挨拶を受けたお母さんは、彼の態度もさることながらその爽やかな見た目も相当気に入ったらしい。
随分とにこにこと愛想よく笑顔を振りまきながら、雪がいっぱい降ってきて寒いですねとか、これから歩いて家へ帰るんですか、大変ですねという会話を続けると、なんと伊倉さんが越してきたアパートは大野家の右隣にあるアパートだと言うことが判明した。
「ええっ!?」
確かに東海深川工業株式会社は紬の家から割と近い距離にある。徒歩で五分程度だろうか。それは知っていたが、まさか伊倉さんが隣に越してきていたなんて。それも絶妙なタイミングで上の前でばったり会うとか。
会ったばかりの人だけど、今日二度も会えるなんて。
そんな偶然が現実にあるなんて信じられない。奇跡とか、運命とかそんなことを信じてしまいそうになるくらい出来事だと思った。紬の頭の中では花が飛び交い、少女漫画宜しく二人の今日の出会いが乙女チックなストーリーとして流れ始めた。
「お隣が大野さんのお宅だなんて、凄い偶然ですね。ここのアパートに決めて良かったです。・・・嬉しいな。大野さんが近所だなんて」
にこっとはにかんで照れる伊倉さんの笑顔のその破壊力と言ったら!
「~~ソ、ソウデスカ・・・」
嬉しいのはこっちですからーっっっ!と大声で叫びたい。
あああぁぁぁーっ、笑顔が眩しいーっっっと紬が心の内でばったんばったんと悶えてると、急に顔を背けた娘の様子で何かしらピーンとくるものがあったらしい。急にお母さんは平生とは明らかに違うよそ行きの高い声で話し始めた。
「あらあらあら~。伊倉さんとウチの紬の事を随分気に入ってくれているのねぇ~。昔からのんびりしてるというか、大人しくて消極的だからかしら。絶賛彼氏募集中なの~、良かったら伊倉さんどう?」
「お母さんっ!?」
ちょっ、ちょっと!突然急に何を言うのっ、止めてーっっっっ!
伊倉さんには気に入ってくれるどころか、会ったその日に告白をされたけどっ!相手の事をまだよく知りもしない相手にいきなり娘を売り出すとかどうなのよっ!
彼氏なんて気配すらこれっぽちもない。家に居れば本を読んでるか、おばあちゃんとテレビを見ながらまったりお茶を飲んでるか。休日も出かけることがほぼ皆無な娘の前に現れた格好良すぎる青年にお母さんは勢いよく食いついた。
お母さんが言ったことは全部事実だけど。間違ってないけどっ。恥ずかしいからやめて欲しい。切実に。
もう今更後の祭りなんだけど・・・。
「はい。喜んで」
―――!?!?
大いに喜んだお母さんの陰謀(?)により、紬が最初にお願いされた買い物と、伊倉さんが越してきたばかりで近辺の土地勘もなく、生活に必要なものが足りていないのを購入できる店に一緒に連れていくことを決定され、紬は運転手として。伊倉さんは荷物持ちとして送り出されたのだった。
雪が降り、視界が悪い。車のワイパーを作動させながら、何か言わなきゃと焦りにも似た思いを抱え、紬は自分の車に同乗し助手席に座っている相手へと車道に目を向けたまま謝った。
現在、何故か伊倉さんと共に車に乗って走っているのである。
仕事が終わり、家へと帰ってきてこれからゆっくりできると思ったのもつかの間。玄関先でお母さんにお使いを頼まれたことが運の尽きと言うべきか。それとも幸運と言うべきか非常に悩むが、お母さんの一言がきっかけでお告白された相手と出かけするとこになったのである。まだ返事はしていないものの、自分の気持ちの中ではとっくに恋に落ちていることは分かっている相手と、だ。緊張感はすでにMAXだ。
だが雪道の運転は気が張る。運転が疎かにならないよう気を付け、いつも以上に安全運転を心掛けながら車を走らせている。
「いえ、全然。どちらかと言えば、役得だと思ってますよ」
―――はうっっ。役得って!
気負いなくさらっと言われた言葉に紬は思わずとくんと感情が跳ねた。同時に、握るハンドルにかなり力が入った。運転しているから横を見ることは出来なかったが、声色からするとどうやら本心らしい。平常心が保てない。
もうっ、もうっ、運転中じゃなかったら顔を覆いたいくらいに恥ずかしいんですけどっ!
あいにく両手が塞がっていて敵わない。変な奇声を上げなかったことを自分で褒めたい。どういう返事を返していいのか悩んで悩んで、結局返事は出来なかった。
シンとする小さな密室は居たたまれないだろうと、予めお気に入りのCDを流していた。適度な音量で流れている男性ボーカリストの曲でラブバラードのサビの部分だった。伊倉さんも紬からの返事かなかったことに特に気にした風ではなくほっとした。
恋愛スキルが底辺どころか、全くない紬にとってどう対応していいのかこんな小さなでも分からない。知っているのは友達の惚気話や、喧嘩の元になったくだらない理由。そして恋愛小説の本の中のスキルだけ。必要だと感じているこんな時に、役立つものを全く思い出せない自分が歯がゆい。
対して伊倉さんはやっぱり慣れてるんだろう。何となく機嫌が良さそうな気配を感じる。
(ほんと、どうして私なんかを気に入ってくれたのか、謎だわ・・・)
現在二人が向かっているのは、紬が良く利用するショッピングセンターだ。同じ敷地内には電気店、ホームセンター、本屋、カフェなども併設されているから欲しいものが大抵同じ場所で済むという利点がある。
どうしてこんなことになっているかと言えば、すべてお母さんのせいである。
玄関前で伊倉さんに声をかけられ、驚いた紬はぎこちなくこんばんはと挨拶を返し、お母さんには東海深川工業株式会社に研修で派遣されてきた社員だと言うこと。今日会社で初めてお会いした人だと紹介した。
伊倉さんの折り目正しい挨拶を受けたお母さんは、彼の態度もさることながらその爽やかな見た目も相当気に入ったらしい。
随分とにこにこと愛想よく笑顔を振りまきながら、雪がいっぱい降ってきて寒いですねとか、これから歩いて家へ帰るんですか、大変ですねという会話を続けると、なんと伊倉さんが越してきたアパートは大野家の右隣にあるアパートだと言うことが判明した。
「ええっ!?」
確かに東海深川工業株式会社は紬の家から割と近い距離にある。徒歩で五分程度だろうか。それは知っていたが、まさか伊倉さんが隣に越してきていたなんて。それも絶妙なタイミングで上の前でばったり会うとか。
会ったばかりの人だけど、今日二度も会えるなんて。
そんな偶然が現実にあるなんて信じられない。奇跡とか、運命とかそんなことを信じてしまいそうになるくらい出来事だと思った。紬の頭の中では花が飛び交い、少女漫画宜しく二人の今日の出会いが乙女チックなストーリーとして流れ始めた。
「お隣が大野さんのお宅だなんて、凄い偶然ですね。ここのアパートに決めて良かったです。・・・嬉しいな。大野さんが近所だなんて」
にこっとはにかんで照れる伊倉さんの笑顔のその破壊力と言ったら!
「~~ソ、ソウデスカ・・・」
嬉しいのはこっちですからーっっっ!と大声で叫びたい。
あああぁぁぁーっ、笑顔が眩しいーっっっと紬が心の内でばったんばったんと悶えてると、急に顔を背けた娘の様子で何かしらピーンとくるものがあったらしい。急にお母さんは平生とは明らかに違うよそ行きの高い声で話し始めた。
「あらあらあら~。伊倉さんとウチの紬の事を随分気に入ってくれているのねぇ~。昔からのんびりしてるというか、大人しくて消極的だからかしら。絶賛彼氏募集中なの~、良かったら伊倉さんどう?」
「お母さんっ!?」
ちょっ、ちょっと!突然急に何を言うのっ、止めてーっっっっ!
伊倉さんには気に入ってくれるどころか、会ったその日に告白をされたけどっ!相手の事をまだよく知りもしない相手にいきなり娘を売り出すとかどうなのよっ!
彼氏なんて気配すらこれっぽちもない。家に居れば本を読んでるか、おばあちゃんとテレビを見ながらまったりお茶を飲んでるか。休日も出かけることがほぼ皆無な娘の前に現れた格好良すぎる青年にお母さんは勢いよく食いついた。
お母さんが言ったことは全部事実だけど。間違ってないけどっ。恥ずかしいからやめて欲しい。切実に。
もう今更後の祭りなんだけど・・・。
「はい。喜んで」
―――!?!?
大いに喜んだお母さんの陰謀(?)により、紬が最初にお願いされた買い物と、伊倉さんが越してきたばかりで近辺の土地勘もなく、生活に必要なものが足りていないのを購入できる店に一緒に連れていくことを決定され、紬は運転手として。伊倉さんは荷物持ちとして送り出されたのだった。
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