ひとひらの雪片をともに融かして

清杉悠樹

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9 これもデートの内ですか?2

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 雪が降り続く中、ショッピングセンターの駐車場は明日からの大雪に備えの為か、結構な台数が止まっていた。紬は出来ることならなるべく歩かなくて済むようにしたいと思い、建物から近い距離で空いているスペースを探すためにスピードをかなり落としゆっくりと車を走らせた。丁度出ていこうとする車が見えた。出ていくと同時にバックでその場所に車を止めた。
「伊倉さん、着きましたよ。行きましょうか」
「はい。大野さんは運転が巧いですね。私も免許は持っているのですが、余り運転することが無いものですから。でも来週からはそうも言ってられませんからね。見習わないと」
「そ、う、ですか?有難うございます」
 自分ではそんなに運転は巧いとは思わないのだけれど、褒められて嬉しくないわけがない。

「うわっ」
「い、伊倉さん!?」

 車から降りて紬が傘を広げた瞬間、助手席から降りようとしていた伊倉さんから慌てた声がした。紬は傘を片手にボンネットの前を早歩きをして助手席側へと急いだ。

「足元が滑ってしまって」
 アスファルトに積もり始めた雪に伊倉さんは足を滑らせたらしい。とっさにルーフに手を付いて伊倉さんは転倒は免れていた。
「怪我しなくて良かったです」
 べちゃっと溶けてシャーベット状の雪の上で転ばなくて良かったと紬はほっとした。

 駐車場の薄暗い照明で見えた現在の伊倉さんの服装はというと、午後から手塚製作所へ来た時とは違い紺色の作業服を脱いだグレースーツの上から黒いチェスターコートを着込み、履いているのは黒い革靴。
「雪に慣れてないせいですね。済みません、驚かせてしまったようで」
 転びそうになったことが恥ずかしいのか、少しはにかんだ。
「慣れてないってゆうか、それ普通の革靴ですか?冬仕様じゃなくて?」
「冬仕様、ですか?」
 なんのことかと逆に不思議そうに聞き返されてしまった。という事は・・・。伊倉さんが履いてるのは冬仕様じゃないのが確実。

「靴の底が滑らないよう加工された靴です。そうじゃないのならこれだけ雪が積もってるんですから、滑りやすいですよ」
 まだ1cm程度しか積もっていないとはいえ、雪道を歩き慣れている紬だって加工されていない革靴だと滑ってしまう。きっと伊倉さんがいた所は雪が滅多に降らないところなんだろう。
「今夜から積もるってニュースで言ってましたし、出来れば冬用の違うものを履いた方がいいと思います」
 これからまだまだ降り続くだろうから、なおさら危険は増える一方だと言える。

 紬が今履いているのはデザインよりも歩きやすさを重視した黒一色のミドル丈のブーツ。中はボアだから温かい。撥水加工もばっちりで余程何十センチも積もらない限り履いている。ついでに事務服の上に着ているのはフードにファーが付いているダウンコート。ベージュで無難な色。勿論あったか重視。
「それが、現在はこれしか持っていないんです。たまにしか雪が降らない県から来たものですから」
 やっぱり。予想通りだった。

「伊倉さんはどこのご出身なんですか?」
 言葉遣いから関東かなと予想を立てた。
「出身も仕事先も東京です。富山は雪が沢山降るということは勿論知ってましたけど、靴の事まで考えていなかったというか・・・。駄目ですね。実はかなりそそっかしいんですよ」
 と苦笑いする伊倉さん。
「そんな風に見えないです」
 服装もきちんとして清潔だから、見た目と相まって凄く真面目そうに見える。
「本当ですって。自分でも直そうとは思ってるんですが中々・・・。大野さんに失望されないように十分気を付けますけど、気が付いたところがあったらどんどん言ってくださいね」
「・・・はい」
 実際には気が付いたからって即座には言えるとは思えないけど。家族ならまだしも、本当にそそっかしい伊倉さんを見てポンポン言えるようになるには、かなり気兼ねしない関係にならないと難しいと思う。
 ―――でも、もしかして、そういう関係になりたいってこと?まさかね、ないない、私ったら深読みしすぎっ!

「ということで、大野さん。ここのショッピングセンターに靴屋ってありますか?あるのなら今日買って帰ろうと思うのですが」
「ありますよ。そんなに大きな店舗じゃないですけど。靴屋もありますし、隣のホームセンターに行けば長靴とかもありますよ。それじゃあ早速スーパーに行く前に行きましょう」
 伊倉さんに長靴は似合わなそうだけど。もっと服装に似合ったビジネス用ショートブーツが望ましいとは思うけど!でも、雪国に必須なのは長靴。一つは持ってないと絶対に不便だと思う。お金に余裕があるのなら、是非長靴も勧めたい所だけど、どうだろう。最近は色も形もおしゃれな長靴もあるけどね。決めるのは伊倉さん本人だ。

 そろそろ体も冷え始めてきた。雪が降ってるのだから外で長々立ち話をするべきじゃない。傘の上にも薄っすらと雪が積もり始めてきて重みが増している。早く暖かい店の中に移動したほうがいい。
 そう思って紬は伊倉さんを案内するために先に歩き出した。
 
「それと、一つお願いがあるのですが」
「なんですか?」
 靴屋の他にもどこか寄りたいのだと思い、踏み出していた足を止めて後ろを振り返り伊倉さんを見上げた。

「ここから店に入るまで短い距離ですけど、また転びそうなので手を繋いでもらえませんか?」
「はい!?」
 ええっ?なんで!?どうして!?だって店の入り口はすぐそこなのに!
 立っている場所から自動ドアがあるところまで距離にしてわずか5mほどしかない。そこまで手を繋いで歩いて欲しいと言われてしまった。

 そりゃあ、転ばれて怪我でもされたら大変だとは思うけど!でもでもでも!彼氏がいたことが無いから「いいですよ~」なんてあっさりと返事が出来るわけもない。どうしても恥ずかしい気持ちが先立ってしまう。
 ハードルが高すぎるううぅっっー、と返事が出来ずに心で叫んでいると。

「駄目ですか?」
 はうっ。そんな顔も素敵だなんてっ。
 捨てられた子犬みたいな顔を向けられた紬に、最早選択肢は一つしか残っていなかった。 
 魅惑的な誘いを断ることが出来ずに紬はおずおずと手を差し出した。
「有難うございます」
 そうお礼を言って小さな笑みを浮かべた伊倉さんの大きな手によって紬の右手は軽く握られた。冷え始めていた手は、直ぐに温かさを感じた。
 
 おっきな手・・・。

 伊倉さんの顔を直視できなくて、視線は進行方向に向けたまま歩き出した。
 手を引かれながら歩き出したまでは良かったが、何故か伊倉さんは手にしていた傘を片手で器用に閉じると、やや強引に紬の持っていた傘を手に取り、そのまま二人手を繋いだまま店内へと向かったのだった。
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