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続いていた日常と、始まらなかったおとぎ話に。
続いていた日常と、始まらなかったおとぎ話に。 ②
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「洞窟に入れなくなるのは寂しいわ。でも、魔鉱石は限りあるもの……でしょう? もし調査の結果が便利で、簡単に活用できそうな石だって結果だったら……しかも、こんなに綺麗なのよ。ノアと私じゃ、どうにもならない事態に発展していたかもなぁって……」
魔法と同じように。それぞれ魅力のある何かがあったとして。
周りにどう作用していくかは結局当人次第だ。感動し、心豊かになる者もいれば、心を奪われ自身を見失ってしまう者もいる。
おそらくそれらが魔鉱石だろうが効貴石だろうが、人であろうが物であろうが関係ない。
だからエリスは殊更ほっとしたのかもしれない。
魔鉱石を理解せずにただ利用するだけの選択でもなく、知ろうともせずに全てを包み隠し、どう活かすかも考えずになかった事にする訳でもなく。
魔鉱石を介して、皆で未来を創造していけるような結果に。少しだけ安堵した。
ゆっくりと、驚きに丸くなっていたノアの瞳が細まる。
「……実は僕も、同じように思ってた。魔鉱石をどう扱うか……調査前も、今でさえ。僕の中で答えは出なくて。この調査が争いに繋がる結果が明らかに出たら、エリスと相談して真実を伝えるのもやめようと思ってた。でも、結果は僕の能力だとそこまで判断はできないものだったから……不安だったんだ」
「そっか、ノアもだったんだ……。ねぇ、ノア……!」
温かくなる気持ちを堪えきれず、エリスはノアの手を握る。
突然の事にびくりと肩を揺らし、耳の縁をピアスと同じ色へと染めたノアにエリスも羞恥を煽られる。積極的過ぎたかと慌てて手を引こうとすれば、絡め取られ、魔鉱石に劣らぬ美しさの青が近付いた。
「うん、何……?」
甘やかな声音がエリスの耳をくすぐる。
この先ももっともっと話していこう、とか。正しさはわからないけれど一緒に探していこう、とか。より良い未来に繋がるかはこれからの自分達次第だね、とか。これからどんな事があっても、ノアとなら色んな選択肢を見つけられそうだよ、とか。
胸を満たしていた彼への無数の言葉は、あっという間に消えていく。
「ええっと、そのね……! これからも宜しくね、ノア」
真っ赤になるエリスの傍で、ノアの頬がふっと緩んで。
「……宜しく、エリス」
深く穏やかな青の奥に魔鉱石の光が映り込む。真っ直ぐにエリスを見つめていた眼差しが僅かに揺れた。
「エリス……あのさ。会って欲しい人が居るんだ……」
いつかも聞いたその言葉には戸惑いが滲む。
「うん」
予感していたとは告げずとも伝わったのだろう。エリスだけでなく、ノアの表情も泣き笑いへと変わっていく。
堪らず抱き締め返せば、同じように愛情をめいっぱい詰め込んだようなそれが返ってきた。
「黙ってて……騙す形になって、ごめん」
幾度目かのそれをきっかけに。夜空を背にした幻想的なそこで、全ての魔法は解けていく。
取るに足らぬ平凡な薬師と、優しくも臆病な青年と、未来という無限の可能性を残して。
「大丈夫。騙したんじゃなくて、サプライズだと思ってるわ」
冗談めかした薬師の耳元で、青年の笑みが零れた。
魔法と同じように。それぞれ魅力のある何かがあったとして。
周りにどう作用していくかは結局当人次第だ。感動し、心豊かになる者もいれば、心を奪われ自身を見失ってしまう者もいる。
おそらくそれらが魔鉱石だろうが効貴石だろうが、人であろうが物であろうが関係ない。
だからエリスは殊更ほっとしたのかもしれない。
魔鉱石を理解せずにただ利用するだけの選択でもなく、知ろうともせずに全てを包み隠し、どう活かすかも考えずになかった事にする訳でもなく。
魔鉱石を介して、皆で未来を創造していけるような結果に。少しだけ安堵した。
ゆっくりと、驚きに丸くなっていたノアの瞳が細まる。
「……実は僕も、同じように思ってた。魔鉱石をどう扱うか……調査前も、今でさえ。僕の中で答えは出なくて。この調査が争いに繋がる結果が明らかに出たら、エリスと相談して真実を伝えるのもやめようと思ってた。でも、結果は僕の能力だとそこまで判断はできないものだったから……不安だったんだ」
「そっか、ノアもだったんだ……。ねぇ、ノア……!」
温かくなる気持ちを堪えきれず、エリスはノアの手を握る。
突然の事にびくりと肩を揺らし、耳の縁をピアスと同じ色へと染めたノアにエリスも羞恥を煽られる。積極的過ぎたかと慌てて手を引こうとすれば、絡め取られ、魔鉱石に劣らぬ美しさの青が近付いた。
「うん、何……?」
甘やかな声音がエリスの耳をくすぐる。
この先ももっともっと話していこう、とか。正しさはわからないけれど一緒に探していこう、とか。より良い未来に繋がるかはこれからの自分達次第だね、とか。これからどんな事があっても、ノアとなら色んな選択肢を見つけられそうだよ、とか。
胸を満たしていた彼への無数の言葉は、あっという間に消えていく。
「ええっと、そのね……! これからも宜しくね、ノア」
真っ赤になるエリスの傍で、ノアの頬がふっと緩んで。
「……宜しく、エリス」
深く穏やかな青の奥に魔鉱石の光が映り込む。真っ直ぐにエリスを見つめていた眼差しが僅かに揺れた。
「エリス……あのさ。会って欲しい人が居るんだ……」
いつかも聞いたその言葉には戸惑いが滲む。
「うん」
予感していたとは告げずとも伝わったのだろう。エリスだけでなく、ノアの表情も泣き笑いへと変わっていく。
堪らず抱き締め返せば、同じように愛情をめいっぱい詰め込んだようなそれが返ってきた。
「黙ってて……騙す形になって、ごめん」
幾度目かのそれをきっかけに。夜空を背にした幻想的なそこで、全ての魔法は解けていく。
取るに足らぬ平凡な薬師と、優しくも臆病な青年と、未来という無限の可能性を残して。
「大丈夫。騙したんじゃなくて、サプライズだと思ってるわ」
冗談めかした薬師の耳元で、青年の笑みが零れた。
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