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勇者エリシオ編
第6話:紺碧の揺り籠
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そこに眠る子供に角は無く、コウモリのような被膜の翼も無い。
歴史に語られる魔族の特徴は、1つも見当たらなかった。
小柄で細い身体は非力な少女といった感じで、魔王などというイメージとは程遠かった。
「この子、本当に魔王なの?」
魔王どころか魔族ですらなさそうな容姿に、エリシオは困惑する。
「986年前、ここへ連れて来られた時の動画が残ってるから見せてあげるよ」
そう言って、拓郎は液晶テレビに似た魔道具に過去の映像を映し出した。
王家の人々として肖像画が残る4人(国王ラスタとその王妃アリア、女王イリアとその夫セイル)、ぽっちゃり体型のオジサン、茶髪の青年がいる。
そこへ華奢な体格の子供を抱えて現れる、金髪碧眼の青年。
「ん? その子は? フォンセの奴隷を保護してきたのかい?」
ぽっちゃり体型のオジサンが問う。
「いえ、これ魔王です」
さらっと答える金髪の青年。
「は?!」
そこにいた一同、揃って子供を二度見。
抱かれているのは、灰色の長い髪をもつ少女のような容姿の子。
「いや待て、どこの世界に魔王をお姫様抱っこして来る勇者がいるんだよ!」
茶髪の青年がツッコむ。
「ここにいるけど?」
しれっと答える金髪の青年。
「連れて帰るなよ! 倒してこいよ!」
「いや、弱々しすぎてそんな気にならないよ」
魔王がそこにいるのに、何とも緊迫感の無い会話だった。
エリシオは呆然としていた。
「と、まあこんな動画が残ってるから。金髪の彼…トワの勇者が冗談を言ってるのでなければ、この子供が魔王なんだよ」
映像を終了させて、拓郎が言った。
「弱々しすぎて倒す気にならないって、どういう事?」
仮死状態で封印されている子供を再び見詰めて、エリシオは問う。
「自力で歩く事も出来なかったそうだよ。川でコケて起き上がれずに溺れたらしい」
「そんな魔王だったら勇者いなくても斃せる気がする…」
魔王の恥ずかしい過去(?)を聞いて、半目になるエリシオ。
「この魔王を斃すのは簡単だよ。今なら生命維持装置をOFFにすれば死亡する。でも、殺してはいけない理由があるんだ」
拓郎が語る。
魔王は死ぬと転生する。
転生したら今よりも強くなる可能性が高い。
斃しても転生という形で復活するのなら、封印した方が平和だ。
「だから魔王が死なないように、紺碧の揺り籠で護ってるんだよ」
「じゃあ、この魔道具はず~っとこのまま魔王を封印し続けられるの?」
エリシオは問う。
「それは無理だろうね」
拓郎が答えた。
SETA社の魔道具は長持ちするが、動力源の魔石のエネルギーが尽きると機能停止する。
この大きな魔道具の動力源にどんな魔石を使っているかは知らないけれど、永遠に稼働し続けられるとは思えなかった。
「魔力の高いエリシオをここへ連れて来たのは、魔石の入れ替えとメンテナンス作業の間に魔王の生命維持をしてもらう為だよ」
「生命維持…?」
「魔力譲渡を使う。作業が終わるまで発動し続ける事。魔王は生命維持だけでも物凄い量の魔力を消費するから、誰でも出来る事じゃない」
「そっか、僕ならいくらでも魔力を分けてあげられるものね」
そのくらい自分にとっては簡単な事だとエリシオは思う。
魔力譲渡は既に習得済みで、彼にとって楽に使える支援魔法の1つだった。
「じゃあ、任せてもいいかな?」
「うん」
拓郎の問いかけに、エリシオは頷いた。
拓郎とクロードが、作業開始前の点検に入る。
紺碧の揺り籠の動力に使われる魔石は、極運の勇者とも言われたセイルがストックしてくれていた。
「じゃあそろそろ始めるよ。魔王の蘇生は鍵がかかってるから解除してね」
「…鍵…?」
拓郎に言われ、エリシオは首を傾げる。
「眠り姫を起こす方法と同じだよ」
「え?! 待って、それって…」
具体的に言われなかったが、その言葉で察して焦るエリシオ、まだ6歳。
「見た目可愛いから平気だろ?お姫様にキスする感覚で頼むよ」
「なんでそんな鍵が………」
ニコニコして言う拓郎、若干面白がってるような気がする。
動揺するエリシオだが、今更拒否も出来ない。
「額とかでもいい?」
「試してごらん」
透明な蓋が開けられ、まだ生命維持装置が作動している間に試してみるエリシオ。
…が、予想通り額では無効で、仮死状態が続く。
「………。2人ともあっち向いてて」
エリシオが赤面しつつ言うと、大人たちはハイハイと言いつつ視線をはずす。
もはや観念して、プルミエの第三王子は魔王にファーストキスを捧げるのであった。
仮死状態が解除された眠り姫(魔王)を抱き起こし、生命維持のケーブルが付いたまま抱き締める。
魔力譲渡を発動させると、意識が戻った少女(?)は目を開けた。
探るように背中を撫でられて、エリシオは相手の意識が戻った事に気付く。
「…あ、気が付いた? お、おはよう」
ちょっと動揺気味のエリシオ。
「久しぶり…だな?」
可愛い顔に不敵な笑みを浮かべて、魔王が言う。
「………え?」
「よく我を起こせたな。これは褒美だ」
両手で頬に触れられ戸惑っていると、目覚めたばかりの相手はニコッと微笑み、躊躇わずに唇を奪った。
歴史に語られる魔族の特徴は、1つも見当たらなかった。
小柄で細い身体は非力な少女といった感じで、魔王などというイメージとは程遠かった。
「この子、本当に魔王なの?」
魔王どころか魔族ですらなさそうな容姿に、エリシオは困惑する。
「986年前、ここへ連れて来られた時の動画が残ってるから見せてあげるよ」
そう言って、拓郎は液晶テレビに似た魔道具に過去の映像を映し出した。
王家の人々として肖像画が残る4人(国王ラスタとその王妃アリア、女王イリアとその夫セイル)、ぽっちゃり体型のオジサン、茶髪の青年がいる。
そこへ華奢な体格の子供を抱えて現れる、金髪碧眼の青年。
「ん? その子は? フォンセの奴隷を保護してきたのかい?」
ぽっちゃり体型のオジサンが問う。
「いえ、これ魔王です」
さらっと答える金髪の青年。
「は?!」
そこにいた一同、揃って子供を二度見。
抱かれているのは、灰色の長い髪をもつ少女のような容姿の子。
「いや待て、どこの世界に魔王をお姫様抱っこして来る勇者がいるんだよ!」
茶髪の青年がツッコむ。
「ここにいるけど?」
しれっと答える金髪の青年。
「連れて帰るなよ! 倒してこいよ!」
「いや、弱々しすぎてそんな気にならないよ」
魔王がそこにいるのに、何とも緊迫感の無い会話だった。
エリシオは呆然としていた。
「と、まあこんな動画が残ってるから。金髪の彼…トワの勇者が冗談を言ってるのでなければ、この子供が魔王なんだよ」
映像を終了させて、拓郎が言った。
「弱々しすぎて倒す気にならないって、どういう事?」
仮死状態で封印されている子供を再び見詰めて、エリシオは問う。
「自力で歩く事も出来なかったそうだよ。川でコケて起き上がれずに溺れたらしい」
「そんな魔王だったら勇者いなくても斃せる気がする…」
魔王の恥ずかしい過去(?)を聞いて、半目になるエリシオ。
「この魔王を斃すのは簡単だよ。今なら生命維持装置をOFFにすれば死亡する。でも、殺してはいけない理由があるんだ」
拓郎が語る。
魔王は死ぬと転生する。
転生したら今よりも強くなる可能性が高い。
斃しても転生という形で復活するのなら、封印した方が平和だ。
「だから魔王が死なないように、紺碧の揺り籠で護ってるんだよ」
「じゃあ、この魔道具はず~っとこのまま魔王を封印し続けられるの?」
エリシオは問う。
「それは無理だろうね」
拓郎が答えた。
SETA社の魔道具は長持ちするが、動力源の魔石のエネルギーが尽きると機能停止する。
この大きな魔道具の動力源にどんな魔石を使っているかは知らないけれど、永遠に稼働し続けられるとは思えなかった。
「魔力の高いエリシオをここへ連れて来たのは、魔石の入れ替えとメンテナンス作業の間に魔王の生命維持をしてもらう為だよ」
「生命維持…?」
「魔力譲渡を使う。作業が終わるまで発動し続ける事。魔王は生命維持だけでも物凄い量の魔力を消費するから、誰でも出来る事じゃない」
「そっか、僕ならいくらでも魔力を分けてあげられるものね」
そのくらい自分にとっては簡単な事だとエリシオは思う。
魔力譲渡は既に習得済みで、彼にとって楽に使える支援魔法の1つだった。
「じゃあ、任せてもいいかな?」
「うん」
拓郎の問いかけに、エリシオは頷いた。
拓郎とクロードが、作業開始前の点検に入る。
紺碧の揺り籠の動力に使われる魔石は、極運の勇者とも言われたセイルがストックしてくれていた。
「じゃあそろそろ始めるよ。魔王の蘇生は鍵がかかってるから解除してね」
「…鍵…?」
拓郎に言われ、エリシオは首を傾げる。
「眠り姫を起こす方法と同じだよ」
「え?! 待って、それって…」
具体的に言われなかったが、その言葉で察して焦るエリシオ、まだ6歳。
「見た目可愛いから平気だろ?お姫様にキスする感覚で頼むよ」
「なんでそんな鍵が………」
ニコニコして言う拓郎、若干面白がってるような気がする。
動揺するエリシオだが、今更拒否も出来ない。
「額とかでもいい?」
「試してごらん」
透明な蓋が開けられ、まだ生命維持装置が作動している間に試してみるエリシオ。
…が、予想通り額では無効で、仮死状態が続く。
「………。2人ともあっち向いてて」
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探るように背中を撫でられて、エリシオは相手の意識が戻った事に気付く。
「…あ、気が付いた? お、おはよう」
ちょっと動揺気味のエリシオ。
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