【本編完結】株式会社SETA異世界派遣部~ゲーム大会で優勝したら異世界に招待された~

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勇者エリシオ編

第24話:真夜中の奇跡

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 カートル神殿の奇跡。
 鉱山の大規模な落盤事故で多数の負傷者が出ながら、死者がゼロで済んだ。
 内臓損傷や四肢の欠損などの重傷を完治させられるのは単体回復の最上級回復魔法エクストラヒールしかない。
 それを使えるのが大神官のみとなった夜間、順番を待つ間に失血状態となり、命が危うい者が大勢いた。
 死の危険を感じる中、光の雨は突然降り注ぎ、瀕死の重傷を含む全ての負傷者を瞬時に完治させたという。

「あのような回復魔法など、どの書物にも記されていません」
 治療を続けながら、ペリアルは語る。
(創造神のギフト・生命の復活リザレクションとは別物のようね…)
 同じく治療を続けつつ、ソレミアは考える。
 遥かな昔、勇者セイルと聖女イリアが創造神から授かったというギフト。

 生命の復活リザレクション
 死者を蘇生させる奇跡の技。
 全開で発動すればこの世界全体が効果範囲に入るというとんでもない範囲魔法。
 魂さえ残っていれば肉体は消滅していても完全復活させられる。
 普段は封印されており、神が解放した時のみ使える。

 そのギフトは死者に対して使うものなので、まだ生きている人々には使えない。

「術者の姿は見当たりませんでしたし、神の奇跡と言う以外に説明がつかないのです」
 不可解な魔法に困惑しつつも、救われた事に変わりはない。
(誰かが未発表のオリジナル魔法を使った? 公にしたくなくて隠れて使用しているのかも)
 ソレミアの推測は、ほぼ正解に近かった。


 奇跡は再び訪れる。
 真夜中のカートル神殿、屋根の上に現れる少年。
 その足元には使い魔の猫もいた。
 辺りを見回し、誰も屋外にいない事を確認すると、1人と1匹は魔法を起動する。

 効果増大インクリーストをエリシオに注ぐロミュラ。
 最上級回復魔法エクストラヒールを神殿内部へ向けて放つエリシオ。

 複合魔法:癒しの光雨ヒーリングレイン、発動。

 エリシオの身体から放たれる光の粒子が、屋根を通り抜けて雨のように降り注ぐ。

 神殿内に居た全員に、最上級回復魔法エクストラヒールと同じ回復効果が注がれた。
 気付いた神官たちが、一斉に跪いて神に感謝の祈りを捧げる。
 痛みや苦しみから解放され、怪我や病魔が消えた患者たちも驚きつつ神に感謝する。
 大神官も彼等と同じく、ただ静かに感謝の祈りを捧げた。

 その不思議な出来事は、重傷者が多く大神官の治療が追い付かない日の夜に起きる。
 神殿を見守って下さる神の御業だと、ペリアルも神官たちも信じるようになった。


(ロミュラ様、何故そのような事を…)
 神殿外の街路樹、その枝葉に隠れる者が1人。
 ロミュラの魔法の気配を辿って来た魔族の男性がいる。
(契約紋? あの子供に支配されているのか?!)
 優れた視力で猫ロミュラの額にある血印に気付き、彼はギリッと歯噛みした。
 従魔契約は主人が死亡すれば解除される。
 ロミュラを解放しようとした魔族の男は、エリシオを狙って弓矢を構える。

「やめておきなさい」
 不意に背後から声がすると同時、魔族の男はゾクッと寒気のような恐怖を感じた。

「あの子を攻撃しても、自動反撃の倍返しを食らうだけよ」
 首に突き付けられた切っ先。
 名匠が鍛えた刀剣のような、鋭さと美しさをもつ娘がいる。
 接近された気配など、全く感知出来なかった。
 格が違い過ぎる。
 本能的にそう感じて、彼は動けなかった。

「武器を捨てなさい。あなたが知りたい事は教えてあげるから」
 ソレミアに命じられ、魔族は手にしていた弓矢を地面に落とす。
 弓矢は地面に落ちた直後、ボッと燃え上がり消し炭と化して消えた。
 少女の肩にスウッと現れる紅い鳥。
 転生しながら長い時を生きる魔族には、それが高温の炎を操る不死鳥フェニックスだと分る。

「お前は、勇者か?」
 男は問うた。
「いいえ、聖女よ」
 少女の答えに、彼は愕然とした。
 聖女といえば本来は浄化と癒し担当で、物理戦闘には加わらない。
 しかし目の前の少女は、切っ先を向けただけで相手を圧倒するオーラを放っていた。

「人も文明も、時の流れの中で変わってゆくの。あなたが最初に生きた古代と現代人の文明の違い、まずは冷静に比べて見るといいわ」
 言いながら、ソレミアは指輪型魔道具のアプリを起動する。

 異空間牢獄:other dimension prison

 王族とSETA社が管理する特殊な牢獄。
 そのゲートは彼等が装備する魔道具のアプリからアクセス出来る。

 ソレミアは観念した様子の魔族をその牢に入らせた。
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