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美月~聖女の力はひたすら隠す
ep35:美月視点㉕
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お城の調理場を手伝い始めて1ヶ月が経った頃。
騎士団の稽古場へ向かうアランを見送り、厨房へ向かおうとした私は、いじめの現場を目撃してしまった。
廊下の隅でコックコートを着た5人の男に囲まれているのは、出勤途中のセアンヴレだ。
「いい気になるなよ」
食中毒っぽいものから回復して職場復帰した先輩料理人たちが、さっそくセアンヴレに八つ当たりしている。
ゲームでは一枚絵で下に台詞が出てくるだけだった虐めシーンが、リアルに展開されている真っ最中。
静止画像1枚見るだけと目の前で人が動いて喋っているのとでは、迫力が違うわね。
「平民のくせに」
王宮で働く人々の身分比率は貴族が多く、平民は少ない。
セアンヴレはレグルスだけでなく、料理長による評価も高い。
貴族出身でプライドが高い先輩料理人たちは、それが気に食わないのね。
セアンヴレは何を言っても逆上されることを知ってるから、無言無表情で床を見つめていた。
私は物陰に隠れて、どうなるか見守る。
セアンヴレの左足首から、私の魔力を感じる。
大丈夫。今日もミサンガを着けているものね。
「ちょっとそこへ座れ」
いじめのリーダー格の先輩に命じられて、セアンヴレは俯いたまま大理石の床の上に正座した。
先輩が何をする気か、セアンヴレには分かっている筈。
でも、逃げたり抵抗したりせずに、大人しくしている。
「久しぶりに指導してやる。ありがたく思え」
意地の悪い笑みを浮かべて、先輩の1人が蹴りの体勢に入る。
これまで何度もセアンヴレを痛めつけてきたであろう足蹴りは、ミサンガに秘められた付与魔法に防がれた。
足を振り上げて蹴ろうとした男が、ズルッと足を滑らせる。
バランスを崩して転倒した彼は、硬い床で後頭部を強打して白目を剥き、動かなくなった。
「おいおい……」
「なにやってんだ」
「……?」
マヌケ過ぎる光景に、他の男たちが呆れて呟く。
セアンヴレも無言のままポカンとしていた。
「まだ体調が悪いんだろ。医務室へ連れていけ」
「「はい」」
リーダーの男に言われて、2人の先輩たちが気絶した男の上半身と足を抱えて運んでいく。
3人がいなくなり、残った2人のうちリーダーではない男が、セアンブレを睨みながら歩み寄る。
彼はコックコートのポケットから鞘つき果物ナイフを取り出した。
(ちょっと。なんでここで刃物なんか取り出すのよ)
私は物陰に隠れながら、心の中でツッコミを入れた。
料理人が果物ナイフを持つことは、変ではないけれど。
フルーツも無いのに、取り出して鞘から抜き放つってどうなの。
しかし、そのナイフがセアンヴレを傷つけることは無かった。
男は手にした果物ナイフを鞘から抜き放とうとしたけど、ひっかかって抜けない。
怪訝に思った男が力を加えて抜いた直後、鞘は手から離れて飛び、リーダー格の男の鼻筋を直撃した。
「く~っ! おい、気を付けろ」
「すいません、大丈夫で……」
痛そうにしている男に、鞘を飛ばしてしまった男が心配して歩み寄る。
しかし彼は追い打ちみたいに不幸が続き、床で足を滑らせてバランスを崩し、リーダー格の男を巻き込んで転倒した。
2人分の体重がかかった状態で仰向けに倒れたリーダーは、さっき医務室へ運ばれた男よりも大きな音を立てて後頭部を強打、泡を吹いて白目を剥き、動かなくなってしまった。
「す、すいません、副料理長。……おい平民、今日はもういい。調理場に向かえ」
「は、はい」
巻き込まれ転倒で失神した男は、副料理長だったのね。
ファンブックでは、先輩料理人たちとしか書いてなかったけど。
結局、先輩たちはセアンヴレにかすり傷ひとつ負わせることなく、その場は終了した。
セアンヴレは何が起きたのか分からないという感じで、調理場へと歩いて行く。
私はミサンガの効果が充分役立っていることに満足しつつ、セアンヴレより少し後に調理場へ向かった。
騎士団の稽古場へ向かうアランを見送り、厨房へ向かおうとした私は、いじめの現場を目撃してしまった。
廊下の隅でコックコートを着た5人の男に囲まれているのは、出勤途中のセアンヴレだ。
「いい気になるなよ」
食中毒っぽいものから回復して職場復帰した先輩料理人たちが、さっそくセアンヴレに八つ当たりしている。
ゲームでは一枚絵で下に台詞が出てくるだけだった虐めシーンが、リアルに展開されている真っ最中。
静止画像1枚見るだけと目の前で人が動いて喋っているのとでは、迫力が違うわね。
「平民のくせに」
王宮で働く人々の身分比率は貴族が多く、平民は少ない。
セアンヴレはレグルスだけでなく、料理長による評価も高い。
貴族出身でプライドが高い先輩料理人たちは、それが気に食わないのね。
セアンヴレは何を言っても逆上されることを知ってるから、無言無表情で床を見つめていた。
私は物陰に隠れて、どうなるか見守る。
セアンヴレの左足首から、私の魔力を感じる。
大丈夫。今日もミサンガを着けているものね。
「ちょっとそこへ座れ」
いじめのリーダー格の先輩に命じられて、セアンヴレは俯いたまま大理石の床の上に正座した。
先輩が何をする気か、セアンヴレには分かっている筈。
でも、逃げたり抵抗したりせずに、大人しくしている。
「久しぶりに指導してやる。ありがたく思え」
意地の悪い笑みを浮かべて、先輩の1人が蹴りの体勢に入る。
これまで何度もセアンヴレを痛めつけてきたであろう足蹴りは、ミサンガに秘められた付与魔法に防がれた。
足を振り上げて蹴ろうとした男が、ズルッと足を滑らせる。
バランスを崩して転倒した彼は、硬い床で後頭部を強打して白目を剥き、動かなくなった。
「おいおい……」
「なにやってんだ」
「……?」
マヌケ過ぎる光景に、他の男たちが呆れて呟く。
セアンヴレも無言のままポカンとしていた。
「まだ体調が悪いんだろ。医務室へ連れていけ」
「「はい」」
リーダーの男に言われて、2人の先輩たちが気絶した男の上半身と足を抱えて運んでいく。
3人がいなくなり、残った2人のうちリーダーではない男が、セアンブレを睨みながら歩み寄る。
彼はコックコートのポケットから鞘つき果物ナイフを取り出した。
(ちょっと。なんでここで刃物なんか取り出すのよ)
私は物陰に隠れながら、心の中でツッコミを入れた。
料理人が果物ナイフを持つことは、変ではないけれど。
フルーツも無いのに、取り出して鞘から抜き放つってどうなの。
しかし、そのナイフがセアンヴレを傷つけることは無かった。
男は手にした果物ナイフを鞘から抜き放とうとしたけど、ひっかかって抜けない。
怪訝に思った男が力を加えて抜いた直後、鞘は手から離れて飛び、リーダー格の男の鼻筋を直撃した。
「く~っ! おい、気を付けろ」
「すいません、大丈夫で……」
痛そうにしている男に、鞘を飛ばしてしまった男が心配して歩み寄る。
しかし彼は追い打ちみたいに不幸が続き、床で足を滑らせてバランスを崩し、リーダー格の男を巻き込んで転倒した。
2人分の体重がかかった状態で仰向けに倒れたリーダーは、さっき医務室へ運ばれた男よりも大きな音を立てて後頭部を強打、泡を吹いて白目を剥き、動かなくなってしまった。
「す、すいません、副料理長。……おい平民、今日はもういい。調理場に向かえ」
「は、はい」
巻き込まれ転倒で失神した男は、副料理長だったのね。
ファンブックでは、先輩料理人たちとしか書いてなかったけど。
結局、先輩たちはセアンヴレにかすり傷ひとつ負わせることなく、その場は終了した。
セアンヴレは何が起きたのか分からないという感じで、調理場へと歩いて行く。
私はミサンガの効果が充分役立っていることに満足しつつ、セアンヴレより少し後に調理場へ向かった。
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