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5章

2話目 前編 お嬢様姉妹

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 「ギャッハハハハハハ!いくら騎士様護衛様でもこの人数を相手するのは厳しいだろ!?」
「くっ……!」

 世紀末の世界にでもいそうな三十人の賊に対抗する鎧の護衛たちはたった五人。
 すでに賊十人と護衛七人が地面に倒れて動けなくなってしまっている状態。
 残りの護衛たちも満身創痍で疲労が溜まっている。

「もう諦めて主を差し出せよ!そうすれば俺たちの後でいいおもいをさせてやるぜ?」
「断る!誰が貴様たちのような……クズ共……と……?」
「んじゃさっさと死ね!やれ、てめぇら!」

 先頭の男が号令をかけるが、誰一人として返事をしない。
 護衛の者たちも視線を男ではなく、その後ろに向けてありえないものを見ているかのように唖然としていた。

「おい、なんで誰も行かねえんだよ!?」
「そりゃまぁ、誰もいないからな……ゲプ」

 振り返る男に俺が返事を返してやる。
 三十人もいた人間のほとんどは俺の腹の中だ。
 一人二人は実験ということでレチアがこっそり倒して地面に転がっている。

「な、なん――」

 しかし流石に数が多かったのか、その内の誰かの腕が捕食する口からボトリと音を立てて落ちてしまった。

「ひ……ひぃっ!?ばけっ、化け物……!」

 しかしそれが逆に残った男の恐怖心を煽ったようで、その場で腰を抜かして失禁してしまう。

「はいはい、化け物ですよっと。残りはお前だけね」
「た、たすっ、たたたたすけっ――」

 慈悲を請わせることもなく、複数の口に変化させた右腕を全て男に伸ばして向かわせる。

「いやだぁぁぁぁぁっ!?」

 伸ばした右腕はそれぞれが意志を持つように男を宙へ放り投げてから各部位を噛み千切り、バラバラにして食らってしまう。

「……ケプ」

 血の一滴すら残さず食い尽くした。
 あまりの異様な事態に馬車を守る護衛たちも呆然と立ち尽くしてしまっている。
 俺が護衛たちに視線を向けると、僅かに肩を跳ねさせ、震えながらこっちに剣を向けてきた。
 でもやっぱり怖いものは怖いらしく、誰も自分から襲ってこようとはしなかった。

「こいつら食わないのにゃ?」
「いや、食う」

 レチアに言われて彼女が倒して死体と化している男たちを捕食する。

【経験値を会得し、ウイルスレベルが40になりました。レベルが一定以上に達したため、各ステータスに10ポイントが割り振られます。その他のポイントも自動的に割り振られます。「剣技上達」の加護を発見しました。「剣技上達Lv1」を習得。「剣技上達」を持つ者が複数いたため、レベルが2に上がります。「投擲」の加護を発見しました。「投擲Lv1」を習得。「鼓舞激励」を発見しました。「鼓舞激励Lv1」を習得】

 頭の中に直接アナウンスが流れる。
 この声はこの世界に来てからしばらくして聞こえるようになり、俺はこれをアナウンスの「アナさん」と呼んでいる。
 正式には俺を補助してくれるシステム、「アナザーシステム」と言うらしい。どちらにしてもアナさんなのである。
 そして一度に大量の人間を捕食したためにレベルが一気に上がり、複数の加護まで手に入れてしまった。
 それぞれどういう効果なのか凄い気になる。

【「剣技上達」は剣、大剣、短剣を使う際に身体能力へ自動補正が掛かり、剣技を覚えやすくなります。「投擲」は投げ物の命中精度への補正がかかります。「鼓舞激励」は宿主が仲間と認めたパーティメンバーへ全ステータス上昇効果を常時付与させます】
「ヤタ、なんだか体が軽くにゃったんだけど、なんかしたかにゃ?」

 早速効果が現れたらしい。凄い加護を手に入れたな。
 たしかにこんな加護を賊が持ってたら、訓練を積んでる護衛でも苦戦してしまうだろう。

「新しい加護の力みたいだ」
「……普通、一人が持つ加護はそこまで多く持てないのが常識にゃのに、ヤタは本当に食べれば食べるほど強くなるのにゃ……なんだかズルいにゃ。雑用の依頼ばっか好んで選ぶクセに」
「最後のは関係なくない?」

 意味のわからない嫉妬でも傷付くんだぞ☆

「動くな、テメェら!」

 終わったと安心して雑談してたその時、ララたちが隠れていた草陰から知らない男の声が聞こえてきた。
 振り向くと一人の男にイクナが捕まり、ナイフを突き付けられている。
 まだ仲間がいたか……!
 彼女を守っていたララたちは……まぁ、あくまでイクナが暴れないよう言っただけだから、そこは甘かったかもしれない。

「ヤメロッ!」
「動くなっつってんだろうが、気色の悪いクソガキが!」
「イッ……!」

 暴れようとするイクナを男が殴り付ける。

「この……!」
【戦闘に不要な感情を確認。レジストします】
「ガアッ!」

 俺の感情が高揚して駆け出しそうになったのをアナさんに抑えられるが、イクナが我慢できずに男の腕へ強く噛み付いてしまう。

「ぐあぁぁぁぁ!こ、このクソガキ――」
【個体名「イクナ」の能力が人間糧にしたことで大幅に強化されました。イクナの体内のウイルスにより「変身」が行われます。「変身」によりイクナの種族が変化します】
「グアァァァァッ!」

 アナさんのアナウンスが聞こえるとイクナの様子が変わり、片方だけ残った人間らしい目がララのように白目が黒く瞳が黄色く染まる。
 同時に彼女から衝撃波が巻き起こり、イクナを捕まえていた男が彼女から離れて軽く宙に浮いた。

「うおっ!?」
「【テンペスト・ロア】!」

 イクナが素早く振り返り、手の平を男に向けてハッキリとした言葉を口にする。
 すると彼女の手から凄まじい勢いの竜巻が巻き起こり、男を跡形もなく消し飛ばしてしまう。
 その勢いは空に広がっていた雲も消えてしまうほどだった。

「……すげ」

 その壮観な光景を見た俺の口から自然とその一言だけが漏れていた。

「オニィチャ!オニィチャ!スゴイノイッパイデタ!」

 男を消し飛ばしたイクナがカタコトの言葉で喜びを表しながらこっちに来て飛び付いてきた。

「ああ、見てたぞ。凄かったな……って」

 何か違和感を感じた。
 近付いて来たイクナへの違和感。
 遠近感というか、なんとなくいつもより彼女が大きく感じた。
 ――むにゅ
 ……いや、どこがとかは言わないよ?
 たしかに子供っぽくない胸のやわらかさがあるけれど、それだけじゃなくて身長も伸びた気がするし、全体的に綺麗になってる気がする。
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