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5章

12話目 後編 混乱《仮終》

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 この度は「異世界でも目が腐ってるからなんですか?」を開いて読んでいただきありがとうございます。
 当初予定していた通り物語の途中ではありますが、ここで一区切りとさせていただくことにしました。
 過去作「最強の異世界やりすぎ旅行記」に引き続いて中途半端ではありますが、何卒ご理解ください……
 引き続き新しい作品を書く予定ですので、投稿した際はTwitterなどでお知らせ致しますのでぜひそちらもよろしくお願い致します。
 尚、こちらの作品は一時休載という形にし、場合によっては執筆を再開する場合がありますのでそちらの方もTwitterにてお知らせ致します。
 長々と失礼しました、引き続き物語をお楽しみください。

――――

☆★☆★

 町が消えた騒動から九日後。
 あっしガカンとアリア嬢はあの日、あの黒い物体の妨害により旦那の元へ辿り着くのは困難と判断し、再びアリア嬢のご自宅でお世話になっていた。
 町の近場ではぐれたレチアさんたちとも無事合流したが、旦那に会えなかったイクナの嬢ちゃんは今まで以上に不機嫌になっていた。恐らくあの黒いモノから旦那の存在を感じていただけに、旦那から拒絶された気分になったのだろう。
 まぁそれはともかく、そのことで各国では主要都市が消えたことで混乱が起き、歓喜する敵国もいれば商品の輸入などをしていた方々は民と共に悲鳴を上げている。

「正直言いますとワタクシたちもピンチ……ということになりますわね」

 今現在、アリア嬢とその家族が軽く溜め息を吐きながら、コーヒーを入れたカップをグルグルかき混ぜていた。
 そして彼女の横ではその父親が絶望オーラを纏って落ち込んでいる。
 理由は簡単、仕えるべき王がいる国そのものが消滅してしまったら、貴族は貴族と呼べるのかという問題。
 結論は否。
 民のいない人間が「自分は王だ」と言っているようなものだ。
 王のいない貴族は貴族と呼べない。
 しかし幸いなことにアリア嬢のご家庭は領主をしているとのこと。つまり導べき民がいるから今すぐどうこうなるというわけではない。
 ちなみにアリア嬢の妹方二人と出会った日も、その収めている領地の様子を見に行った帰りだったらしい。

「なんというか……アレがヤタの仕業だとしたら凄く申し訳ないにゃ……」

 レチアさんがそう言い、見てわかるくらい耳を垂らして下を向いて落ち込んでいた。

「いえ、あなた方が気にすることではありませんわ。ヤタさんだって悪気があったわけではないでしょうし……」
「しかしどうしたものか。これは我が家や国の……元あった王都の貴族たちだけの問題ではない。下手をすれば戦争にも発展しかねない」
「戦争……でやすか……?」

 思わず固唾を飲んで緊張してしまう。

「不謹慎な話、空いた領地を我がものにしようという考えを持つ国は例え同盟国であっても浮かぶだろう。そうなればこの場所もただでは済まない。仮に無事だったとしても貴族という立場の無くなった我々はこの土地から追い出されて平民として生きていくことになるか……何にせよ今の生活を続けていくことはできないだろうね」

 アリア嬢の父君はそう言いながら薄ら笑いを浮かべる。心配させないように笑おうとしたのだろうけれど、それが逆に不安を掻き立ててしまう。
 すると彼はそんな表情を穏やかなものにして、一緒の部屋にある護衛騎士、そしてメイドたちに向けた。屋敷の一大事ということでここで働いている大半の者が集められていた。

「君たちも今まで護衛としての任を全うしてくれてありがとう。これで解任することになってしまうが、次の職は私の方の伝手で探してあげられると思うから少し待っててもらっていいかな?」
「旦那様……」
「私たちは……旦那様の元で働けて幸せでした……」

 中には涙を流す者さえいた。
 仕事が無くなってしまうからではなく、お世話になった恩人から離れてしまわなければならない悲しさからだと思う。
 お通夜に近い沈んだ空気が漂う中、部屋の扉が勢い良く開かれる。

「旦那様、急報です!王都が……いえ、王都だった跡地が!」

 入ってきたのは執事の恰好をした若者。
 その彼が顔面蒼白になっていて、何やら只事じゃない雰囲気をしていた。

「……何事だ?まさか我が家が解散する以上の大事件でも起きたのか?」

 ……恐らく悪気があって言ったのではないんでしょうが、ずいぶんタチが悪い冗談でやす。
 周囲のメイドさんや護衛騎士さんたちも何とも気まずい表情で苦笑いすらしてない。
 そして入ってきた執事の方も深刻な顔を変わらず、そのまま告げた。

「王国跡地に魔物が……魔物が町を作りました……!」
「……何?」

 ……なんですって?
☆★☆★

「マジですか」
「マジでございます、ヤタ様」

 俺の名を呼んで言葉をそのまま返して肯定し、頭を下げる骸骨の男リンネス。
 そして驚いている俺の眼前には異世界では普通の家々が建つ街並みが広がっていた。
 何に驚いているのかと言うと、ここは俺のせいで町が消えて更地となっていた場所のはずである。なのに……今目の前にあるのは消えてしまう前も遜色ない風景だった。
 ただ元に戻ったというわけではなく、全体的に新しく作り替えられている。
 魔法的な力で突然現れた?違う。
 時間が元に戻った?違う。
 誰かが一から全て作った?……そう、正解である。

「カタカタカタカタカタ……」

 俺の目の前を大きな荷物を持った骸骨が歩いて通る。
 他にも白目で緑色の肌をした巨人が木材を立てたり、巨大な蜘蛛が壁を歩いていたりと魔物が闊歩かっぽしていた。
 何を隠そう、この町とも言える家々を立てたのはその魔物たちである。
 俺の目が覚めてから三日。たったの三日でここまでの建物を建てて見せたのだ。
 おいおい、普通建築物を一個立てるのに相当の時間がかかると思ってたんだが……俺の常識が間違ってたのか?いや、そんなはずはない。
 多分こんなにも早く建築物が建った理由の一つは「死者」だからだ。
 休み要らずのコイツらを働かせ続ければ、そりゃ早く終わるだろう。
 あとは数。 
 人間であれば必要以上の人員は危なかったり給料の問題だとかで多くを雇えないだろうが、死んだ奴であれば怪我も死ぬことも気にしなくていいわけだしな。
 でも技術的な面はどうしたんだ?建築云々の知識無しじゃロクな作りにならないと思うんだが……

「これ、住んでる間に崩れたりしない?」
「それも心配ありません。建築に関する知識を持った人間に基づいたものなので」

 そう言うリンネスの視線の先……視線?まぁ目はないけど、向いてるとこには確かに魔物に混じって指示を出している人間がいた。
 ずいぶん背の低い立派な髭の生えた男だが……なんかどっかで見たことがある特徴じゃない?たしかアリアのとこにいたレッグに……
 するとその小さい男が俺たちに気付き、短い脚でトコトコとこっちに早歩きでやってきた。

「あんたがコイツらの主か?」

 小さい男は気さくにそう聞いてきた。レッグと違って明るい感じがする。

「まぁ、そういうことになる……のか?いつの間にか増えてたから実感なんてないんだけどな」
「そうかそうか!俺はアレグ、物作りが得意なただの人間だよ!」

 明るくそう言うアレグ。嘘が下手かよ。
 人間が自己紹介でわざわざ「ただの人間だ」なんて言うわけがないのだから。

「ならもう少し言い方を考えた方がいいぞ、ドワーフさん」

 俺がそう言うとただでさえ大きい目がさらに大きく開く。

「俺らの種族を知っているのか!」
「まぁな、知人にも一人いるし。この服を仕立てたのもそいつだ」

 レッグとは一回会って話しただけなので知人ということにしておく。

「ほぅ……種族を打ち明けたということは相当信用されたのか?」
「いや、俺が言い当てただけだ。特徴が独特だからな」
「そうか……ちなみにその特徴って?」
「鍛冶が得意なちっちゃいおっちゃん」
「あっ、そうなんだ……」

 あ、少し落ち込んだ。
 レッグみたいに「このクソガキ」って言って怒るかと思ったんだが……ちょっと申し訳なくなってしまった。話題を逸らすか。

「ドワーフって割とそこら辺にいるのか?」
「どうだろうな。俺たちはあまりもう集団では生活してないからなぁ……誰がどこでどんな生活してるかなんて知らんよ。ついでに生き残りがどれだけいようとな。んで、あんたはこれから戦争でも起こす気なのか?」
「えっ、なんで?」

 俺はまだ何も行動を起こしてないのに戦争って話になってんの?

「そりゃ、町を消してその場所に魔物を大勢引き連れて別の町なんて作ろうなんていうもんだから、人間全体に宣戦布告したようなもんだろ?まぁ、俺は結果的に助けてもらったから、恩に報いるって意味でこうやって手伝ってるわけだが……何も考えてなかったな?」

 正解です。そんなことになるなんて思ってもみませんでした。
 というか「ここを拠点にしましょう!」なんて言い出したのはリンネスなんだが……
 リンネスを見ると骸骨なのに表情筋があるのかと思うくらいに笑っているように見えた。

「もちろんわかっていますとも。我が主を嵌めた人間共に復讐するのですよね?」

 わかってない、何も。
 誰が好き好んで国どころか種族全体に喧嘩売るんだよ。俺はどこの魔王だ?
 なんてことをララがいる時にでも口にしたら「我だって自分から仕掛けには行かないぞ?」とか言い出しそう。

「えっ、本当にするの?戦争?」
「心配には及びません、主が吸収した者を除いても数はまだまだ十二分。しかも我が主の血液で眷属は全て強化されております故、一般兵士には負けるはずがありません。それに――」

 リンネスは後ろを振り向く。そこには大勢の人間が待機していた。
 俺が喰って保存していた元王都の住民。
  子供から老人まで、あらゆる年齢の人たちが怯えた様子で俺たちの機嫌を窺うように見てきていた。

「――まともな国の王であれば、人間の民が人質にされているというだけで手を出せないところもあるはずですから、それを利用しましょう」

 リンネスの言葉に彼らの表情の恐怖が一層濃くなる。

「スゲーゲスい考えだな……生まれ変わってもやっぱり賊だった時の感覚は残ってるのか?」
「いえいえ、滅相もない。そもそも人質とはいえ無下にしようとは考えておりませんから。ただ彼らは居てくれるだけでいいのです。それに彼らにとっても悪い話ではないと思いますよ?」

 なんで?と口に出さずとも説明してくれるだろうと黙ってリンネスを見続けた。

「まず何に対しても税金がありません」

 ――ピクッ
 そんなに大々的には言ってないリンネスの一言に、元王都の住民の大半が反応した気がした。

「病になっても治療も無料。壊れて修理が必要になったり入り用になった家具も同じく無償で対応」

 ――ピクピクッ

「魔物の対処も同じ魔物である彼らが休まず監視してもらうため下手な町より安全です」

 さっきまで怖がっていたのが嘘のようにニヤニヤとした人々の顔がここからよく見える。

「へ……へへへ……そこまで言われちゃあなぁ……?」
「魔物の人質ってんならしょうがないよなぁ?」
「そうよね、逃げようとして何かされるかもしれないから怖いし……しょうがないわよねぇ?」

 「しょうがない」と言いつつもリンネスの提案に魅力を感じている人々の気持ち悪い笑顔が隠し切れてない。ご両親ご両親、お子さんがドン引きしてますよ。
 ともかくその日、そうして人間の国に囲まれた魔物の町が一つ出来上がったのだった。

「おかしな話だと思わないか?異世界から来たとはいえ、少し前まではただの人間だった奴が魔物を引き連れて一つの町を作っちまった……まぁ、俺が作ったわけじゃないんだが。でもこのままだとお前を差し置いて魔王って呼ばれそうなんだけど……そう思わないかララ?」

 返事は返ってこない。だがそれは承知の上だった。
 たしかにアナさんの言う通り、ララは俺が捕食したことで生きていた。
 しかし今の彼女は……
 俺が振り返り、目を向けた先にララが車椅子に座っていた。
 目と口が半開きになり、呆然とした様子で軽く俯いている。
 まるで死人のようだがちゃんと生きている。だが今のララはいわゆる植物人間となっていた。
 厳密には脳の機能には問題がないらしいので植物人間とはまた違うが、アナさんが言うには魂に問題があるとのこと。
 魂だなんて聞くとどうしようもなく重症に聞こえるが、一応回復の見込みはあるらしいからこうやって待つことにした。

「お前は魔王なんだろ?だったら早く戻ってこいよ。このままじゃレチアたちに顔向けできねぇじゃねえか……」

 ララに近付いて返事が返ってこないとわかっていながらもそう言う。こうやって話しかけていれば、そのうち返事をするんじゃないかと期待しながら――
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