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武人祭
解放
しおりを挟む「ここがそうか?」
「ええ、聞き出した情報が正しければ」
盗賊の住処から少し歩いたところにある豪華な装飾が施された三階建ての館が俺たちの目の前に建てられている。
メンバーは変わらずイリーナとウルとルウの四人。盗賊に捕まっていた捕虜は全部で十人前後で、その内の数人は事切れていた。
そいつらを抜いた捕虜は八人、その全てが帰る場所を失った者、帰りたくない者だった。
なのでそいつらは魔空間に送り、現在の移住民の女たちに世話を任せた。そして恐らくこれからこの奴隷商を襲うことで、その住民がさらに増える未来が見える。
「『助けようとして助けた奴の面倒は最後まで見ろ』なんて家族ぐるみでよく言われたが、このまま行くと村や街ができそうだな」
「そうなのですか? 意外ですね、小鳥遊家と言えば容赦も慈悲もない殺人集団という噂が・・・・・・」
「なぁ、無表情でそんな冗談言わないでくれる? ・・・・・・冗談だよな?」
イリーナは俺を一瞥だけして軽くフッと笑う。え、本当に?
「意外、というのは取り消します。この一ヶ月、旦那様に付き添っていたので、その人柄は少しだけ知っているつもりです。旦那様を見ていれば、あなた様のご家族が快楽のために人を殺す一家でないことくらい・・・・・・噂が当てにならないことわかります」
そう言ってくれるイリーナ。だけど逆に言えば、その噂はあるということだ。
「人は十分殺してきたけどな」
「それはきっと、殺すに値する者だったのでしょう。殺すに値しない者というのは、善人と手を下す必要のない者・・・・・・つまりその三種類のみですので」
悪は必ず裁かれねばならない、とでも言いたげなだった。
「・・・・・・買い被り過ぎだ」
なんとなく気恥しくなってそっぽを向く。
すると館の中から宝石などを身に纏った男と、鎖に繋がれた奴らが連れられ、そこには人間や魔族、虎柄模様の毛皮が生えた亜人など様々な種族が含まれていた。
「男女種族問わず捕まってるな。あいつらが自力で抜け出すことは?」
「焼印が付けられた者は主人が消すか、またはその主人が亡くなりでもしない限り逆らえません。よって不可能です」
焼印と言うとウルたちを奴隷商人から引き取った時に付けられそうになったやつか・・・・・・それってつまり?
「焼印を押した奴をどうにかすれば?」
「もしくは主人に決めれたのであればその者を・・・・・・そうすればあの方々は晴れて自由となります・・・・・・殺りますか?」
スッと懐からナイフを出して殺意を剥き出しにするイリーナ。
「いや待て、主人が決められた場合はそいつも探さなきゃならんだろ?」
「主従関係を決められるのは奴隷が渡される直前です。なので、少なくとも今この館内で奴隷と主人が離れている可能性は低いです」
「・・・・・・なるほど」
確かに俺が会った奴隷商人は会計を済ませてから焼印を押されようとしていた。ならば今見えているあの男を殺せば、鎖に繋がれている奴らが解放されるということか。
「じゃあ、あんたは三階から頼む。俺はあいつを片付けた後で一階から行く」
「かしこまりました」
イリーナは一礼だけすると素早く走って跳び、奴隷を連れた男の上を越えて館の三階へ到達した。
何かが上を通ったことに気付いた男が見上げる。
「ん? 鳥か・・・・・・まぁ、どうでもいい。私は今は機嫌がいいのだ。 何せーー」
「じゃあ、よかったな。幸せなまま死ねるぞ」
男が振り返る瞬間にはその目の前に俺はすでに立ち、その首を反対へ回した。男は笑顔を背に向けたままゆっくりと地面へ倒れ込む。
手に持っている鎖が音を立てられるのと同時に、その男に連れられていた奴隷の一人が小さく悲鳴を上げる。
「な、何・・・・・・なんなの!?」
「今、急に現れた気がしたが・・・・・・なんだ、あんたは? 俺たちを助けにでも来たのか?」
複数人いる中で虎柄の毛皮が生えた女の亜人と巨躯な青い肌の魔族が声を上げた。
女の亜人は毛を逆立てて威嚇して警戒しているが、男の魔族は淡々とした態度をしている。
「正確にはこの奴隷商を潰しに来た。それが結果的にあんたらを助けることになるってだけだ」
「ありがたいことだ・・・・・・手立てはあるのか?」
「正面突破」
俺が簡潔に即答すると、そんなバカなとでも言いたげな表情をされる。何か言われる前に行くとしよう。
「ウル、ルウ、こいつらを頼んだ。逃げようとする奴は一応抑えといてくれ」
「「はい!」」
元気よく敬礼する二人。
そろそろイリーナが三階を制圧してる頃なので、俺も行くことにした。
入り口に入ろうとすると、さっそく魔術で何かが仕掛けられていたことに気付く。恐らく警報が鳴る類のものだろうそれを、黒い蟲の魔術を発動し、喰わせて破壊する。
そういえばイリーナの方は大丈夫だろうか?
「・・・・・・まぁ、バレたらバレたでいいか」
そして俺は考えることをやめた。
ーーーー
館の中は大きい割に人が少なく、十人前後を片付けた後、残り一つの部屋でイリーナと思わぬ形で合流する。
他と違って身なりが整えられている奴隷商人であろう男と、その男を壁際まで追い詰め、杖を突き付けているイリーナの姿があった。
「な、なんだ、お前は!?」
「必殺仕事人でございます」
そう言ったイリーナは、持っている杖で商人の首に素早く重い一撃を入れ、男はおかしな首の曲がり方をしたまま動かなくなった。
能面のように無表情な顔をしているイリーナだが、その中に満足そうな表情が見えた気がした。必殺仕事人なんて冗談を言ってしまっいる意外にお茶目な場面を目撃してしまった俺は、イリーナの後ろからそっと声をかけた。
「・・・・・・言ってみたかったのか?」
「っ・・・・・・」
俺の声にイリーナはわずかに肩を震わせて動揺したが、無表情を崩さないままこっちを向く。
「お疲れ様でございます、旦那様」
「今の流れで隠し通すのか・・・・・・」
完全に見られたとわかっててもとぼけようとするイリーナ。それが面白可愛く見えた。
イリーナが担当した三階から下も魔術の罠が仕掛けられていたが、魔力を見る目は持っているので回避できるみたいだった。
それはそうと、館の中にいる奴隷商人関係のほとんどは始末したので解放作業に入る。
奴隷が入れられている檻にも何やら魔術が仕込まれているので、黒蟲に喰わせる。いちいち開けるのも面倒なので、檻もそのまま喰わせてしまうことにする。
奴隷の大半がその蟲に怯えていたが、俺が敵でないとわかるとお礼はちゃんと言ってくれた。
そして解放した奴隷たちを外に集めさせると、結構な数が集まっていた。
「おぉー・・・・・・これだけ多種族が揃うと壮観だな」
人間もだが、亜人は種族が豊富だし、魔族だって肌が青いだけで形は様々だった。中には亜人なのか魔族なのかわからない奴も混じっているし。
「この者らをどう致しますか?」
イリーナが横に並び問いかけてくる。やることは決まっているので、一歩前に出て元奴隷たちにそれを伝える。
「この中に帰りたいと思ってる奴はその場所に送るし、帰る場所がないなら俺が場所を提供する! どうするか今決めてくれ!」
全体に伝わるよう大声でそう言うと、元奴隷たちはお互いの顔を見て騒めき始める。
「まず帰る場所がある奴、もしくは自由に生きたいって奴は前に出ろ!」
俺の言葉で静まり返り、全員の視線が集まる。その中で五人だけが前に出てきた。
「・・・・・・こいつらだけか? 先に言っておくが、残った奴は今までの生活はできなくなるし、戻ることもできなくなる。あとで騒いでも知らねえぞ?」
そう言うと元奴隷たちが所々で話し合いを始め、さっきの巨躯な魔族が俺の前に出てきて、意を決したように口を開く。
「一ついいか? あまり提案したくないのだが・・・・・・私を魔族大陸の魔城に連れて行ってほしい」
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