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武人祭
幼き日の記憶
しおりを挟む寡黙なリゲイドは声に出さなかったが、その細目が少し大きく開かれ、ナルシャは相変わらず口に物を入れるのをやめない。
そしてコノハ君が気まずそうに縮こまり、対してペルディアは目を見開いて唖然としていた。
「おい、待て・・・・・・今何と言った? 『戦ったことがない』・・・・・・? 本気で言っているのか!?」
そしてペルディアは声を荒らげ、ズイッとコノハ君に近付く。
ただ、その姿が中腰で胸の谷間を強調させるような姿勢となってしまっていたので、彼が顔を赤くしてそっぽを向いてしまう。全く男の子って奴は・・・・・・。
しかし自覚の無いペルディアは背けられたコノハ君の顔を無理矢理自分の方へ向けて目を合わせようとする。
彼は女性に相当耐性がないのか、顔が近いだけで彼の顔がさっきより赤くしてしまっていた。
「私の目を見て、嘘偽りなく話せ」
「わ、わかりまひた!」
コノハ君が観念したと判断したペルディアは力だけ少し緩め、そのまま話させた。
「ぼ、僕は・・・・・・ある国の偉い王様の人に呼ばれたんです。それで本当は最初、戦争をしている人間に味方してほしいと言われて最初少しだけ、人間の皆さんと一緒に戦ってたんですけど・・・・・・そしたら何か凄い爆発がいきなり起きたんです。しばらく僕が混乱していると、一緒に戦ってた人の一人から巻物みたいな手紙を渡されて『届けてくれ』と言われたので・・・・・・」
「そうか・・・・・・つまりお前が人間側に知らせた張本人で、恐らく生き残ったからと評価されてしまい、私たちに同行させた、というわけか?」
ペルディアの言葉にコクリと頷くコノハ君。
そしてようやく彼の頭を離し、呆れたように溜め息を吐きながら顔を覆う。
「ま、誤解だったとは言え、一応戦争に参加してた上にちったぁ戦ったんだろ? なら全く戦ったことがないってよりはまだマシな方じゃねえか?」
レオンの言葉にペルディアも渋々頷く。
「まぁいい。ともかく元々私たち三種族、丁度ここにいる人間、亜人、魔族で戦争をしていた。理由は相手の種族が気に入らないだの土地が欲しいだのというくだらない理由だがな」
ペルディアが現状を改めて確認する。
僕たちはコノハ君以外、その戦争に直接参加していたわけではないので、情報の共有と照らし合わせという意味ではありがたい。
そう、彼女の言う通り、三種族はそれぞれの利己的な目的のために戦争を始めていた。
そして互いの兵が衝突してから数日が経過した頃、それぞれの兵は壊滅させられ、戦う兵のいなくなった僕らは強制的に戦争に終止符が打たれた。
しかしそれは誰かの勝利ではなく、全員の敗北という形で。
すると何かが気になるのか、レオンが早速眉をひそめた。
「ああん? 領土を広げたいから争うのは普通じゃないのか?」
「・・・・・・そこに『ある者』が現れ、ほぼ全ての兵が壊滅させられた、という情報がもたらされた」
いかにも亜人である彼らしいレオンの言葉を無視して、話を進めようとするペルディア。
そして彼女は神妙な顔付きになり、信じられない情報を口にする。それを行ったのはーー
「一人。それをたった一人の男にされた、と」
ペルディアの言葉に、レオンも頷く。
「俺んとこも同じだ。特徴はたしか・・・・・・上下の服、手袋に靴、髪に目も全てが黒く染められたような風貌をしていて、魔術らしいもの一つで数万の兵を吹き飛ばしたってな」
戦争に参加していた数は全ての種族合わせ、億に近い数がいたはず。それをたった一人で制圧するなど、到底信じられない話である。
しかしそれが本当ならそいつの正体はどの種族でもない、神話級の魔物となる。
そしてそいつを仮名として悪魔と呼ぶこととなり、人間、亜人、魔族の三種族から実力のある者たちが招集された、というわけだ。
ここまでは僕のところにも入った知らせと同じだ。
「・・・・・・本当なのか?」
レオンがそう言って首を傾げると、ペルディアは顔をしかめる。
「偽の情報を流されてると?」
「まぁ、どこかの国の間者がとも思ったりもしているが・・・・・・しかし三種族全員がこうやって集められてるとなると、その線はないか・・・・・・いや、どっか奴が単独で暴走してる可能性も・・・・・・」
後半をブツブツと呟くレオン。見た目からして脳筋っぽいのだが、そうでもないらしい。
「んな面倒なこと考えないで、邪魔する奴全員ぶっ飛ばせばいいじゃねえか!」
逆にナルシャはそう言って笑い飛ばす。大食いな上に脳筋らしい答えだ。
「・・・・・・まぁ、どの道確認しに行くには行くがな」
「それで王様が出てくると? 不用心過ぎるんじゃないかな?」
僕の言葉にペルディアは軽く笑う。
「何、私は人間とは違って丈夫だからな。逆に王が前に出て形勢が変わる場合だってあるのさ」
「うちの大将にも見習ってほしいもんだがな。『面倒だから』なんて言って各族長に指揮権を放棄。『負ける逃げるは嫌だけど動くのも嫌』ってんだからなぁ・・・・・・そこに関しては魔王ってのは印象がいいな!」
話を聞いたレオンは上を向いて大きく溜め息を吐き、ペルディアの方に向き直ってニッと笑う。
ナルシャも自分の上司が褒められて「だろ?」と自慢げだ。
レオンの言う大将というのは恐らく『獣王』のことだろう。彼の話から察するに、亜人の王というのは相当面倒臭い歪んだ性格な人なんじゃないかと思う。
「それはそうと、どうすんだ? こんな戦いの経験がないっつう素人同然のガキを・・・・・・俺はお守りなんかゴメンだぜ?」
レオンが呆れた様子で問いかける。
それもそうだ、恐らく化け物であろう奴をこれから相手にするのに、足でまといがいてしまっては僕たちの生存率が下がってしまうというのに・・・・・・まさか何か切り札のようなものを持っているのか? それともこの子を囮に、なんて言うんじゃないよな・・・・・・?
しばらく腕を組んで唸っていると、ナルシャが普通に問いかける。
「なぁ、コノハって強いのか? 何かあるからここに連れてこられたんだろ?」
意外とまともな問いかけをするナルシャ。戦闘に関することなら少しは頭が回るのだろうか?
「強い・・・・・・んでしょうか? 何か皆さんから期待されてるらしくて、あなたたちの戦争にも少し参加しましたが、いまいちよくわからなくて・・・・・・」
「「・・・・・・」」
多分、その時の彼以外、僕たちみんなの心境は同じだっただろう。
「なんでこいつが生き残ったんだろう」と。
ーーーー
それから馬車で移動すること数日、僕たちは三種族が争い、悪魔が現れたと言われる高原へと着いた。
「・・・・・・どうやら、話は本当らしいな」
「こりゃあ、酷ぇ・・・・・・」
目の前に広がる光景に、ペルディアは目を見開いて驚愕の表情を浮かべ、レオンは哀れんだ目を向けていた。
僕らも馬車から降りて確認すると、周囲には死屍累々となり果てた三種族たちがそれぞれ転がるように倒れている。
それは数日で起きたにしてはあまりにも無惨で、戦争というよりも虐殺と呼ぶべきものだった。
「こりゃあ、たしかに神話級の仕業かもな」
「ああ、並の魔物ができる芸当ではない・・・・・・しかも、この残留している魔力の濃さが何より物語っている」
ペルディアが目を細めながらそう言う。
僕も目を集中させ、魔力を視認できるようにする。そして目を開けると辺りが黒い霧のようなものが立ち込めており、前が全く見えなくなってしまっていた。
「これが・・・・・・魔力!?」
「そうか、人間はこれを知らないのか」
僕の驚きに、ペルディアは自分は知っているかのような言い方をする。
その会話にレオンも入る。
「おい待て、俺たちはそもそも魔力を見るってのができねぇから、そこんとこも踏まえて説明してくれると嬉しいんだが・・・・・・」
「なるべくわかりやすく話すとなると・・・・・・まず、魔法や魔術をどうやって撃つかはわかるよな?」
「当たり前だ! それはバカにし過ぎだぞ!?」
まさかの初歩的な質問でレオンが憤慨する。
「魔法魔術を撃つというのは自らの体に宿る魔力を変換し、外に出すことを言う。つまり変換したというだけで、魔法魔術というのは魔力の塊に過ぎない。では、その放たれた魔力の塊が何かに当たった場合、それはどうなると思う?」
「そりゃあ・・・・・・消えちまうんじゃねえか?」
その答えにペルディアは悪戯な笑みを浮かべて、両手の人差し指を交差させて自分の口の前で✕を作る。
その動作にレオンが小さく「可愛いじゃねえか・・・・・・」と呟く。自覚があってやってるのだとしたら、相当あざとい。
「正解は『霧散する』だ。障害物に衝突した魔力に戻って霧状に散らばり、空気中を漂う。そしてその放った魔法魔術が強力であれば含まれる魔力も多くなり、その分、霧散する量も増える。今の私には霧のように立ち込めてしまって、前が見えない状態だよ」
「僕も同じだけど・・・・・・こんなの見たことないよ? 普通は白くて半透明なはずなのに、周りが全く見えなくなるくらい黒いなんて・・・・・・」
「闇の魔法や魔術を使用した場合に発生するものだ。闇の魔術は一部の魔族、私のように魔王になれる資質のある者しか使えない。だから直接見る機会などない。しかし・・・・・・ここまで視界を奪うほど濃い魔力を見るのは私も初めてだ」
視界が真っ黒なこの状態では前が見えない。一度解いた方がいいだろう。
そう思って目を元に戻すと、目の前に黒いスーツを着た男が立っていた。
『特徴はたしか・・・・・・上下の服、手袋に靴、髪に目も全てが黒く染められたような風貌をしていてーー』
レオンの言っていた特徴と合致したそいつは微笑んだ顔をゆっくりとこちらへ向ける。
その背筋の凍るような笑顔は、到底普通の人間ではないと理解させるに十分な悪魔のようだった。
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