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武人祭
助っ人
しおりを挟む屋敷に戻ってから五分後。
「とりあえず助っ人を連れてきた」
俺の横にメア、ミーナ、フィーナ、ヘレナ、イリーナ、ノクト、ユウキ、クリララが並んでいる。
するとジリアスが前に出てきて、胸に手を当てて一礼をする。
「ようこそ、皆様」
そのジリアスの礼儀正しい動作に、イリーナも似た動作で返す。
近くではクリララが慌てて軽く一礼すると、キョロキョロと挙動不審に辺りを見渡していた。
「ほぉ~、ここが魔族大陸にある魔城だか!なんだか緊張すんなぁ~・・・・・・」
「・・・・・・ちょっと待って、何この人選?」
するとユウキが何か不満らしく、そんなことを聞いてきた。
「何って・・・・・・何がだ?」
「赤ん坊のお守りだよな? イリーナさんとかクリララちゃんはわかるけど、ノクトとか俺って何を基準に選んだの?」
その問いに、人選理由を思い出そうとして唸る。
「まぁ、ノクトはなんとなく子供相手が上手そうだなと思ったからだな。結構ウルとルウの相手してくれてるみたいだし」
「あはは、なんか懐かれちゃって・・・・・・」
恥ずかしそうに赤らんだ頬を掻くノクト。
「俺は?」
自分を指差すユウキ。
「暇そうだったから」
「ちょっと待て。俺たちのメンバーで暇そうなのは俺だけじゃなかったよな?普通に将棋とかしてる竜の皆さんだったり、ソファーで横になって寛いでるあーしさんだったりがいるじゃねえか!」
「考えてもみろ、あいつらに子守りなんてできると思うか?」
俺がそう言うとユウキはしばらく考え込み、沈黙する。
なんとなく無理なんじゃないかという考えに達したのだろう。
特にリアナなんか、自分の息子であるベル以外の子供の面倒なんか見ようとしないだろう、きっと。
ちなみにカイトとレナには休日を与えてある。たまにはそういう日もあっていいだろう。
「ちょっと待って、なんであたしはわかるのよ?」
そう言って会話に割り込んできたフィーナ。
その疑問にユウキと顔を合わせる。考えてる事は同じようだ。
なんでって・・・・・・ねぇ?
「「母性」」
俺と同じセリフを声に出したユウキ。と、同時にフィーナの蹴りが飛んできた。
俺は避けたが、ユウキは避けられず腹にヒットし、カエルが潰れたような悲鳴を上げて転がっていった。
「何も産んでないあたしに母性・・・・・・? ふざけるのも大概にしなさいよ」
静かに低い声を発するフィーナ。かなりお怒りのようだ。
母性、あると思うんだがなぁ・・・・・・なんて思っていると、リンが抱いている赤ん坊がジッとフィーナに視線を向けていた。
フィーナもそれに気付いて目が合うと、赤ん坊は何かを求めるように手を伸ばす。
「な、何よ・・・・・・?」
「フィーナサマに抱いてほしいんじゃないッスか? ちょっと抱いてみてくださいッス!」
リンがそう言って赤ん坊を差し出すと、フィーナは仕方ないとばかりに受け取って優しく抱く。
抱かれた赤ん坊はキャッキャと喜んでいた。
「何がそんなに面白いのよ、全く・・・・・・」
そう言いつつフィーナは今まで見たことないくらいの微笑みを見せ、その表情を見た奴らのほとんど全員が見蕩れてしまっていた。
「り、リアル女神が目の前に・・・・・・!」
「これはたしかに言えてるな」
ユウキの言葉に笑って同意する。
ギャップ萌えというのもあるのだろうが、青い肌とはいえ元々整った綺麗な顔をしてるからそう見えるのだろう。
メアが前に一度、「同じ女だけど思わず襲いそうになった」などという血迷った発言を聞いたが、これなら納得できる。
ノクトですら恋する乙女のような顔を・・・・・・あれ、乙女?
俺が首を捻っていると、メアが悩むように唸っていた。
「俺やミーナが来させられた理由もユウキと同じか?」
メアの疑問にミーナも頷く。
「私も思った。冒険者は色々な依頼を請け負うけど、さすがに子守りはした事ない」
「それは俺も同じだ。そもそも経験者が少ないんだし、人手はいくらあっても困りはしないんだろ。今後の参考にもなるかもしれないしな」
『今後の参考』という言葉にメアがしばらく考え込み、何を思ったのか、顔を赤くする。
誰もが通る道なのだから、卑猥な意味に捉えないでほしいのだけれど・・・・・・あ、今後の参考って言うならカイトたちも連れてくればよかったか?どうせこのまま行けばあいつらくっ付くだろうし。
なんて考えてると、フィーナが抱いていた赤ん坊が眠ってしまっていた。
「ねぇ、この子寝ちゃったんだけど」
フィーナの言葉にリンがハッとする。
「あ、それじゃあ、ベッドに寝かせるッス!」
慌てて大声を出したリンに対し、フィーナが人差し指を口に当てて『静かに』とジェスチャーする。
「もっと小声で喋りなさい、起きちゃうでしょ?母親ならもっとしっかりしなさいよね」
「は、はいッス!」
フィーナに喝を入れられ、あたふたするリン。
「いい? あたしたちはあくまで手伝い。親はあんたらなんだから、あんたらがちゃんとしなさい!」
「「はい、フィーナ様!」」
フィーナの言葉に全員が同時に返事をする。完全に母親より母をしているのである。
さっきから思っていたけれど、全員フィーナ様フィーナ様と尊敬するように呼んでいるのだが、やはりフィーナのことはみんな知っているのだろうか?
そう思っていると、カシアが近寄ってくる。
「そうだ、魔王様。私の赤ちゃんを抱いてくださいますか?」
「ん?まぁ、いいけど・・・・・・」
カシアに差し出された赤ん坊を優しく抱く。
その赤ん坊は笑うでもなく泣くでもなく、親指を咥えてジッと俺の顔を見続けていた。
「それでどうするんだ?」
カシアに指示をもらおうと顔を向けると、微笑みを浮かべていた。
「そのまま抱いていてください。だって魔王様はこの子たちのパパですから」
親にもなっていない高校生に、その言い方はやめてほしい。
そうして特に泣くでも笑うでもない赤ん坊を抱いているうちに、ある疑問をカシアに聞く事にした。
「なぁ、リンの旦那はこの前の戦いで亡くしたって言ってたが、お前らの旦那はどうしたんだ?」
俺の質問に困った笑いを浮かべるカシア。
本当ならリンの後にこんな事を聞くなんて神経を疑われるだろうけど、聞かずにはいられなかった。
リンから依頼の事を聞いて便乗したのが一人や二人ならまだしも、ネットのないこの世界で、一つの村からこれだけの人数が子守りをしてほしいという母親が集まる、などというのは少しおかしい話である。
ただ単に、旦那が子育てに手を貸してくれないと言うだけであればいいのだが、もしこの場にいる全員がリンと同じく旦那を亡くしているとしたら・・・・・・
俺の予想は当たったらしく、頷いて答えるカシア。
「死因はそれぞれ違ったりしますが、私の主人も二十年前の三種族間の戦争で亡くなりました。他の方々も魔物に襲われたりで・・・・・・今では私たちの村にいる男手はおらず、今ここに集まっている者が全員です」
「そうか・・・・・・」
そうか、としか言えない。
村に女が十数人・・・・・・それはすでに村として機能していないものである。
同情するつもりはないし、慰めるような言葉も言わない。
たしかに女手一つで今まで育ててきたのだから大変だったのだろうけど、だからと言って『大変だったね』などと適当な事を言いたくない。
そんな一言で今までの苦労が報われるわけでもないし、ましてや旦那が生き返るわけでもない。
中途半端な言葉をかけるくらいなら、これからこいつらが苦労しないよう対策を考える方が得策だろう。
それに、村にいた全員がここに来た、というのなら都合がいい。
「カシア、それに他の奴らも。どうせだから村を捨てて、新しい生活を始めてみないか?」
「「・・・・・・え?」」
俺の提案に、母親魔族の全員が声を揃えた。
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