最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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3巻

3-3

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 サイズや内装の規模感を元の世界でたとえるなら、金持ちが個人で所有するそれなりに大きなクルーザーといったところか。
 そして部屋があるであろうキャビンの入り口部分には、黒と金で装飾そうしょくされている、その他の部分に比べて不釣り合いなほどに豪華ごうかな扉があった。

「なんでここだけ無駄に豪華なの?」
「無駄って言うな、無駄って。しょうがないじゃないか、構造上こういうものなんだし、デザインは既に作ってあったこれしかなかったんだから」

 そう言いながら学園長が扉を開けると、外観から推測されるよりも明らかに広い部屋が広がっていた。空間魔術の一種だろうか。
 しかもただ単に広いだけではなく、トイレや風呂、さらにはキッチンやベッドなどの設備がしっかりしていて、ちょっとした豪華客船みたいだ。
 メアは「スゲースゲー!」と興奮しながら、ミーナと一緒に部屋の中を見て回っている。

「……これはとりあえず、『なんじゃこりゃー!』って叫んだ方がいいのかな?」

 俺の言葉に、学園長はフフンと鼻を鳴らす。

「喜んでもらえたのならよかったよ。実はこの船、プレゼントされてからちょっと改造なんかもしたんだけど、結局一度しか使ってなかったからね。船の旅があまり好きじゃなかったとはいえ、勿体無いなと思っていたんだ」

 これだけいいものを使わないというのは、たしかに勿体無いな。改造ってのは、さっきの扉とこの部屋の空間魔法のことかな。
 そんなことを考えていると、ノワールが「ほう」と、感心したような声をこぼしていた。

「学園で中庭を見た時も思ったが、私が与えたたったあれだけのヒントで、ここまで技術を発展させたか」

 少し嬉しそうにそう言うノワール。
 一方でルビアも、ノワールの言葉に皮肉気味に返していた。

「まあね。だけど何より大変だったのは、生き残ってそのヒントを持ち帰ることだったよ」

 その時のことを思い出したのか、疲れた表情で大きくため息を吐く学園長。
 何の話だろうかと思ったが、学園長とノワールは二十年前の戦争の時に面識があるって話だったから、きっとその時のことだろう。
 と、そこで学園長が俺の方に笑顔を向けてくる。

「それじゃあ、この船は君にあげるよ」
「あん? 何言ってんだ、こんな高そうなもんを……」
「タダだろうが高価だろうが、使わなかったら結局宝の持ち腐れだしね。それに、これから魔族大陸に行く君たちに貸したとして、無事に返ってくる保証なんてないんじゃない? だったら最初から与えた方が気が楽なのさ」

 俺たちの話を聞いていたメアたちが「おお~」と声を上げる。
 しかし……

「要らないから押し付ける……ってことじゃないよな?」

 俺の言葉で、わずかに肩が跳ね上がる学園長。
 おそらく、学園長の言葉にうそは無いだろう。
 しかしその裏には、使わないまま放ってあるこの船を処分したいという気持ちがあるように思えたのだ。
 そしてそんな想像は当たっていたようだ。
 動揺を隠せないまま、学園長が言い訳する。

「そそんにゃわけないじゃないか……べ、別におくぬしがとある王様だったから捨てるに捨てられないとかそんなんじゃなく……」
「言ってる言ってる。めっちゃ自分で墓穴掘ぼけつほってるぞ、学園長」

 みまくってる上に自白してるようなものである。
 学園長は気を取り直して言葉を続ける。

「とにかく! それはもう君のものだ。煮るなり焼くなり壊すなり沈めるなり、好きにしてくれて構わないよ」

 こいつ……魔王を倒しに行く奴らに与えたという大義名分で、何がなんでもこの船を手放す気だな?
 しかも無事に帰ってきたらまた自分の手元に戻ってきそうだから壊してほしいと……誰だよ、こいつに船なんかプレゼントした奴は?

「……ま、最悪、収納しておけばいいか」
「ん? 何か言ったかい?」

 俺のつぶやごえを拾った学園長が首を傾げる。

「うんにゃ、なんでもない。それじゃ、ありがたく頂戴ちょうだいしていくかね」

 俺がそう告げると、学園長は頷いて船から下りる。
 波止場はとばに降り立ってから振り返り、見上げてくる学園長に、別れを告げようとする。
 ところがそこで、あることに気付いた。
 誰かいないような……?
 その違和感は、船に乗っている人間が少ないというものではなく、こちらを見送る学園長側が一人足りないというものだった。なんなら、俺たち側が一人多い気がする。
 そして原因は、すぐに見つかった。

「行ってきますね~、学園長~♪」

 俺の横で手を振っているカルナーデ先生である。

「君はこっちだ!」

 しかし結局、カルナーデ先生は学園長によって、あっという間に引きずり下ろされてしまった。

「あぁん、私も旅行行きたいです~! せっかくの長期休暇ちょうききゅうかなのに~……」

 旅行て……

「なんで魔族大陸に遊び気分で付いていこうとしてるの! それに君はまだ仕事が残ってたはずだよ? 休暇はその後!」
「それは明日やりますから~! だから行かせてくださいよ~」
「明日までに帰ってこれるわけないだろ!」

 そんな風にぎゃあぎゃあと騒ぐ学園長たち。
 最後まで賑やかな彼女らを尻目に、俺たちは港を出発した。



 第4話 出港


「「おぉ~!」」

 船内に子供の歓声が響く。声の主はウルとルウだ。
 船が出港して学園長たちの目がなくなったところで、俺は空間魔術を使ってウルたちを船に連れてきた。
 突然現れた二人にメアたちは驚いていたが、後で説明するといって納得してもらった。
 ベルとクロは魔空間に置いてきた。ベルに船上で暴れられても困るので、あっちでクロに相手をしてもらっている。
 皆が各々に船上を楽しむ中、俺も船内を見て回る。
 その途中、ダブルベッドが二つずつ用意された部屋を三つも見つけた。
 こんだけあったらベッドに困ることはないか、なんて思っていると、その一つの部屋のベッドの上にミーナが横たわっていた。

「なんだ、もう寝るのか?」

 そう聞きながらミーナの寝転ぶベッドに腰掛けると、ゴロゴロと転がってくる。

「違う。モフモフを堪能たんのうしてた」

 そう答えたミーナはそのまま、俺の膝に頭を乗せてきた。いわゆる膝枕ひざまくらってやつだ。
 ミーナの表情は若干嬉しそうにニヤけていた。

「アヤトに出会ってからお金に困らなくなったり、大きいお屋敷に住めたり……贅沢ぜいたくばかり。夢みたい」
「それはよかったよ」

 そう言って頭を撫でてやると、ミーナはゴロゴロとのどを鳴らし、しばらくしてそのまま眠ってしまった。
 結局寝ちまったじゃねえか……まあ、今朝は早かったから仕方ないか。


 ミーナが熟睡じゅくすいしてしまったので、船が気になっていたらしい精霊王たちは、俺の体から離れて探検しに行った。
 俺も二十分ほどはミーナの頭を撫でながら休んでいたのだが、もう少し船を見て回りたかったので、そっと枕と膝を入れ替えて、部屋から出て行った。
 軽く船内を回ったがノワールの姿が船内に見えなかったので外に出てみると、キャビンの上で何かをしていた。

「何か面白いものでも見つけたのか?」

 四角いブロック型の水晶のようなものに手を当てているノワールに、そんな質問をする。


 俺の声にこちらを振り返ったノワールは、ニッコリと笑いかけてきた。

「いえ、ただ船を操作しているだけです。これはそういう魔道具なので」

 船を操作という言葉が気になった俺は、ノワールの肩越しに水晶を覗き見る。
 そこには地図のような画が映し出され、赤い点が二つと緑の点が一つ、そしていくつもの三角形が一列に並んで二つの赤い点をつないでいた。
 その三角形の列に緑の点が置かれている、ということは……

「地図と船の進路か」

 おそらく赤い点が出発地と目的地、緑の点が現在地なのだろう。

「クフフ、説明の必要はありませんね、正解です。出発地と目的地を結んだ線に沿って動くようになっているのです。そしてこの道具は地図であると同時に、船の動力機関でもあります……魔力の流れを視てみてください」

 ノワールの言葉に従い、目を集中させて魔力の流れを読み取る。
 すると、ノワールの体から水晶へ黒いものが流し込まれ、船全体へと行き渡っているのが分かった。
 っていうかノワールのこれ、本当に魔力なのか? ずいぶん黒いな……
 大丈夫なのかという心配を他所よそに、船はしっかりと動いていた。

「これがこっちの世界の船か……にしても、なんか速くないか? これが普通なのか?」
「いえ、船の速度は魔力を注ぐ量によって変動します。少量であればゆっくりに、大量であればこのように……」

 ノワールがそう言って、今までよりも魔力を多めに注入する。
 すると途端に、ただでさえ速かった船速がさらに上がり、船の先端辺りが微妙に浮いてしまっていた。
 と、すぐに元の量に戻したノワール。

「好きな速度で船を動かせるというわけです。今は皆様が驚かれないようそれなりの速さにしておりますが、これでも明日の正午には到着するでしょう」
「分かった。んじゃ、任せた」

 ノワールは片手を水晶に当てたまま、頭を下げてくるのだった。


 それから一時間ほど、デッキの先端でボーっと海を眺めていたのだが、肌寒くなってきたのでキャビンに戻る。
 キャビンには、メアとミーナ、ヘレナとフィーナに、カイト、リナ、ウル、ルウと、全員揃っていた。
 ミーナはいつの間にか起き出していたようだ。
 すっかりリラックスした様子のメアたちに向かって、俺は口を開いた。

「楽しそうにしてるとこ悪いが、さっそくカイトを含めた修業を始めようと思うんだが」
「ここでか?」
「まさか。魔空間を使うって言っただろ? ……っとそうか、メアたちにはまだ言ってなかったか、そういう場所があるんだよ」

 いまいち理解できていない様子のメアとミーナ。フィーナも気になっているのか、後ろを向いて座りながらこっちを気にしているようだった。
 まあ、見せるのが早いか。
 というわけでさっそく、メアたちの前で空間を裂いて見せた。

「それって……アヤトもノワールみたいなことできたのか!?」
「ああ、ウルとルウを連れてきたのもこの能力を使ったんだ」

 おうおう、滅茶苦茶驚いてるな。

「あれ、メアさんたちは知らなかったんですか?」
「……その反応、カイトは知ってたのか?」

 カイトの発言にジト目で反応するメア。

「え……あ、はい。というより、そこで色々教えてもらっていたんですけど……」

 カイトの返事を聞いて、キッと俺をにらけるメア。

「なんでそういうのを俺に教えなかったんだよ!」
「後でいいかなーと思ってたら伝え損ねた」

「すまん」と付け加えて謝ると、頬をふくらませてねるメア。

「それにさっきも思ったけどさ……カイトたちを正式に弟子にしたって言ってたけど、俺たちは弟子じゃないのかよ?」
「あくまでも一応だし、どちらかと言うとお前らは『弟子(仮)』って感じだ」

 俺の答えに、メアは少し考え込んだ後、名案が浮かんだとばかりに手をたたいた。

「じゃあ、俺も正式な弟子になる!」

 ……あ?
 予想外のメアの発言に、思わず固まってしまう。
 するとミーナも、一歩前に出てきてメアと並んだ。

「じゃ、私も」
「ミーナもか?」

 ミーナはニッと笑って頷く。

「私も、もっと強くなりたいと思ってたから……丁度いい」
「ミーナはムキムキになりたいのか?」

 前にメアが言った言葉を思い出し、茶化した言い方で聞く。
 しかしミーナは、嫌な顔をするでもなく首を傾げて尋ねてきた。

「その方が……アヤトの好み?」

 ミーナの言っていることが理解できず、「好み?」と同じ言葉を口にした。

「まぁ……下手にせすぎてたり太りすぎてたりしてるよりは健康的だと思うし、そっちの方が好みではある、か? ていうかなんで俺の好みが関係するんだよ?」
「嫌われるよりはいいから」

 もしかしてこれは恋愛フラグかと思って聞いてみたが、淡々と答えるミーナの態度に恋愛的な意味は含まれていなさそうだな、とその考えを切り捨てた。

「メアはいいのか? ムキムキは嫌だって言ってたのに……」
「あ……あー、まぁ、アヤトならマッチョにしないまま強くしてくれるって信じてるから」

 苦笑いしながら頬をくメア。たしかにそんな都合のいい鍛え方もあるとは思うが……

「カイトん時も言ったけど、俺は弟子を取るのは初めてだぞ? 失敗して大男顔負けのマッチョになっても知らんからな」
「そうなった時は……アレだ。アヤトに責任を取ってもらおっかな?」

 今度は恥ずかしそうに顔を赤くしてそう言ったメア。
 たしかに筋肉質すぎる女の子をよめに貰いたいと言い出す奴は少なそうだな。同じ王族や貴族なら尚更っぽいイメージもある。
 そうなった時の責任ね……メアが俺でいいなら別にいいんだが。

「んじゃ、そうなった時はそうするか? まあ、最終的な結婚理由が『責任』でいいんならな」

 メアは腕を組みながら唸り始め、苦虫を噛み潰したような顔になる。
 俺もそんな理由で恋愛とか結婚なんかしたくない。それにメアは王族だから、そういう話になったら面倒は避けられなさそうだしな。

「……やっぱやめとく」
「その方が賢明けんめいだ」

 俺はそう言い残して、裂け目の中へ入る。
 裂け目の先には、だだっ広い草原が広がっていた。少し離れたところに、林や川がある。
 俺の後に続いて入ってきたメアとミーナは、その光景を見て唖然としている。前にこの空間に来ているカイトとリナ、それからさっきまでここにいたウルとルウは、特段驚きは無いようだった。

「何よ、これ……!?」

 最後に入ってきたフィーナがメアたち同様、目を見開いてありえないものを目にしているかのような表情をして呟いた。

「ノワールから教えてもらった空間魔術ってやつでな。これも魔術で作ったものだ」
「これって……魔物を見かけないけど、どこかそういう場所に空間を繋げたってこと?」

 フィーナは元の世界のどこかに転移した、と思っているらしい。多分、メアたちも同じように考えているだろう。
 しかしその実態は、俺が魔力で創り出した空間だ。
 それをどう説明したものか……

「どこかっていうより……俺の世界?」

 悩んだ末、誤解を与えないようシンプルにそう言うと、フィーナは無言のまま無表情で俺の顔を十秒二十秒と見続けてきた。

「やめろ、その無言で何かをうったえかけるようとするのを」
「しょうがないじゃない、あんたが何言ってるか分からないんだから。ねぇ、ほんとに何を言ってるの?」

 相変わらず無表情のまま、俺に問いかけてくるフィーナ。あまりの無表情っぷりに、なんだか段々怖くなってきた……

「つ、つまりだ。ここは俺が空間魔術で創り出した空間で、ある意味ではお前らがいる世界とは別の世界なんだよ。要するに、俺が創造した新しい世界だって言いたいんだよ」

 フィーナの圧に耐え切れず、思わず目を逸らしながらそう言った。

「あんた、自分で何言ってるか分かってる? 『新しい世界の創造』って……まるで神様みたいじゃない!」

 やっといつもの呆れた様子で叫ぶフィーナ。
 するとその隣にいたウルとルウが、神様というワードを聞きつけて目をキラキラさせ始めた。

「兄様は神様なの!?」
「兄様はご主人様で神様で凄いです!」

 キャッキャッと純粋に喜ぶ二人。
 ちなみにこの二人は既に魔空間デビューを果たしている。
 景色が綺麗で魔物がいないこの空間についての感想は『凄い!』の一言のみで、どうなっているのかは特に気にしていない様子だった。正直ちょっと拍子抜けだったが、喜んでもらえたから問題ない。
 それに求めていた反応は、メアとミーナ、それにフィーナがちゃんとやってくれたからな。


「ということで、ここで修業しようと思う」

 そう言ってメアたちの方を振り向くと、カイトが頷く。

「たしかにここなら、どれだけ暴れても問題なさそうですね」
「です! ルウたちもさっきまで『お岩砕いわくだき』してたの!」

 少し興奮した様子で、ある方向を指差すルウ。
 その先指差した一帯は、おそらく『お岩』があったんだろう、細かい石が散乱していたり、地面がクレーターのように陥没かんぼつしていたりした。
 それを見たカイトたちは顔を真っ青にして、口をポカンとあけていた。

「あの二人、強いとは聞いてたけどあんなに強かったんですね……」
「告。甘いですね、ヘレナはもっと凄い『地盤割り』を――」

 子供相手にムキになって不穏なことを口走るヘレナの頭に、ゲンコツを食らわせてやる。くだらんことで張り合うな。
 ヘレナは涙目で見上げてくるが、無視だ無視。

「というわけで、修業を始めるぞ。まずは――」
「修業を始める、の前にさ!」

 具体的に何をするか説明しようと俺が口を開いたところで、メアがさえぎってくる。

「誰が一番弟子か決めようぜ!」

 なんかアホの子が言いそうなことを言い出した。
 他の奴も眉をひそめたり呆れていたり苦笑いしたり、反応に困っているではないか。

「なんだ、急に? 順番で言うならカイトかリナが先だぞ?」
「早い者勝ちじゃなくて、誰が一番強いかで決めようぜ? それに仮だったとは言え、俺たちが先に弟子になってたんだし!」

 一番にこだわるってのは少し子供っぽかったが、弟子同士で試合をするのもいいかもしれないと思った。

「あの、俺は別に一番弟子とかは気にしないので……」
「んじゃ、試合するか」
「俺の話、無視ですか!?」

 なんかカイトが言ってたけど、俺がそう決めたので無視です。
 メアたちに真剣の代わりに手作りの竹刀しないを配る。元々修業用にと思ってこっそり作っていたものだが、試合でも十分に使えるはずだ。
 初めて見たのだろう、全員が興味深そうに竹刀をマジマジと見る。

「これは?」
「俺が作った、竹刀ってやつだ。俺の世界ではこいつを使って試合とかするんだよ。木刀に比べて怪我しにくいからな。ほれ」

 説明しながらもう一本の竹刀を取り出し、メアの頭を叩く。

「あだっ! ……まぁ、これなら怪我が少なくていいけどよ……って、あれ? さっきもだけどさ、アヤト、どっから竹刀出した?」

 メアが頭を押さえながら疑問を口にする。

「ああ、これも空間魔術の一つで、魔力の量次第で無制限に物の出し入れができるってやつだ。俺はこれを『収納庫』って呼んでるがな」

 実際、かなり便利である。
 大きさ、重さの制限がなければ個数制限もなし、食い物だって中に入れている限りは腐ることはないと、ノワールが言っていた。
 なのでどこに行くにも手ぶらでいいのだ!
 世界の創造に転移に収納庫に……あれ?
 よく考えたら空間魔術って凄いけど……強いって言うより便利系だよな。
 世界の創造だってほら……修業の場にもってこいとか、土地を自由にしていいとか、そういう系だから直接攻撃には使えないし。
 前にちょっとノワールと戦った時だって、あいつは一度放った攻撃を転移させるっていうトリッキーな使い方をしてたけど、あれは攻撃ありきだしなぁ。
 空間魔術自体、というか単体での戦闘時の強みがないんだよな。
 うーむ……まぁ、そのうちなんか見つかるか。
 なんてことを思っていると、メアが口を尖らせて抗議してくる。

「なんか、アヤトだけホンットズルいよな」
「ズルいって……ああ、でもたしかにズルではあるか」

 空間魔術を使うには、六属性以上の魔法適性が必要になる。すっかり忘れてたが、俺の適性がそれだけあるのは、シトが全魔法適性MAXのチートをくれたからだったな。

「悪いな、こればかりは神にでも祈っとけ」

 茶化すように言うと、メアとミーナが膨れっ面になる。子供みたいで面白いな。
「模擬戦の時も思いましたけど、師匠って魔術も使えるなんて凄いですよね」

 カイトがキラキラした目を向けてくるが、なんか照れくさい。

「メアの言った通り、ズルもしてるがな……さぁ、そろそろ試合を始めるぞ。まずはカイトとメア。そんでリナ、お前はミーナとフィーナのどっちとやりたいか決めておけ」

 仕切り直して組み合わせを伝えていき、リナに向かってそう言うと、リナはビクッと身体を硬直させた。

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