最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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武人祭

バーサーカータイム

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 ☆★☆★

 「いたいた」

 ワークラフト家から走り出して五分、本気を出したの走りだったので、俺はジーニアスの街にはすぐに着いていた。
 あとはノワールから教えてもらった一つの大きな倉庫を見つけ出し、屋根から中へ潜入すると見事に捕まって眠っている少女を見付けた。
 多少髪や服装が変わっているが、面影は残っているからあいつだろう。
 周囲には見張りが十人単位で囲んで見張っており、倉庫の周囲にも二、三十の数が歩き回っていた。
 人数的に多いが、規模の大きな組織か何かか?
 まぁ、どっちにしても俺たちに手を出したんだ、こいつら全員はもちろん……繋がってる奴も合わせて潰れてもらおうか。
 そしてそれが現状一番楽な方法は……本人には悪いが、今は達観させてもらう。アルニアには、少し我慢してもらおう。

 「うぅっ……?」

 アルニアがどうやら気付いたようだ。
 薄目を開けて周囲を確認している。
 ちなみに俺は見付からないように、天井の鉄骨を足場に乗っている。

 「ここ、は……っ!?」
 「気付いたか?お嬢サマ♪」

 アルニアの様子に気付いた身なりの汚い男たちが、しゃがんでアルニアの顔を覗く。
 その男たちの顔に、アルニアは目を見開いて驚く。

 「な、何……いたっ!?」

 無理に動こうとしたアルニアは、腕に縛っている紐が食い込んで痛がる。

 「あーあー、あんま暴れんなや。商品が傷物になったら、価値が下がっちまうじゃねえか」

 ――ピシッ
 一人の、恐らくリーダーであろう男の言葉に思わず苛立ち、乗っていた鉄骨を握り締めてヒビを入れてしまう。
 その鉄くずが、パラパラと男たちの頭上に降り注いでしまう。

 「あぁん?」

 それに気付いた一人の男が、天井を見上げる。しかし、もうすでに俺はそこにいない。

 「どうした?」
 「いや、なんかゴミが降ってきたからよ……」
 「もう古い建物だから、そりゃゴミくらい落ちてくるだろ。そのうち倒壊したりしてな!」

 なんて言って、ゲラゲラ笑う男。
 俺はというと、一度降りて男たちの死角に入り込み、視線が天井から外れたところでまた鉄骨の上に上っていた。アルニアにすら気付かれていない。
 危ない危ない……やっぱりこういう囮にさせて誘き出すっていうのは、どうにも感情が制御できないな。こういうところが危なかっかしいって家族からよく言われてたっけな……

 「くっ、なんだ君たちは……?」
 「ぷっ……『なんだ君たちは』だってよ?自分の置かれてる状況がわからないみたいだ、このお嬢様は……おい」

 リーダーが仲間の一人のに手を差し出す。
 その手に部下らしき他の男が、その手にナイフを差し出して置く。
 受け取ったリーダーはそれをアルニアに近付け、頬へなぞるように当てる。

 「僕たち、君を奴隷商人に高く売りたいんだ~、だから大人しくしててくれよ~……ってか?」

 ふざけた物言いをした後にギャハハと下品に笑う男たち。
 「奴隷商人」……その単語を聞いて思い出したのは、捕まりそうになっていたミーナと、すでに奴隷として売られていたウルとルウのことだった。
 そして俺がこの前解放して魔空間に保護してる奴らも……こういう奴らに捕まったのだろう。そんな事実だけでも、目の前にいる奴らに対してはらわたが煮えくり返りそうだった。

 「アニキ、その前にしちゃダメっすかね?」

 小ぶりな男が、アルニアを見ながらそう呟く。
 下卑た視線にアルニアが身震いを起こす。

 「んなのダメに決まってんだろ、ダボがっ!……だがまぁ、溜め込み過ぎるのも、よくないよなぁ?」

 そしてリーダーの男もまた、アルニアに下卑た視線を向ける。

 「よぉし、テメェら!だけなら許可してやる!」
 「「いぃよっしゃあぁぁぁ!」」

 リーダーである一人の男が宣言すると同時に、周囲の男たちが歓喜の声を上げて押し寄せる。

 「ヒッ……!?」

 男たちの圧とも言える勢いに押され、アルニアが小さな悲鳴を漏らす。
 そして恐怖したアルニアは、反射的に立ち上がって先頭の男へ蹴りを入れた。
 さらにせめてもの抵抗をと数人の男たちを蹴り倒していくが、ついに後ろから押さえられ、綺麗なドレスが前から破かれてはだけてしまう。

 「いやぁぁぁっ!?」

 耳をつんざくような叫びが辺りに響く。
 そこにいつもの堂々とした振る舞いをするアルニアの姿はなく、年齢相応の少女のように涙を流していた。
 よし、殺そう。
 殺意を胸に下に下りようとしたところで、あることに気付く。
 何かが破壊するような轟音を立てながら、こっちに近付いて来ていた。
 ――ドゴォンッ!
 近付くその轟音はこの建物の壁を破壊し、そこに一人の人物が現れた。

 「テメェら……うちの常連客になる予定のアルニアちゃんになにしてくれとんじゃあァァァッ!」

 男だがピンク色のドレスを着て丸太を抱えた、巨漢の何者かが登場した。
 ……何アレ?
 思いもよらぬ乱入者に、さっきまで抱えていた殺意がいつの間にか消えてしまっていた。

 「な、なんだあいつ!」
 「なんだあのデカいのは……何の兵器だ!?」
 「化け物だ!」
 「誰がオカマの化け物だっ!」

 男たちの言葉にキレた巨漢が、猛ダッシュして丸太を振り回す。
 その一振で複数人の男たちが、悲痛な叫びと共に宙へ舞う。
 そしてそれは一振だけでは留まらず、まさに快進撃とも言うべきオカマの攻撃であった。

 「――ドライ……さん……?」
 「女の子を辱めただけでは飽き足らず、あたしまで化け物呼ばわりするなんて……一人残らず塵にしたらぁっ!」

 それからオカマはもう狂戦士バーサーカーとなっていた。
 下衆どもが集まっているところに突っ込み、殴る蹴る振り回すの無双状態である。
 そんな愉快で爽快な光景を上から眺めていた俺は、思わずこう呟いてしまう。

 「やっちゃえ、バーサーカー!」
 「誰だ、今バーサーカーっつった奴は!?」

 ……俺はあくまで呟いただけなのだが、まさか聞こえるとは思わなかった。
 しかも俺が言ったことにより、オカマの暴走に拍車がかかってしまっていた。
 オカマは丸太を頭の上まで持ち上げ……

 「必殺……グランドショック!」

 必殺技を大きく叫び、そのまま縦に振り下ろす。
 すると地面が凄まじく揺れ、近くにいた奴らが衝撃で吹き飛ばされる。
 ……マジかよ。
 俺もできるっちゃできるが、人がやっているところを見るとさすがに驚く。
 そして男たちは、俺以上に驚き困惑していた。

 「じ、地震!?」
 「このオカマがやってるのか?本当にバケモンじゃねえか!?」

 オカマ目掛けて衝撃と恐怖に耐えた数人が襲いかかりに行くが、呆気なく殴り飛ばされてしまう。

 「クソ……おいテメェら!こっちは人数も武器もあるんだ、数で押し切れぇっ!」
 「「おぉっ!!」」

 リーダーの男が合図すると共に、周囲の男たちが一斉に襲いかかる。

 「かかって来いや、このクズどもがぁぁぁっ!」

 覇気のようなものを発しながら叫ぶオカマ。
 こうして人間VS怪獣の戦いが始まった――

 ――――

 それから三十分後。
 勝敗は未だに決されておらず、怪獣……もとい、オカマが劣勢だった。

 「はぁ……はぁ……」
 「あの化け物を押してるぞ!さっさと殺せぇ!」

 リーダーの掛け声に反応して、再び数人が殴りかかる。

 「グッ……舐めないでよねっ!」

 いつの間にか女言葉になっているオカマ。襲ってきた男たちを、丸太で再び殴り飛ばす。
 しかし速度も力も今までより明らかに弱っていた。
 するとオカマは背後から忍び寄っている奴に気付かず――

 「もらったぁっ!」
 「ぐあぁっ!?」

 背中を剣で斬られてしまい、オカマは悲痛な悲鳴を上げる。
 膝から崩れ落ちて地面に手を突くオカマに、ここぞとばかりに殴り斬りかかる男たち。
 抵抗することもできずに、一方的にやられるだけとなっていた。
 巨人の進撃もここまでか……

 「これで最後だ、オカマの化け物ぉっ!」
 「……う、ふふ……あたしの性別を超越した人生もここまでってわけね」

 なんスか、超越した人生って。
 っと、それはそれとして、そろそろ助けに入るか。
 巨人の進撃が面白くて、つい見入ってしまっていた。

 「死ねぇっ!」

 一人の男が声を上げ、振りかぶっていた剣をオカマの首目掛けて振り下ろした。
 だがその剣が当たる直前、人差し指と中指、親指の三本で止める。

 「いきなりで悪いが、選手交代だ」
 「だ、誰だ!?」
 「アヤト、君?」

 力無く地面に伏していたアルニアが、俺を見て小さく呟いた。
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