最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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武人祭

破壊

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 「だったら丁度いい!この勝負、アヤトさんに優劣を決めてもらおうじゃねえか!」

 しばらく睨み合いが続いていると、突然カジがそんなことを言い出す。
 なぜ俺を巻き込む?
 俺の疑問を他所に、ギムも頷いて俺を見る。

 「いいでしょう。俺とあんた、どっちが上かをこの人に委ねることにしようじゃないか」

 さっきまでの無気力はどこへやら、爛々と輝かせた目を俺に向けてそう言ってきた。
 カジとギム、二人の熱い視線に俺は後ずさりしてしまう。

 「あー……だったらまずは、その作ったもんを見せてくれるか?見てみないことには判断のしようがねえから……」
 「おお、そうでした……しかし、我々が作ったものでしたらすぐそこにありますぜ?」

 カジが適当に建てた家々の方向を指差す。
 そこには俺が作った覚えのないものが……

 「な……んだ、これ……!?」

 思わず言葉が詰まってしまい、開けた口が塞がらないくらいの光景が、そこには広がっていた。
 なぜあれほどこそのものを、俺はここに来た瞬間に見逃していたのか……?

 「こ、これは……」
 「アヤト君の……像……?」

 ミランダとアルニアが、口に手を当てて笑いを堪えながら言う。
 そう、そこにあったのは俺をモデルにしたであろう人物像が、村規模に建てた家々の中央辺りに堂々と、しかも二つ建てられていた。
 一つはまるで英雄を表すように剣を上に掲げ、もう一つは振り返りながら背中に背負っている鞘に剣を収めながら振り返っている姿だった。

 「うわぁ、カッコイイ~!ねぇ、うちにも一つ置かない?」
 「ドワーフの作品か……!しかもアヤト君の凛々しい姿と猛々しい姿をどちらも表しているものがあるとは……ああ、たしかに我が家にも一つ貰いたいものだ。いくらで売ってくれるだろうな?」

 フィアとリンドールに至っては、かなり真剣に品定めしていた。
 ミランダとアルニアはマジかとでも言いたげな驚きの表情を浮かべ、自分たちの両親に視線を向ける。
 俺はと言うと、その二つの像に向かってゆっくりと歩き出していた。

 「どうですか、アヤトさん!俺のは今まででかなりの自信作でね、この場所にいる奴らを救ってくれた英雄の象徴ってのをイメージしたんだ」

 カジが一生懸命説明してるのにも関わらず、俺は返事もしなければ見向きもせず、歩みを止めない。

 「俺の方がいい出来だと自負しています。イメージは冷徹、あなたが俺たちを助ける時に見た姿をそのまま形にしました。その時に剣は持っていませんでしたが、敵をズバズバと武器を持っているかのように倒している姿を見て、勝手に付けさせてもらいました」
 「はっ!これじゃあ、英雄って言うにはちと地味なんじゃねえか?それに削りがずいぶん荒いようだし……」

 カジが煽るような言葉を言うと、ギムがムッとして睨む。

 「あんたが好きな象徴の形は時代遅れなんだよ……もっとクールな感じじゃないとな。それと削りが荒いのは、まだ完成してねえからだ。完成すればあんたのよりも綺麗な仕上がりになるぜ?」
 「言ってろ、半人前」

 俺の後ろで歯軋りをして頭突きをし合うドワーフたち。
 それでも俺は気にせず、歩き続ける。

 「「アヤトさん、どっちですか!」」
 「スーパークラッシュ」

 適当な技名を呟いて、二つの石像を両方破壊する。

 「「ノオォォォォッ!?」」

 ドゴンと破裂したような音を立てて、石像はただの石ころへと変わり、ドワーフの悲痛な叫びが木霊する。
 宙に浮いていた石が全て落ちると、周囲の奴らは何も言わずにただ静寂が流れた。

 「何が気に入らなかったんですか!?言ってくれればその箇所を直したものを……!」

 すると、カジが俺の足にしがみ付いて泣き始める。むしろ俺の方が恥ずかしさで泣きたくなるんだが!

 「気に入らないも何も、何勝手に許可なく俺の石像作ってんだって話だ!俺は英雄にも神にもなる気はねぇぞ!?」
 「いいえ、あんたがなんと言おうと、すでに俺たちの英雄だ!だからあんたに文句を言われる筋合いはねえ!」

 なぜ本人に反論する権利がないのか謎理論である……
 しかもこういう奴ってのは、結構頑固だ……しょうがねぇ、もし諦める気がないなら、根比べと行くしかねえな。

 「なら俺の納得のいくものを作れ!俺がまたここに来て見た時、納得しなければ破壊する。もちろんヒントも何も無し……これが妥協できるラインだ!」

 正直言うと、これは意地悪だ。
 俺が俺の像を認めるなどそうそうあることではないので、簡単に課題をクリアできないと踏んでの提案なのだ。
 しかし勝つ自信があるのか、カジとニッと笑いギムは面倒臭そうに頭を掻いて笑う。

 「おうよ!絶対、首を縦に振らせてみせてやる!」
 「こりゃ、言い争ってる場合じゃないってことだな」

 そう言って二人は向き合い、ガッチリと手と手を取り合う。
 ……まぁ、仲良くなったのなら結果オーライだな。
 ドワーフ二人を見てそう思っていると、母親魔族のカシアがやってきた。

 「あの、アヤト様……あの方たちは新しくここに住む方々でしょうか?」

 カシアがそう言って手の平で優しく指し示した方向には、ミランダ一家がいた。

 「いや、違う。いるにはいるが、そいつらじゃない。そいつらは俺の……友人とその家族だ」
 「まぁ、そうでしたか」

 カシアや他の母親魔族たちが笑い、ミランダたちの方を向いて頭を下げて挨拶をする。

 「アヤト様にお世話になっている、カシアと言います」
 「あ、これはご丁寧にどうも……この子たちの母親をしています、フィアです」

 フィアもまた向かい合って頭を下げる。
 するとそれを見たカシアたちが、キョトンとした顔をする。

 「エルフの家族……まさか人間との間に子供、ですか?」
 「珍しいのか?」

 俺が疑問を口にすると、フィアとカシアの二人が同時に頷く。

 「長命種は基本的に子を成すのが難しいと言われています。それが他種族との間となれば尚更なのですが……」
 「そんなの、愛の前には微々たる問題ってことね♪」

 自分の溺愛っぷりを証明されたのが嬉しかったのか、フィアはリンドールの腕に絡んで上機嫌になっていた。
 恥ずかしげもなく言うフィアに対し、逆にリンドールの方が顔を赤らめ、表情を手で隠そうとする。

 「お前んとこの親は夫婦問題とかなさそうでよかったな」

 俺がそう言ってミランダたちの方を見ると、二人ともリンドール同様に顔を赤らめて俯いてしまっている。
 まぁ、自分の親がイチャイチャしてる姿なんて、子供からすれば見てられねえわな。
 するとカシアと母親と思われる人々が、悲しそうに微笑んだ表情でワークラフト夫婦を見つめていた。

 「少し、羨ましいですね……仲睦まじい夫婦愛を見せ付けられると、ちょっとだけ嫉妬してしまいます」

 カシアの後ろで他の母親たちが「ねー?」と言って同意している。
 ここにいるのは、夫を戦いで死んだり盗賊に襲われて殺された女ばかりだ。
 男も同様、妻を殺されて自らを奴隷にされた奴などもいる。
 魔族の奴らはあまり気にしていないらしいが、中には気力がほとんどなく塞ぎ込んでいる者すらいるのだ。
 そいつらが立ち直るには時間がかかるだろう。
 誰かこの魔空間の中で、代わりになるいい相手を見付けられればいいんだがなぁ……
 少々重い空気になりそうだったが、フィアが明るい感じのまま話を進めようとする。

 「それじゃあ、安全も確かめたし、あの子たちを連れてくるわね♪」

 フィアがウキウキとしながら、開いたままの裂け目に入っていった。
 その間、俺たちはここで待機する。

 「そういやぁ、ここにある建物を建てたのってアヤトさんか?」

 すると、ギムが話しかけてくる。カジはもういないところから、すでに作業を始めたのだろうか?

 「ああ、そうだ。何か気に入らないところでもあったか?」
 「いや、むしろ快適だ」

 意味深な言い方で、俺の作った家々を見渡す。

 「これら全て手作りだと聞いたが、どうしてこうまで精巧に作れるんだ?」
 「企業秘密」

 秘密にするほどのことでもないが、わざわざ教えるようなことでもないし、教えてすぐできるようなものじゃないから言わないでおく。
 だってそうだろ?最初に木を切り倒すところからほぼ全部素手でやるなんて。
 

 「……まぁ、職人の技術を簡単に人に教えるなんてこと、するわけないか。ごめんな、気を悪くするようなこと言っちまって」

 都合良く勘違いしてくれたようだ。

 「というか、お前らって家も作るのか?」
 「武器や魔道具作りに比べれば本職じゃないがね。自分の住処くらいは作ったりするよ」

 俺は「そうか」と答えて少し考え事をする。

 「なら、もしここの住人が家のことで不便してたら、あんたらが力になってやってくれないか?」

 俺の言葉を聞いたギムは、目を丸くしてポカンとしていた。

 「まぁ、役に立てるってんなら協力しますけれども……俺らよりあんたがやった方がいいんじゃあ?」
 「勘弁してくれ。俺の体は一つしかないんだ、いつでもここにいられるわけじゃない」

 ギムは「それもそっか」と言って納得してくれる。
 基本的に過ごすのは向こう側だから、なんでもしてはやれない。
 だからこいつらには悪いが、捕まっていた奴隷たちの中に物作りが得意なドワーフがいてくれてよかったと思う。

 「ちなみにあんたは作ってほしい物とかはないのか?さっきそいつが言った通り、俺たちは武器や魔道具を作るのが得意なんだ」

 今度はいなくなったと思ったカジが、大きな岩を担ぎながらそう言う。本当に早速作ろうとしてやがる……

 「まぁ、自分で作れるから別にいいが……そういや魔道具ってのには疎いからな。なんか面白い物や便利なのを作ってくれると助かる」
 「任せとけ!」

 カジがいい笑顔で親指を立ててグッドサインする。
 親方だなと思うのと同時に、本職のドワーフがどんなものを作ってくれるのかと今から楽しみになってしまっていた。
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