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武人祭
知ってた
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「だけど、これで賭けはアヤトの勝ちになっちまったな?」
アリスがどこかへと行ってしまった後にメアが突然そんなことを言い始め、あたしはそれが何のことかをすぐに理解してしまう。
そうだった、あたしはアヤトの悪評を広げようとして、スキルも使わず素の姿でここまで来たというのに……
チラリと未だに騒いでいる冒険者の方に視線を移す。
「どこも魔族って嫌われてるけどサザンドみたいな街もあるし、案外魔族と交流持つのも悪くないのかもな?」
「おいおい、とか言ってフィーナさんに近付く気じゃないだろうな?アヤトさんに言い付けっぞ!」
「そういえばお前んとこの店開いてる実家、魔族と取り引きしようって持ちかけられてたって言ってなかったか?」
「ああ、そうだな……これを機にちょっと考えてみるか」
なんだかアヤトの信用を失わせるどころか、むしろあたしが評価されてしまっている気がしていた。
あいつ相手に下手に嘘も付けないし……って、もしかしてこのためにこいつらを監視に付けたってわけ!?
メアたちがいればアヤトの縁者だって証明できるし、悪者ぶっても意味がない……
クッ、こんな見落としをしてたなんて……不覚だわ!
「……いや、まだよ。ここで暴れてしまえば、それこそ信用なんて……!」
「おいやめろ!それじゃあ、勝負にならないだろ!?」
乱心とも言えるあたしの言葉に、抱き着いていたメアがさらに力を強めて止めようとしてくる。
たしかに……あたしがアヤトと勝負してるのは、あくまで「あたしが魔族だからという理由で評価を落とさせる」ということで、負け惜しみで暴れたところであたしの負けは変わらない。
そして負ければあたしはアヤトの……
「奴隷になっちゃいましたね」
ランカがボソッと呟く。
こいつ……!
「あんた……き、聞いてたの?」
「ええ、聞いてました……あなたたちがそんな話をしてるところを通りかかって盗み聞きしてましたとも。そのせいでアヤトにバレて、追い出されるようにここに来させられたのですが」
そう言ってランカは「へっ……」と遠くを見つめるように目を細め、引きつった笑いを浮かべていた。
しかしその細めた目を、あたしに向けてくる。
「ですが、意外でしたね……フィーナさんにそんなマゾっ気があったなんて」
「ちょっ……なんでそうなるのよ!?」
「だって……」
ランカがニヤリといやらしく笑う。
「アヤトに勝負を挑むこと自体、無謀だと思いませんか?なのに賭けまでして、その内容が『負けた方が勝者の奴隷になる』なんて……まるで自ら彼の下僕になりたがっているかのようではありませんか?フィーナさん、もしかしてあなた……」
ランカが口にしようとしてるその先の言葉に嫌な予感を覚え、無理にでも止めようとする。
近くにはメアやミーナがいる。こいつらの前でそれを聞かせたくない!
でもそのメアたちが未だに抱き着いていて、あたしは身動きが取れずにいた。
「うおっ、どうしたフィーナ!?」
「離しなさい!あいつの口を今すぐ塞がないと――」
「――アヤトのこと、愛が付くくらい好きなんですか?」
ランカの発言を許してしまったあたしは顔が熱くなり、力んでいた力を抜いてその場にへたり込んでしまう。
横からは、あたしの体に抱き着いていたメアが「お、おい、大丈夫か?」と声をかけてくるが、あたしには届いていなかった。
待ってよ……なんであたし、こんなに落ち込んでるの?
違うって一言を言って否定すればいいだけの話なのに、それが出てこない。
それに顔がどんどん熱くなって……
その瞬間、魔城でアヤトにキスしたことを思い出し、さらに顔が熱くなるのを感じた。
傍から見れば、あたしの顔はゆでダコのように真っ赤になっているだろう。
あたしが?ペルディア様以外に?しかもよりによってアヤトに!?
自分でも信じられないけど、否定の言葉が出てこない。まるで否定しようとするのを否定するかのように。
自分でも思ってもみないような困惑をしてるところに、メアが追撃をしてくる。
「いや、そんなんみんな知ってるだろ」
「……え?」
メアの言ってることが理解できず、振り返って視線を向ける。
「知ってるって……え?」
「……ん?だってあんだけアヤトにアピールしてたから……えっ、違うのか?」
「ううん、違くない。フィーナはアヤトが好き」
メアが首を傾げて聞いてきて、ミーナがハッキリと断言する。
「な、なんで――」
「アヤト以外には言ってなかったけど、私もアヤトみたいに相手の感情が読める」
「……マジで?」
ミーナの突然カミングアウトに、あたしがまさに今思っていた言葉をメアが口にした。
驚きで次の言葉が出ないうちに、ミーナが話を続ける。
「フィーナ、魔族大陸から帰ってきた頃からアヤトのことを気にし始めて、昨日辺りから凄く好きになっちゃってる」
「っ!?」
昨日……まさにアヤトにしてしまった出来事があった日をピンポイントで指し示してきた。
いやでももしかしたら、昨日アリスにぶっ飛びされた後も意識があった可能性も……
「それと昨日と前回、アヤトと一緒にお風呂入ってたフィーナ、凄く嬉しそうだっ――」
あたしはそれ以上言わせまいとミーナの頭を掴み、ランカと一緒に壁に叩き付けて黙らせた。
「それ以上言うなァァァァッ!」
「ぐぶっ!?」
「なぜ私もっ!?」
壁に叩き付けられる瞬間にランカが叫ぶ。元はと言えば、あんたが原因なのだから当たり前でしょうに。
そしてぐったりと地面に倒れるミーナとランカを横目に、カイトたちを向く。
「それで?他に言いたいことのある奴は?」
血管を浮かべて笑った表情を作ってそう言うと、カイトたちを含む冒険者たち全員が恐怖を表情に貼り付けて首を横に振りまくる。
アヤトに習ってやってみたけど……いいわね、この相手を萎縮させるこの威圧方法。今度から多様しようかしら?顔の筋肉が疲れそうだけど。
「さ、無駄話もいいけど、さっさと魔物の素材取りに行って日が暮れないうちに登録を済ませましょ?」
あたしがそう言うと、地面に倒れていたミーナとランカがふらつきながら立ち上がる。
そしてギルドから出ようとすると、誰かに声をかけられる。
「あ、あのっ!」
声のした方向へ振り返ると、そこには少年少女が一人ずつ立っていた。
少年の方は白髪に赤い瞳で小柄な体、少女の方は少年よりも少し背が高く、ブロンドの髪にエメラルドの瞳をしていた。
「おっ、ジェイとマヤ……だったか?」
その二人に、メアが手を挙げて気軽に声をかける。知り合いかしら?
対して白髪の少年は礼儀正しく頭を下げた。
「はいっ、お久しぶりです!」
「お久しぶり……ってほど時間も経ってないけどね。こんにちは、メアさん、ミーナさん!カイト君たちも!」
ブロンド髪の少女もそう言って軽くお辞儀をする。
「知り合い?」
「ああ、前に一回だけアヤトがいた時一緒に依頼を受けた奴らだ」
仲間……ってことなのかしら?
気弱そうな見た目の割に、ずいぶん良い装備を揃えてるみたいだけど……
あたしが怪しげな視線を彼らの防具武器に向けていたからか、少年がたじろいで一歩下がる。
「えっと、はじめまして……ですよね?僕はジェイで、こっちが連れのマヤです……」
「ども……」
恐る恐ると挨拶をする彼らに、あたしも適当に返しつつ聞き返す。
「ええ、はじめまして。それで何か用かしら?」
「いや、顔見知りがいたから話しかけてきたとかだろ……」
メアが少し呆れ気味に言う。
わかってるわよ、そのくらい。ただ牽制したかっただけ。
自分でも難儀な性格だとは思ってる。でもこうでもしないと、相手を簡単に信用するなんてできるわけないもの……
するとマヤがムッとした表情であたしの前に出てくる。
「ちょっと……初対面で失礼じゃないですか?」
「そう?その初対面でヘラヘラする方が、あたしからしたらありえないと思うんだけど」
「なっ……!?」
あたしの返答にマヤは驚いて固まってしまい、徐々に表情が険しくなる。
一緒にいたジェイとリナがあたふたとしていた。似た者同士ね、こいつら……
「ヘラヘラしてるわけじゃありません!敬意を払って接しないと……」
「なんで知らない相手に敬意なんて払うのよ?……あんたらって、相手が盗賊みたいな悪意のある奴のカモにされちゃいそうね」
嘲笑うような笑みを浮かべてあたしがそう言うと、憎々しげに睨み付けてきて歯軋りをするマヤ。
「それに、どうせここにいる奴らだって、アヤトが来る前なら人に突っかかって迷惑かけてたんじゃないの?」
「「うっ……!」」
あたしの言葉を聞いた冒険者たちが、図星を突かれたように声を漏らしていた。
「敬意ってのは知り合って間もない奴じゃなく、ある程度知った相手に向けなさい。じゃなきゃ、あんたの連れ諸共いつか後悔するわよ」
さっきまで嫌味を言ってたつもりだったのに、いつの間にか助言というか、説教みたいになってしまっていた。
だからかマヤは言い返せずに、口を噤んでしまっている。
「まぁまぁ、信じるってのは悪いことじゃないんだから、そこまで言わなくてもいいんじゃないか?」
「……そんなこと言って、後でこいつらに何かあった時にあんたが自分を責めることがあっても、あたしは何もしてやらないからね?」
あたしがそう言うとメアがキョトンとした顔になり、次第にいやらしい笑みを浮かべる。
「それ以外だったら慰めてくれようとするのか?やっぱやさしーな、フィーナは?」
そう言いながら頬擦りしてくるメア。
「うっさい鬱陶しい!いいから早く行くわよ!ったく……」
「あっ、すいません!メアさんたちに声をかけたのは顔見知りだったというのもあるんですけれど、フィーナさんの言う通り用事があって……」
ジェイが相変わらずオドオドした様子で言う。
さっきから凄い足止めされてる感があるような気がする。
あたしは溜め息だけ吐いて、ジェイがその「用事」を口にするのを待った。
「実は僕たちもこれから依頼を受けることになりまして……それでもし冒険者登録で魔物を倒すなら、僕たちと一緒に行きませんか?って、提案をしようと思ったんですけど……」
ジェイの挙動不審具合が少々腹立つけれど、それは置いといて受付嬢のサリアとミーティアを見る。
「誰かに手伝ってもらったり、もしくはあたしやランカがら既存の冒険者の依頼を手伝っていいの?」
「えー……原則では禁じられていないのですが、私たち的には単独で向かわれてくれるとありがたい、という感じです」
サリアの言い方に眉をひそめていると、ミーティアが咳払いをして説明し直してくれる。
「先程サリアからもありましたが、この試験はあくまでその人の実力を見定めるものです。なので他力本願で合格したとして、依頼の中での事故などが発生して当人へ肉体的な損害があっても、自己負担となります」
「つまり自己責任って言いたいわけね。別にいいわ、実力にはそこそこ自信あるし……」
「あれ、珍しいな?フィーナが自分の実力に『そこそこ』なんて弱気な言葉使うの」
メアの指摘に、あたしは「うっ」と声を漏らす。
「しょ、しょうがないじゃない……毎日あいつに打ちのめされれば、自信なんて無くなるわよ!」
「……まぁ、それもそうだな」
苦笑いで目を逸らすメア。心当たりのあるカイトたちも俯いたりと、日々の修業を思い出してしまっているようだった。
そんな気分の沈んだまま、あたしたちはジェイたち二人と一緒に魔物の討伐へと向かう。
アリスがどこかへと行ってしまった後にメアが突然そんなことを言い始め、あたしはそれが何のことかをすぐに理解してしまう。
そうだった、あたしはアヤトの悪評を広げようとして、スキルも使わず素の姿でここまで来たというのに……
チラリと未だに騒いでいる冒険者の方に視線を移す。
「どこも魔族って嫌われてるけどサザンドみたいな街もあるし、案外魔族と交流持つのも悪くないのかもな?」
「おいおい、とか言ってフィーナさんに近付く気じゃないだろうな?アヤトさんに言い付けっぞ!」
「そういえばお前んとこの店開いてる実家、魔族と取り引きしようって持ちかけられてたって言ってなかったか?」
「ああ、そうだな……これを機にちょっと考えてみるか」
なんだかアヤトの信用を失わせるどころか、むしろあたしが評価されてしまっている気がしていた。
あいつ相手に下手に嘘も付けないし……って、もしかしてこのためにこいつらを監視に付けたってわけ!?
メアたちがいればアヤトの縁者だって証明できるし、悪者ぶっても意味がない……
クッ、こんな見落としをしてたなんて……不覚だわ!
「……いや、まだよ。ここで暴れてしまえば、それこそ信用なんて……!」
「おいやめろ!それじゃあ、勝負にならないだろ!?」
乱心とも言えるあたしの言葉に、抱き着いていたメアがさらに力を強めて止めようとしてくる。
たしかに……あたしがアヤトと勝負してるのは、あくまで「あたしが魔族だからという理由で評価を落とさせる」ということで、負け惜しみで暴れたところであたしの負けは変わらない。
そして負ければあたしはアヤトの……
「奴隷になっちゃいましたね」
ランカがボソッと呟く。
こいつ……!
「あんた……き、聞いてたの?」
「ええ、聞いてました……あなたたちがそんな話をしてるところを通りかかって盗み聞きしてましたとも。そのせいでアヤトにバレて、追い出されるようにここに来させられたのですが」
そう言ってランカは「へっ……」と遠くを見つめるように目を細め、引きつった笑いを浮かべていた。
しかしその細めた目を、あたしに向けてくる。
「ですが、意外でしたね……フィーナさんにそんなマゾっ気があったなんて」
「ちょっ……なんでそうなるのよ!?」
「だって……」
ランカがニヤリといやらしく笑う。
「アヤトに勝負を挑むこと自体、無謀だと思いませんか?なのに賭けまでして、その内容が『負けた方が勝者の奴隷になる』なんて……まるで自ら彼の下僕になりたがっているかのようではありませんか?フィーナさん、もしかしてあなた……」
ランカが口にしようとしてるその先の言葉に嫌な予感を覚え、無理にでも止めようとする。
近くにはメアやミーナがいる。こいつらの前でそれを聞かせたくない!
でもそのメアたちが未だに抱き着いていて、あたしは身動きが取れずにいた。
「うおっ、どうしたフィーナ!?」
「離しなさい!あいつの口を今すぐ塞がないと――」
「――アヤトのこと、愛が付くくらい好きなんですか?」
ランカの発言を許してしまったあたしは顔が熱くなり、力んでいた力を抜いてその場にへたり込んでしまう。
横からは、あたしの体に抱き着いていたメアが「お、おい、大丈夫か?」と声をかけてくるが、あたしには届いていなかった。
待ってよ……なんであたし、こんなに落ち込んでるの?
違うって一言を言って否定すればいいだけの話なのに、それが出てこない。
それに顔がどんどん熱くなって……
その瞬間、魔城でアヤトにキスしたことを思い出し、さらに顔が熱くなるのを感じた。
傍から見れば、あたしの顔はゆでダコのように真っ赤になっているだろう。
あたしが?ペルディア様以外に?しかもよりによってアヤトに!?
自分でも信じられないけど、否定の言葉が出てこない。まるで否定しようとするのを否定するかのように。
自分でも思ってもみないような困惑をしてるところに、メアが追撃をしてくる。
「いや、そんなんみんな知ってるだろ」
「……え?」
メアの言ってることが理解できず、振り返って視線を向ける。
「知ってるって……え?」
「……ん?だってあんだけアヤトにアピールしてたから……えっ、違うのか?」
「ううん、違くない。フィーナはアヤトが好き」
メアが首を傾げて聞いてきて、ミーナがハッキリと断言する。
「な、なんで――」
「アヤト以外には言ってなかったけど、私もアヤトみたいに相手の感情が読める」
「……マジで?」
ミーナの突然カミングアウトに、あたしがまさに今思っていた言葉をメアが口にした。
驚きで次の言葉が出ないうちに、ミーナが話を続ける。
「フィーナ、魔族大陸から帰ってきた頃からアヤトのことを気にし始めて、昨日辺りから凄く好きになっちゃってる」
「っ!?」
昨日……まさにアヤトにしてしまった出来事があった日をピンポイントで指し示してきた。
いやでももしかしたら、昨日アリスにぶっ飛びされた後も意識があった可能性も……
「それと昨日と前回、アヤトと一緒にお風呂入ってたフィーナ、凄く嬉しそうだっ――」
あたしはそれ以上言わせまいとミーナの頭を掴み、ランカと一緒に壁に叩き付けて黙らせた。
「それ以上言うなァァァァッ!」
「ぐぶっ!?」
「なぜ私もっ!?」
壁に叩き付けられる瞬間にランカが叫ぶ。元はと言えば、あんたが原因なのだから当たり前でしょうに。
そしてぐったりと地面に倒れるミーナとランカを横目に、カイトたちを向く。
「それで?他に言いたいことのある奴は?」
血管を浮かべて笑った表情を作ってそう言うと、カイトたちを含む冒険者たち全員が恐怖を表情に貼り付けて首を横に振りまくる。
アヤトに習ってやってみたけど……いいわね、この相手を萎縮させるこの威圧方法。今度から多様しようかしら?顔の筋肉が疲れそうだけど。
「さ、無駄話もいいけど、さっさと魔物の素材取りに行って日が暮れないうちに登録を済ませましょ?」
あたしがそう言うと、地面に倒れていたミーナとランカがふらつきながら立ち上がる。
そしてギルドから出ようとすると、誰かに声をかけられる。
「あ、あのっ!」
声のした方向へ振り返ると、そこには少年少女が一人ずつ立っていた。
少年の方は白髪に赤い瞳で小柄な体、少女の方は少年よりも少し背が高く、ブロンドの髪にエメラルドの瞳をしていた。
「おっ、ジェイとマヤ……だったか?」
その二人に、メアが手を挙げて気軽に声をかける。知り合いかしら?
対して白髪の少年は礼儀正しく頭を下げた。
「はいっ、お久しぶりです!」
「お久しぶり……ってほど時間も経ってないけどね。こんにちは、メアさん、ミーナさん!カイト君たちも!」
ブロンド髪の少女もそう言って軽くお辞儀をする。
「知り合い?」
「ああ、前に一回だけアヤトがいた時一緒に依頼を受けた奴らだ」
仲間……ってことなのかしら?
気弱そうな見た目の割に、ずいぶん良い装備を揃えてるみたいだけど……
あたしが怪しげな視線を彼らの防具武器に向けていたからか、少年がたじろいで一歩下がる。
「えっと、はじめまして……ですよね?僕はジェイで、こっちが連れのマヤです……」
「ども……」
恐る恐ると挨拶をする彼らに、あたしも適当に返しつつ聞き返す。
「ええ、はじめまして。それで何か用かしら?」
「いや、顔見知りがいたから話しかけてきたとかだろ……」
メアが少し呆れ気味に言う。
わかってるわよ、そのくらい。ただ牽制したかっただけ。
自分でも難儀な性格だとは思ってる。でもこうでもしないと、相手を簡単に信用するなんてできるわけないもの……
するとマヤがムッとした表情であたしの前に出てくる。
「ちょっと……初対面で失礼じゃないですか?」
「そう?その初対面でヘラヘラする方が、あたしからしたらありえないと思うんだけど」
「なっ……!?」
あたしの返答にマヤは驚いて固まってしまい、徐々に表情が険しくなる。
一緒にいたジェイとリナがあたふたとしていた。似た者同士ね、こいつら……
「ヘラヘラしてるわけじゃありません!敬意を払って接しないと……」
「なんで知らない相手に敬意なんて払うのよ?……あんたらって、相手が盗賊みたいな悪意のある奴のカモにされちゃいそうね」
嘲笑うような笑みを浮かべてあたしがそう言うと、憎々しげに睨み付けてきて歯軋りをするマヤ。
「それに、どうせここにいる奴らだって、アヤトが来る前なら人に突っかかって迷惑かけてたんじゃないの?」
「「うっ……!」」
あたしの言葉を聞いた冒険者たちが、図星を突かれたように声を漏らしていた。
「敬意ってのは知り合って間もない奴じゃなく、ある程度知った相手に向けなさい。じゃなきゃ、あんたの連れ諸共いつか後悔するわよ」
さっきまで嫌味を言ってたつもりだったのに、いつの間にか助言というか、説教みたいになってしまっていた。
だからかマヤは言い返せずに、口を噤んでしまっている。
「まぁまぁ、信じるってのは悪いことじゃないんだから、そこまで言わなくてもいいんじゃないか?」
「……そんなこと言って、後でこいつらに何かあった時にあんたが自分を責めることがあっても、あたしは何もしてやらないからね?」
あたしがそう言うとメアがキョトンとした顔になり、次第にいやらしい笑みを浮かべる。
「それ以外だったら慰めてくれようとするのか?やっぱやさしーな、フィーナは?」
そう言いながら頬擦りしてくるメア。
「うっさい鬱陶しい!いいから早く行くわよ!ったく……」
「あっ、すいません!メアさんたちに声をかけたのは顔見知りだったというのもあるんですけれど、フィーナさんの言う通り用事があって……」
ジェイが相変わらずオドオドした様子で言う。
さっきから凄い足止めされてる感があるような気がする。
あたしは溜め息だけ吐いて、ジェイがその「用事」を口にするのを待った。
「実は僕たちもこれから依頼を受けることになりまして……それでもし冒険者登録で魔物を倒すなら、僕たちと一緒に行きませんか?って、提案をしようと思ったんですけど……」
ジェイの挙動不審具合が少々腹立つけれど、それは置いといて受付嬢のサリアとミーティアを見る。
「誰かに手伝ってもらったり、もしくはあたしやランカがら既存の冒険者の依頼を手伝っていいの?」
「えー……原則では禁じられていないのですが、私たち的には単独で向かわれてくれるとありがたい、という感じです」
サリアの言い方に眉をひそめていると、ミーティアが咳払いをして説明し直してくれる。
「先程サリアからもありましたが、この試験はあくまでその人の実力を見定めるものです。なので他力本願で合格したとして、依頼の中での事故などが発生して当人へ肉体的な損害があっても、自己負担となります」
「つまり自己責任って言いたいわけね。別にいいわ、実力にはそこそこ自信あるし……」
「あれ、珍しいな?フィーナが自分の実力に『そこそこ』なんて弱気な言葉使うの」
メアの指摘に、あたしは「うっ」と声を漏らす。
「しょ、しょうがないじゃない……毎日あいつに打ちのめされれば、自信なんて無くなるわよ!」
「……まぁ、それもそうだな」
苦笑いで目を逸らすメア。心当たりのあるカイトたちも俯いたりと、日々の修業を思い出してしまっているようだった。
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