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ex 親子
しおりを挟む☆★ノワール★☆
「さて」
目を瞑り、呟く。
自分のいるこの場所、一方を除き四方八方石垣で囲まれており、残りの一方は鉄格子がいくつも並んでいる。
まるで牢屋のようだ。
「これは一体どういう事か」
誰に言うでもない言葉を自分に聞かせるように呟く。
私は先程までアヤト様と共にいた筈。しかし、時を止められたかのように、目の前の景色が気付けばこの場所に変わっていた。
そう、まるで神に悪戯でもされたかのように。
そして今の言葉に反応する虫が数匹。
「あ、あの!これってどういう・・・テレポート・・・?」
アヤト様と同じく他の世界から召喚され、周りの小虫共から勇者だと持ち上げられている・・・ノクト、だったか。
人間にしては冷静で助かる。あまり喚き散らされ、間違って殺してしまったりでもしたら、アヤト様にお叱りを受けてしまう。
「おぉう!?アヤト殿から引き剥がされてしまったのか!?」
「その、ようですわね・・・」
騒々しく騒ぐ光の精霊王、オルドラ。
同じくこの場に存在し、目に見える程に意気消沈している闇の精霊王、ココア。
油断したせいで主人の中から離別したか。全く情けない。
・・・いや、現にアヤト様から引き離された私が言える立場ではないか。
自分の情けなさに思わず溜息が溢れる。
しかし、いつまでも手をこまねいているわけにもいかない。
一刻も早くアヤト様の元に戻らなければ・・・?
念話を使い、アヤト様の状況把握と飛ばされた場所の特定をしようとしたところで、ソレが不可能だとすぐに理解した。
「魔術執行に必要な式の妨害・・・無効化されているか」
今自分に置かれている状況に、特に慌てる事もない。
アヤト様の元へ駆け付けられないのはもどかしいが、私があの方を心配をするのは愚かだ。
それだけの力があの方にはある。
そう、それがたとえ相手が「アイツ」だったとしても・・・。
ある人物の顔が脳裏を過る。
ありえない、がありえないと言い切れない予感。
私の勘はよく当たる。良い事も、悪い事も。
前回のアヤト様がこの世界に現れた時は良い予感が。今回に関しては・・・言わずもがな。
今回の騒動、この場の搔き乱し方、根拠のない確信があった。
そして予想通りの人物が現れる。
「クフフ、揃いも揃ってアホ面晒しちゃって・・・相変わらず面白い顔をしてるわね、貴方は?」
聞き覚えのある耳障りな女の笑い声。
声のする方には長い白髪を両サイドに結び留め、妖しい笑みを浮かべながら鉄格子の向こうから来た少女の姿をしたモノ。
腐りかけの魚の目を無理矢理赤くしたような目をして、一人一人を観察するように見やり、最後に自分と目を合わせる。
「やはり貴様だったか」
思わず怨の念を込めた低い声を出してしまった。しかし「コイツ」が相手ではしょうがないと言えよう。
見れば見る程、鏡を見た時の自分の顔に似ていて、もう一人の自分がそこにいるような錯覚を起こして吐き気を催してしまう。
「いいのか?それは自分の顔を面白いと言っているようなものだが?」
「何言ってるの?貴方と違って私の顔は女の子らしくて可愛いじゃない?」
自画自賛を越えた、ただただ気持ち悪い返答をしてきた。
「女の子?貴様が?面白い冗談だ。まさかこれまで篭っている長い間にユーモアを覚えて出て来るとは・・・意外だ」
「えぇ、これでも人に好かれたくて色々勉強して来たのよ?相手にどんな事をしたら笑って、どんな事をしたら泣いて、どんな事をしたら怒るのか・・・色々ね♪」
妖しく笑っていた小さな口を大きく歪ませ、歪な笑顔をその顔に張り付ける。
何を考えているのか、長年の付き合いである私にも分からない。
正直関わりたくないのが本音なのだが、コイツがアヤト様に関わっているとなるとそうもいかなくなる。
「それで、久しぶりに外に出た理由はなんだ?まさか貴様みたいな怠惰の塊のような奴が人間と仲良しごっこをするために出て来たわけではあるまい?」
「えー?貴方なら分かってるんじゃないの?それとも意地悪でわざと言ってるの~?」
「さぁ?考えた事もない。貴様の気まぐれに一々脳を使うのも勿体無いからな」
「言ってくれるじゃない、クフフ・・・」
「この程度、いくらでも言ってやるさ。クフフ・・・」
「「クフフフフフフ・・・」」
お互い威圧を込めて笑う。
少女は相手を馬鹿にするような笑いで。
自分は相手を蔑むような笑いで。
背はこちらの方が高く見下しているが、少女はわざと体勢を低くして煽るように上目遣いで見上げてくる。
暫しの間、この状態を続けていると、少女が飽きたように目を閉じて振り返る。
「とりあえず、貴方たちはしばらくここで大人しくジッとしててね?」
「大人しくしてるとでも?」
魔術が使えなくともこのような鉄屑で私を止められるとでもーー
だが鉄格子に触ろうとすると弾かれる。
痛みはないが、触る事ができない。
ああ、やってくれたな、この害虫・・・!
「クフフッ、大人しくしてるしかないのよ、貴方たちは♪」
そう言って少女は指を唇に当て、「チュッ」とわざとらしく音を立て離す・・・所謂「投げキス」というものをしてきた。
ソレを見た私は、透明で強力な呪いを飛ばされた気がして、ガラにもなく背筋が凍った思いをした。
少女が歩き出し、その場から消えると、後ろからドサリと何か荷物を落としたような音が聞こえ、振り返って見るとノクトが尻餅をついていた。
「今・・・のは・・・?」
「なんだ、当てられたのか?」
ただの人間であれば今のやり取りで失神、最悪ショック死すらありえるからな。
・・・いや、そういえばもう一つ原因になり得るものがあったな。
確か・・・ステイタス?
相手の些細な詳細を覗き見る事ができると言っていたな。恐らくソレを使用してあの女の事でも見たのだろう。
アレは自らを赤裸々に見せびらかす癖に、覗かれる事を嫌う性格だからな。
見ようとした際に妨害でもされたのだろう。
すると精霊二匹が恐る恐ると聞いて来る。
「ノワール殿、今のは・・・?貴殿と似た・・・しかし全くの異質の感じがしたのだが・・・」
「私と似た、というのは気に食いませんが・・・まぁそれもその筈です。アレは私の生みの親ですので」
全員が唖然として息を飲む。
それもそうだろう。寿命がほぼ永久的にある筈の最上位の悪魔が子を産むなど、普通ありえない。
特に「私のようなケース」などは更に稀だ。
「ただ、親と認識するのは癪ですので、今後貴方たちがこの話題を口にするのは禁句とします」
その場の者に軽い威圧を含めて睨み、有無を言わさず頷かせる。
相手がアヤト様であればしょうがないと諦められるが、他の者がソレを口にしたら私は我慢が効かず、ソイツを灰すら残さず滅する事になるだろう。
「理解したのなら何も言う事はありません。しかし・・・」
こう言ってはなんだが、暇、になってしまったな。
アヤト様がおらず、魔術も鉄格子も、この壁はなんの変哲もないが、恐らくこの向こうにも同じものが配置されてると考えていいだろう。
なればこの部屋でこの事態が収まるまで大人しくしているしかない。・・・あの女の言いなりになるのは癪だが。
「仕方ない、では何かで暇を潰すとするか・・・」
丁度、先程視界の隅に良い玩具をいくつか見つけていた。
アイツが私の趣味を知っているとは思わないが・・・まぁ、あるなら使わせてもらおうか。
「大方適当な物を見繕っただけの偶然だろうが・・・何から何まで癇に触る」
と呟きつつ、無いよりマシだと自分に言い聞かせ、自称勇者と精霊共に向く。
「コレらで相手ができる者はこの中にいますか?」
丁寧に地面に置かれていた物を拾い上げ、ポカンとバカみたいな表情で固まっている勇者たちに見せる。
オセロ、チェス、将棋、トランプカードの四つ。
ダーツもあるが、的に当てるだけの子供遊びなどつまらんからアレは却下だ。
「儂らができるのはトランプでババ抜きくらいかのう?」
「私はブラックジャックもできます」
「僕は一応一通りできますけど・・・」
流石は勇者。
この玩具も元は異世界の者が言い伝えたという物。同じ異世界人であればある程度の遊びは知っているという事か。
皮肉じみた感心をしつつ、この状況を変わるまでこちらもこちらで楽しむ事とする。
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