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ex 干渉魔術耐久
しおりを挟む日が差し込む事のない薄暗い地下。
辺りはゴツゴツとした岩で囲まれており、とても部屋とは呼べない場所。
そこに佇むメアとミーナの二人と、宙にフワフワと浮いているココアが一人。
「今日はアヤト様にお許しを頂いて、代わりに干渉魔術に対する耐性を付ける修行を行おうと思います!ウフフッ、ちょっと言ってみたかったのよね、コレ♪」
何故か異様にテンションの高いココアに苦笑いで返すメア。
ミーナは特に反応を示す事もなく、無表情でココアのいない虚空を見つめる。
「それで、干渉魔術の耐久でもするのか?」
「えぇそう、ただ耐えるだけ。最初は弱く、そして段々強力に・・・要は慣れですわ」
二人は「了解」と言って頷き構える。
「そう構えなくてもよろしいですわ。・・・というより、意味がないですわ。干渉魔術は肉体の方ではなく、精神に負担を掛ける技ですので、心の準備だけしてもらえれば」
「あ、そっか」
メアだけ構えを解いたが、ミーナはそのまま構えている。
「私はこれでいい」
「分かりました。では覚悟はよろしいですか?」
ココアの問いに無言で頷く二人。
「ではーー」
そう言ってココアは手をメアたちに向けてかざす。
すると薄暗かった周囲が少しずつ暗くなる。
思わずメアは再び身構える。
「・・・・・・?」
しかしいつまで経っても何も感じないメアは眉をひそめる。
すると何も起こらない状況に対して疑問を口にしようとメアより先にココアが口を開く。
「メアさんはまだ何も感じないようですわね。・・・ミーナさんもまだ負担が掛かってない筈ですけど、やはり直感が働く亜人ですと何か感じ取ったみたいですね」
何の事かとメアがミーナの方を見ると、尋常ではない汗が噴き出ていた。
「ミーナ?」
「・・・大丈夫。・・・まだ」
「勘がが良すぎるというのも考えものですわね。まぁ、悪いよりはマシですけど。アヤト様ならその良過ぎる感性をどう活かすかと課題を出すところでしょうか?ウフフ・・・」
すると突然メアたちの体に何かがのし掛かったように重くなり、前屈みになる。
「「ッ!?」」
「「れべるつー」、と言ったところでしょうか?こうやって少しずつ段階を踏んで慣れていってもらいますわ♪」
直接何かされているわけでもないのに、体が重くなり腕を上げる事すらできなくなる。
「あん時も思った、けど・・・これは、キツいッ!!」
「・・・あ・・・ッ!」
「ウフフ・・・あ、勘違いしてもらっては困るので先に言っておきますが、これを耐えたからといって肉体的部分が強化するわけではないので、悪しからず」
そう言ってニッコリと微笑むココア。
~ 二十分後 ~
しばらくして慣れてきたメアたちは、大量の汗を流しながらも通常の立ち姿になっていた。
「ハァー・・・フゥ~・・・」
「フゥ・・・」
「・・・そろそろ慣れてきた頃合いでしょうか?二人共、よく頑張りますね。では次のステップに・・・」
「まっ、待ってくれ!・・・少し休ませてくれねえか?流石に辛い・・・」
慌てて止めに入るメアにミーナが力弱く頷く。
「・・・仕方ありませんわね。弱めると意味がなくなってしまうので、もう少しこのまま継続させますわよ?・・・あと、これは私が魔術で精神に負担を掛けるだけなので、貴女たちが一々立たずとも結構ですよ?」
二人は今気が付いたと言わんばかりに「あっ・・・」と声を漏らす。
~ 三十分後 ~
「んよぉし!慣れた!」
「ん」
「みたいですわね。ではれべるすりー♪」
ココアがそう宣言するとすぐに、メアたちの体に更に負担が掛かり、引いていた汗がまたぶり返す。
「うぐっ!?さっきよりおっも・・・!」
「・・・ッ!」
「ウフフフフ、頑張ってください♪」
ココアの最初の言葉通り、時間を掛けて少しずつ魔術の強さの段階的に徐々に上げていく。
すると途中からココアが容赦が無くなり、メアたちが慣れたと見たら休憩を取らせず、レベルをどんどん上げていった。
ーーその時のココアはなんとも楽しそうな表情をし、メアたちの心にトラウマとして刻み込まれた。
そして開始から五時間経過した頃、ココアが両手をパンッと合わせる。
「はーい、今日はここまでにします!」
「・・・プハッ!・・・はぁ・・・はぁ・・・!」
「も・・・ダメ」
座っていたミーナがべちゃりという音を立てて前のめりに倒れ、メアもそれにつられて大の字で寝転がる。
「あらあら、凄い汗。アヤト様に水分を貰っておいて正解でしたわ」
「はい」と言ってココアがメアたちに水の入った水筒を手渡す。
「動けるようになったら、その汗まみれの体を洗い流しに行きなさい。女の子がいつまでもそんな状態だったら、どこかの殿方に嫌われてしまわれますからね」
最後の言葉に二人がピクリと反応し、同時に起き上がる。
「今から入りに行くか」
「ん、すぐ汗流す」
「あらあら、ウフフッ。本当に可愛い子たちね♪」
重い足を引きずって階段を上るメアたちを見送ったココアは、微笑みながら天井へスゥッと消えて行く。
ーーーー
「うぅ、予想以上にベトベトする・・・」
「うにゅ・・・気持ち悪い・・・」
地下から上がり、フラフラしながら風呂へ向かうメアたち。
そして廊下の角を曲がろうとすると、先頭にいるメアが誰かとぶつかる。
「うわっと!あ、ごめーー」
とっさに謝ろうと顔を上げると、そこにはアヤトが立ってて目が合ってしまう。
「お、メアたちか。随分汗まみれになって、頑張ったみたいだな」
そう言ってニカッと笑う。
「あ、え、あっ・・・!?お、おう!あー・・・」
「どした、メア?・・・顔が赤いけど、頑張り過ぎて熱でも出たか?」
アヤトがメアの顔にズイッと自分の顔を近付ける。
「いいいや、大丈夫!大丈夫だから!そ、そんな事より俺たちはこれから風呂行くからさ!じゃあな!!?」
するとメアの顔を真っ赤にして、慌てたせいで声が裏返りながらその場から逃げるように立ち去る。
「・・・?なんだ、随分焦ってたけど・・・まぁ、流石にあれだけの汗は早く流したいか」
「アヤト」
「ん?なんだ、ミー ーー」
「えっち」
「ファッ!?」
それだけ言ってメアの後に続いてその場を去るミーナ。
アヤトはミーナのその背中を「えー・・・」と呟きながら見送っていた。
ーーーー
アヤトと分かれて浴場に着き、頭から湯を被り大量に掻いた汗を流すメアとミーナ。
二人で使うには広過ぎる大浴場でメアたちは湯船に浸かり、大きく溜息を吐く。
「今日は別の意味で疲れたなー・・・」
「ん。疲労感半端ない」
「精神に干渉するって言ってたけど、アヤトと修行した時みたいに体を動かすのとあんま変わらん気がするわ」
「むしろこっちの方が辛い気がする・・・」
「だな・・・。っていうか、あの人途中から楽しんでたよな?」
「少し、怖かった・・・」
「だな・・・」
そこでメアたちの会話が途切れる。
しばらく無言の状態が続いた後、ミーナが口が開く。
「アヤトに匂い嗅がれそうになって興奮した?」
「な・・・ブァ!?」
ミーナの思いも寄らなかった質問に、タイミング悪く飲み込んだ唾が気管に入ってしまい、のぼせたように顔を赤くしてむせるメア。
「カハッ、ゲホッ!!な、何を急に!?」
「アヤトに近付かれた時赤くなって逃げて来たから」
「そ、それは、別に逃げたわけじゃ・・・大体、男に汗の匂いを嗅がれるのは・・・恥ずかしいだろ・・・?」
「アヤトに嗅がれるなら本望」
そう言ってミーナがドヤ顔すると、メアは舌打ちをしてプイッとそっぽを向いてしまう。
「ちなみに」
自分の鼻を人差し指でプニッと軽く押す。
「亜人の鼻の良さは、人の発情した時の匂いを嗅ぎ分ける事ができる程」
「マジで!?」
「・・・冗談」
「・・・・・・ミーナぁ~!」
メアはほくそ笑んだミーナの両方の頬を摘んで伸ばす。
(・・・本当は冗談じゃないけど)
心の中でそっと呟くミーナ。
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