最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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夏休み

傲慢な王

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 ~ ガーランド ~


 「ここは・・・」


 悪魔の男によって送り出された場所は草や木が生えた程度の何もない所だった。
 少し離れた所には下り坂があり、下を覗くと人によって整えた道が見えた。
 左はただひたすらに道が続いているだけだが、右を見ると見覚えのある街が見えていた。


 「ガースト近くの街道か」

 「えぇ、あの街からそう遠くなく人気のない場所がここでしたので。■■ーー見張る者」


 ノワールが詠唱を終えるのと同時に背中がゾクリとする。
 バッと振り返ってみたが、そこには何もない。しかし少し視線を落とすと、その悪寒の正体がそこにあった。


 「ーーッ!!これは・・・!?」


 地面に伸びている自身の影からギョロギョロと目玉が付き、全て俺を見ていた。


 「ソレらは貴方を監視する「目」です」

 「俺が裏切ると?」

 「それも視野に入れています。ですが他に、貴方に万が一があった時にはソレらが私に知らせが届き、急な襲撃には形を成し戦力として勝手に動きます」

 「・・・まさに見張る者、か」


 そこに信用や信頼はなく、ただ考えうる可能性に備えたというわけだ。
 この男にそんなものを期待してはいないが、アヤトだったとしても同じ考え方をするだろう。


 「ではこれで失礼しますね、もう一組が残っておりますので」


 そう言ってノワールは振り向くと同時に空間に亀裂を入れ、その中に溶け込んで行った。
 「もう一組」とはノルトルンの勇者、ユウキとイリア王女の事だろう。
 何気無く、もう一度自分の影を見る。そこには先程まであった「目」はない。
 その瞬間までは何も起きないという事か。


 「・・・とりあえず、城へ向かうか」


 魔族の大陸から帰ってから数日、あの屋敷で過ごした事で早過ぎるなどと怪しまれる事はあまりないだろうが・・・。

 自分の装備を見る。
 ナルシャと言った魔族の少女にやられ半壊状態。ある程度の信憑性も十分の筈だ。
 それに堂々としていなければ怪しまれてしまう。
 それでいて最凶とも言える後ろ盾もある。これで躊躇する理由があるない。


 ーーーー


 「よくやった」

 「ッ!!」


 その一言に絶句した。
 城に戻り、王の前で魔族大陸で起こった事を捏造して伝えると、王は頬杖をしながらそう言ってほくそ笑んだのだ。
 ラピィ、アーク、セレス、そして多大な犠牲を払ってまで召喚したノクトや王宮一の薬剤師であるシャードが帰らぬ人となった報告を聞いても、「お前だけでも無事で良かった」「惜しい者たちを亡くしてしまった」どころか、まるで手間が省けたとでも言いたげなその表情に憤りを感じ歯軋りをしていた。

 勇者召喚などを行う時点で分かっていた筈だが、この国の王は・・・ここまで腐っていたと言うのかッ!!


 「褒美はのちに与える。下がれ」

 「・・・・・・」

 「ガーランド?」

 「ッ・・・ハッ!」


 「失礼します」と言って王の間から退場する。
 人一人出入りするには大き過ぎる扉が閉まると同時に、その向こう側から王の笑い声が聞こえてくる。


 ーーーー


 本来、王の護衛である俺が「下がれ」としか言われず、やる事も思い付かずに自然と足が訓練場へと向かっていた。


 「「ガーランド隊長ッ!!」」


 するとそこには俺の名を呼ぶ奴らがいた。
 振り返ると数十人規模の薄い甲冑を着た者たちがガシャガシャと物々しい音を立ててこちらにやって来る。
 この城の王に仕える騎士の見習いたち。
 俺はギルドの依頼としてここで護衛をする傭兵まがいの事をしているが、コイツらは俺が面倒を見てやった奴らだ。


 「お前らか、どうしたんだ?そんな血相を変えて」

 「どうしたじゃないです、何を呑気に!?」

 「隊長、魔族の大陸に派遣されたと聞きましたが、無事だったんですか!?」

 「でなければ今ここにいる俺は幽霊という事になるな?」


 その言葉を聞いてフッと意識を失う者もいた。
 そういえば騎士の中には女性がいる事も忘れていた。


 「あー・・・まぁ、色々あったが、この通りピンピンしてる。心配掛けたな」

 「何言ってんですか!俺たちはガーランド隊長は必ず帰って来るって信じてましたから!!」


 この場にいる全員がうんうんと頷く。
 一瞬、その全員が今にも泣きそうな顔をしている事を指摘してからかおうとも思ったが、やめておいた。


 「隊長はまたすぐにどこかへ行く予定なんてないですよね?」


 ラピィと同じくらいの小柄な少女が前に出て聞いて来た。
 この子は中でも一番慕ってくれている子で、一応人間なんだが時々犬の耳や尻尾の生えた亜人に見えたりする程だった。


 「ああ、次の命があるまでは待機だが・・・」

 「それじゃあ、久しぶりに俺たちに稽古付けてください!」


 全員が期待を持った目で俺を見る。


 「・・・少しだけだぞ?」


 やる事もなく暇な癖に、意地を張ってそう言ってしまった。
 すると彼らは喜びやる気になっていた。
 稽古と言ってもアヤトのように的確な指示は与えられないが、一人一人相手にして、明らかな間違いを指摘する事はできる。


 ーーーー


 「・・・ローラン」


 ガーランドが去った後、しばらく虚空を見つめていた王が呟くと、白く長い髭を生やした老人が前に出て来た。


 「ここに」

 「例の準備はどうなっている?」

 「ハッ、ただいま全力を持って取り掛かっております。このまま順調に進めば六日で完成するかと」

 「遅い。四日で仕上げろ」

 「お言葉ですが、これ以上無理をすれば失敗する可能性が・・・」


 老人の反論が気に食わなかったのか、王は眉をひそめる。


 「・・・そういえば、お前の家系に・・・息子夫婦に優秀な魔術師がいるんだったな?」

 「ッ!?早急に、準備に取り掛かります!!」

 「それでいい・・・役立たずは要らん」


 老人が慌てて出て行くと王が呟き、周囲で頭を下げている臣下たちの顔に冷や汗が噴き出る。
 その言葉がまるで自分たちに向けられていたようだったから。
 しばらくの沈黙がその場を支配すると、ふと思い付いたように王が口を開く。


 「そういえば、最近冒険者の中で新たにSSランクに到達した者がいるらしいな」

 「そのようで・・・」

 「ふむ、ランクが最高ランクに到達できる者であれば、たとえ剣士だとしても魔力が期待できた筈だ。その者の情報を誰か持っている者はいるか?」

 「その話でしたら有名でございます。名はアヤト、つい数日前までCランクだった駆け出しの筈でしたが、何をしたのか突然SSランクへ昇格致しました」


 臣下の一人が発言した言葉に、王は訝しげな表情でこめかみをトントンと指で叩く。


 「それは不思議な事だ・・・不正はないのか?」

 「ギルドは一国相手にしても平等を掲げる者たちが集う場所でございます。前に一度職員に紛れ不正を働こうとした者がいたらしいのですが、不正を働く前に失敗、晒し首にされております。どういうカラクリかは分かりかねますが、不正は不可能かと」

 「そうか、本物ならそれで良い。では使いを出し、その者をここに呼べ」

 「・・・王よ、その前に申し上げたい事が」

 「・・・なんだ」


 王は目を細め睨み付ける。
 その剣呑な雰囲気に臣下は息を飲む。


 「ッ・・・その者、アヤトは勇者であるとの情報も」

 「何?・・・そういえばガーランドが他の国からも勇者が派遣されていたと報告していたな・・・」

 「どうなさいますか?勇者である事を確認し次第、その国に使者を送りなさいますか?」

 「・・・いや、ガーランドの話を聞くに、ある程度の知己であろう。奴を向かわせる」

 「ですが、無断で他国の勇者を招くなど・・・!」

 「「勇者」として招くのではない、「ガーランドの知人」としてこの城に呼ぶのだ。であれば問題なかろう?共に戦った戦友を労ってやるだけだ。クックック・・・」


 無茶苦茶な理論。しかし死にたくがないために、その言葉通り行動するしかない。
 たとえその先に国同士の戦争が起こるとしても。
 ただただ言いようのない不安が王以外を蝕んでいく。
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