最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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ex 王は誰に

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 「まずは氷の除去・・・か?」


 鎧に身を包んだ巨躯な体をした男、ガーランドが氷漬けになった城を外から眺め呟く。
 チユキがガーストの王城全体を凍らせてから数日が経っていたが、一向に溶ける気配がない。
 ガーランドの周囲では「元」王に仕えていた臣下たちかオロオロとしながらガーランドを見上げていた。


 「儂らは・・・これからどうすれば良いのじゃろうか・・・?」

 「どうもこうもない。このガーストで生きてきた儂らはどの道おしまいじゃ。他国に吸収されれば老いたこの身は必要とされない」

 「王には子孫はいなかったのか?」

 「残念じゃが、王は一人も女を娶る事もしなかった。の趣味はないとは思うが・・・どちらにしろ、王に子孫など一人もおらんよ」

 「ならば新たな王を・・・!」

 「誰が担う?王権を欲しがる者で争いが起こるなど安易に想像でき、仮に誰かを王に仕立てあげたとしてあの化け物がまた来るやもしれぬぞ!?なら儂は・・・残り少ない余生をのんびりと過ごしたい・・・」


 老人たちが全員下を向いてお通夜状態になっている中、ガーランドが大きく溜息を吐く。


 「王がいなければ誰が民を導く?前王は暴君ではあったが、しっかりと治安は守られていた。しかしこうして秩序の象徴である城そのものが凍らされ不安が募る今、誰かが先導しなければならない。我が身可愛さに逃げるのは愚者のする事だ」

 「・・・しかしーー」


 ガーランドの言葉を聞いて俯いていた老人の一人が顔を上げ何かを言おうとする。
 しかしどの言葉を選んでも意味が無い事を悟った老人は自分の唇を噛み締め、そしてもう一度口を開く。


 「しかし王の役目は誰でもいいわけではない。王の素質がある者を選ばなければ・・・」

 「だがどこに?代理でもすぐに王を立てなければ、民衆は今にもパニックし暴動を起こしてしまうだろう」


 一人の老人がある方向に視線を向け、他の者たちもつられて向ける。
 そこには凍らされた城を不安気に見つめる人々の姿があった。
 ある者は状況が掴めず怒鳴り、ある者はあまりの不安に泣き出す。


 「・・・いや、下手に刺激すればそれこそ更なる混乱が起きるぞ。城が凍らされたのにも関わらず王は何も言わない。民衆は王の身に何かがあった事を理解するじゃろう」

 「「・・・・・・」」


 老人たちが項垂れていると、ガーランドが人々に向かって歩き始める。


 「ガーランド殿・・・?」

 「皆聞いてくれ!!」


 怒号にも似た低く大きな声にその場にいた全員がガーランドに視線を向けた。


 「ご覧の通り不慮の事態により城が凍らされてしまい、王も不在となってしまった。これからの生活も一変し不便になってしまうだろう。しかしどうか希望を持ってくれ。王は自らの命を賭して被害を最小限に抑えてくださった!ならばその恩義に報いなくてはならない・・・王亡き今だが、新たな王を見つけ出すまでもう少し辛抱してくれ!」


 ガーランドが言い終えると場がシンと静まり、次に溢れんばかりの歓声が上がる。
 中からは「王が私たちを守ってくれた」「尊い人を亡くしてしまった」「ガーランド様に全てを託すしかない」「ガースト万歳」そんなあらゆる声が飛び交った。
 その光景を見ていた老人たちは安堵していた。


 「賭けか、もしくは自分の価値を分かってて利用したか・・・彼奴だからこその説得力で民の不安を和らげたな」

 「一時しかならんが、とりあえずは凌ぎとなった。ならば後は儂らがなんとかせねばならんのう」

 「他国からの侵略を流しつつ新たな王の模索か・・・この年で骨が折れる仕事が回されるとは・・・」

 「何を言っている、前王も相当な無茶を押し付けて来たのだから今更だろうに」

 「違いない」


 先程まで意気消沈していた老人たちの表情が明るくなっていた。
 ガーランドの行動は民だけでなく老人たちをも元気付けていた。
 ガーランドがホッとして振り返ると、視界の隅に気になるものが映った。


 ーーーー


 「クフフ、見事な演説でしたね。一歩間違えれば不安を煽りかねない言葉を次々と・・・」

 「皮肉はいい、何の用だ?」

 「アヤト様の命でご助力を・・・必要ないようでしたら帰って伝えますが?」

 「・・・いや、今は少しでも手を借りたい。だがいいのか、主人の側にいなくて?」

 「心配せずとも戦闘に関する力は言わずもがな、家事や他の事も代理がいます。それに・・・

 「なっ・・・!?だが、その姿は・・・」

 「多めに魔力を注ぎ込めばご覧の通りに作れます。戦闘の質はかなり落ちますが、人間相手には問題ない程度にはありますので」

 「それは力強いな」


 そう言いながら申し訳なさそうに笑うガーランド。
 アヤトを慕っていると言っても「悪魔に手を貸してもらう」というのはどうしても抵抗があるようだった。


 (しかし・・・どうする助力と言っても何をするつもりだ?)

 「クフフ、その顔・・・どうするつもりだとでも言いたげですね」


 図星を突かれたガーランドの肩がビクッと跳ねる。
 気不味そうに頬を掻くガーランドを見てノワールがクスリと笑う。


 「それではまず代わりの王を立てましょう」

 「ああ、だから今から王探しをーー」

 「いいえ。貴方が成るのです」

 「・・・は?」


 ノワールの発言が理解できなかったガーランドが思わず素で聞き返してしまう。


 「先程の民への演説、SS冒険者という実績による彼らからの信頼、胆力や行動力も含め十分でしょう」

 「・・・いや、待ってくれ!俺は金で雇われたただの傭兵だぞ!?それに自分で言うのもなんだが、こんなデカいおっさんが王など・・・」

 「それを言ってしまえば、ラライナの王など皮と骨だけのスケルトンに近いですよ。ですので前例などいくらでもあります。必要なのは体格ではなく資格。あとは貴方のやる気次第ではありますが」


 サラッと毒を吐きつつノワールは意地悪な笑みを浮かべ、人々の方に視線を向ける。
 「そうした方が早く確実なのに」と急かすように。


 「しかし俺が王の職務など・・・」

 「私が補助を。そのためにここにいるのですから」

 「・・・他に代案はーー」

 「あるなら仰ってください。私の案よりも良く、保身のために責任を誰かに押し付ける腰抜けで最近これと言った活躍もしない貴方の案をお聞かせ願いますか?」

 「・・・分かった、やらせてもらう・・だからそれ以上言わないでくれ・・・」


 ノワールの抉るような言葉で軽く心を折られそうになったガーランドは渋々と承諾してしまう。
 実は今の言葉の大半はアヤトが考えた事だとは、ガーランドは知る由もない。


 (まぁ、私も思わなかったわけではありませんが、ここまであの方の予想が当たるとは思いませんでしたよ。クフフフフフフ・・・)


 ガーランドが否定し拒否するであろう事まで見越してアヤトはノワールにそう言うよう仕向けていたのだった。
 後に臣下たちにもノワールを紹介し、驚かれながらも彼らは快く頷いてガーランドを王にさせる事に賛同した。


 「傭兵紛いの冒険者から一国の王とはな。成り立ちとしては前代未聞だろう」

 「ならこれから同じ事が起きるかもしれませんね。貴方のように」

 「本来ありえん事なのだから起きてほしくはないな」


 民衆に報告とお披露目の準備をしているガーランドとノワールはお互いにそう言って笑った。
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