最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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ex 可愛いは正義

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 ☆★イリア★☆


 ~ アヤトたちが帰ってからしばらくして ~


 「( ゚д゚)」

 「あの・・・シャナ、殿・・・?」

 「( ゚д゚)」

 「シャナさん?生きてますか?シャナさーん?」


 あの方たちがユウキ様を連れて帰ってからナタリアの具合を見るために部屋に戻ると、シャナさんが放心状態で固まったまま微動だにしていなかった。
 彼女の一番の友人だというミーナさんに正面から嫌いだと言われてからだ。
 確かに彼女の行動は突発的で理解できないものではあったかもしれないけど、それでも彼女の立場からしたら酷な話だと思う。
 仲間がいなくなった今、唯一の友人からも愛想を尽かされてしまった。
 そんな今の彼女に掛けられる必要な言葉が見付からない。


 「・・・今日のお仕事はお休みください。そんな状態では身が入らないでしょうし。少し休む時間が必要でしょう。なんならお父様たちやクリララさんのように数日休むのも良いでしょう。・・・では私はこれで失礼します」


 自然な感じでその場を去ろうと椅子から立ち上がると、いつの間にか裾をシャナさんに掴まれていて、彼女の目からポロポロと涙が溢れ出してしまっていた。


 「えっ、シャナさん!?ど、どうしたんですか?どこか痛いところでも・・・」

 「嫌われ・・・ちゃった・・・」


 シャナさんの表情が徐々に歪み、裾を掴む手にギュッと力が入る。


 「ミーナに、嫌われ・・・ヒッグ・・・ちゃった・・・」

 「シャナさん・・・」


 そんな姿を見ていると胸の奥が締め付けられるような感覚に襲われ、ついシャナさんを抱き締めてしまった。


 「大丈夫ですよ。ミーナさんも本気で嫌ってるわけではないと思います。ちゃんと話し合えばまた元の関係に戻れます」

 「うにゃ~・・・」


 一応慰めたつもりでしたが、シャナさんの目からは更に涙が溢れ出てしまい、すがり付るようにその顔を擦り付けてきた。


 「ど、どうしましょう・・・」

 「イリア様・・・」


 可愛過ぎます!!
 なんでしょうこの・・・母性本能をくすぐってくるような愛らしさは!?

 つい先程までの亜人の認識は「差別され、迫害される可哀想な者」でした。
 しかしたった今、その認識が書き換えられて「守りたい小動物」となった。
 思わず抱き締める腕に力が入ってしまう。
 すると私たちを見ていたナタリアがあたふたとし始めた。
 私が姫だからとかそういう理由かと思ったら、何やら近くから手鏡と布を取り出して差し出してきた。


 「イリア様・・・王族として・・・いえ、女性がしてはいけないお顔をされております・・・」


 渡された鏡を確認すると、なんとも緩み切った顔で鼻から血を流していた。

 ・・・えぇ、ええそうでしょうとも。
 こんな顔、淑女がして良い顔ではありません。
 しっかりしなくてはーー


 「みぃ・・・」

 「ではまず着替えましょう!」


 切ない声で鳴かれた私の理性は消失してしまったようです。


 ーーーー


 「さぁ、次はコレを着てみてくださいませ!ああ、でもこっちも似合いそう・・・」

 「「・・・・・・」」


 ポカンとした表情で呆けて私を眺めている二人。
 でもそんな事は気にせずにシャナさんに似合いそうな服を私は選んでいく。
 母は着せ替えが趣味でソレの何が楽しいのか今までさっぱり理解できなかったが、なるほど自分が思う可愛いと思えるものを見付けてしまうと理解できてしまった。
 その者の可愛さにを更に引き立てるために試行錯誤し、完成を夢見て心踊らせる。
 そしてその子に合ったコーディネートを見付ける事ができればまた次を探す。

 そう、可愛いものを追求するのに終わりはありませんわ!!

 いつか母が言った言葉が頭の中に蘇り、あたかも自分が言ったかのように感じた。
 何が起きているか分からずなされるがままのシャナさんと「やはり遺伝か・・・」と呟くナタリア。

 傍観者を気取ってるナタリアですが、後で彼女も可愛くしてみましょうか♪

 そうして着せ替えを楽しんでいる間にいつの間にか日が暮れてしまった。


 「あら、イリア。先程から姿が見えなかったけど、また何かしていたの?」


 夕食になり、両親と一緒に食事をしようと席に着くと母が聞いて来た。
 「また」と言われたのは、ユウキ様を勇者として召喚するまでの過程、準備を私が勝手に進めてしまっていた事を指している。
 その時二人からは少し叱られてしまったが、私たちには結局それしかないという結論になり決行した結果、ユウキ様が召喚されたのです。
 そういう前科があるので疑われたのでしょう。しかし今回は何も後ろめたい事はありません!


 「いいえ、お母様。私は先程までシャナさんのお着替えを手伝っていただけですわ」

 「シャナさん・・・って、あの猫の子よね?そういえばさっき庭で向こうの猫さんとじゃれていたわね」


 お母様にはあの戦いが猫同士がじゃれているようにしか見えていなかったようです。


 「ええ、その時に服が汚れてしまったので代わりの服をと」

 「・・・それで・・・その服なのか・・・?」


 お父様が怪訝な顔をして私の後ろを見る。
 そこには華やかなドレスを着た無表情に佇むシャナさんがいる。
 給仕用の服ではなく、ドレスを着させている事に疑問を抱いているのだろうか?


 「はい、私が幼かった時のお古を着せました。可愛いでしょう?」


 私がそう言うとお父様が驚愕した表情を浮かべ、お母様は「あらあら」と手を頬に当てて嬉しそうに微笑んでいた。


 「そして決めました・・・この方を私専属として雇わせていただきたいのです!」


 続けて発言した私の言葉にお父様が口を開け、アヤト様の仰っていた所謂「アホ面」を晒していた。
 もちろんそれはお父様だけでなく、聞かされていなかったシャナさんも同様に驚いていた。


 「つまり、その・・・その子をただの給仕ではなく、身の回りの世話をさせるという事か・・・?」

 「そう言ってるではありませんの?」


 通常、専属を雇うとなったら正式なところから手続きをするのが当たり前。
 作法などを学んでいない者を王族に付けるなど、本来はあってならないのです。

 ですが・・・ですが・・・!
 そんな建前より可愛いものを側に置きたいという本心を優先させたいお年頃なのです!!


 ーーーー


 「あの・・・イリア様?なぜそんな事に・・・?」


 夕食を終え、部屋に戻ろうとしている時にナタリアが問い掛けて来た。
 まだ手続きは取っていないので専属にはなっていないが、早速側にいてもらっているシャナさんも無表情ながらどこか心配そうな顔をしていた。


 「お気に入りは側に置いておきたいのが普通でしょう?」

 「でも、私は・・・」


 やっとシャナさんから口を開いてくれた。
 ショックを受けていたのもあったかもしれないけど、元々この方は寡黙な方かと思っていた。
 だからミーナさんと普通に会話している時は凄く驚いたのですけれど。


 「そもそも私に専属など早い話なのです。仕事などお父様が勝手に押し付けてくるだけですし!・・・なので、もし引き受けてくださるのであれば、これから学べばいいだけの話ですわ」

 「・・・?もう決まった話なのでは・・・?」

 「強制は致しません」


 そうなったら凄く残念ですけど。
 なので少し意地悪な提案をしてみましょう。


 「ですが私に付いて来ればおのずとアヤト様と出会う機会があるでしょう。その時に貴女が側にいればーー」

 「・・・!また、ミーナに会える・・・!」


 困惑していたさっきまでの表情が決意の固まった顔に変わる。


 「やる。貴女の・・・イリア様の専属になる!」

 「ウフフ・・・では契約成立ですね。これからよろしくお願い致します、シャナさん!」
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