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武人祭
休み明け
しおりを挟むついに休みが明けてしまった。
学園長に送られてきたヴェッフェルからの手紙を無視したままなのだが音沙汰がない。
もしかしたら諦めたのかも?なんて思いたいのだが、そうはいかないだろう。
だが動きがないならないで、俺たちも今は気兼ねなく学園に通えるというものだ。
一応ヘレナにも頼んで、学園全体に侵入者対策の結界も張ってもらったし。
そういうわけでいつもの部屋で朝食の準備を進めていたのだが・・・。
「アイツら来ねえな・・・」
メアもカイトも、飯の準備をしているノワール、ココア、ウル、ルウ、クリララ以外誰も来ない。
メアやミーナとヘレナに関してはいつも一緒に寝てるんだし、さっきも学園に行くぞと声を掛けた・・・筈なのに。
どうせまたいつも恒例の「あと五分」と言って寝てしまったのだろうか・・・?
俺の言葉を聞いたココアが訪ねて来た。
「起こしますか?」
「ああ、そうしてくれ。俺は上行ってカイトとレナを起こしてくる。ココアは俺の部屋にいる奴らを起こしに行ってくれ」
「分かりました♪」
フワリと空中に浮いて俺の部屋があるであろう方向の壁をすり抜けて行った。
俺も椅子から立ち上がってカイトたちが寝ている二階へと上がろうとする。
すると俺の部屋からメアの「うおぉぉぉぉぉッ!?」という悲鳴のようなものが聞こえてきた。
恐らくココアが変な起こし方でもしたのだろう。
特に気にする事もなく上に上がった。
階段を上がってすぐに最初にレナの部屋がある。
先にその扉をノックしてから声を掛ける。
「起きてるか、レナ?今日から学園始まるぞ」
「・・・・・・はい」
かなり遅れて眠そうな返事が返ってきた。
扉がゆっくりと開かれると、そこには制服姿のレナがフラフラとしながら立っていた。
表情は隠れて見えないが、やはり眠いのだろう。
欠伸をしながら挨拶をして来た。
「ふぁ~・・・お、おはよう、ございます・・・」
「おう。襟乱れてるぞ、まだ眠いなら顔洗って来い」
「はい・・・」
頼りない返事と共に洗面台へと向かうレナ。
次はカイトだ。
ーーーー
「・・・・・・すぅ」
「おりゃ」
「ッ!?」
案の定安らかに眠っていたカイトの敷布団を勢い良く捲り上げ、綺麗に宙で回転させる。
カイトが地面に落ちる前に布団を敷き直して元の状態に戻し、その後にカイトがそこにorz状に着地した。
「すみません、師匠・・・気持ち悪いんで今日学園休んでいいですか・・・?」
「大丈夫、ちょっと酔っただけだ。学園に着く頃には良くなる」
「もっとちゃんとした起こし方してくださいよ!?」
「たまにやりたくなる事あるよね」
「そんな発作みたいな症状ありませんから・・・」
「とにかく今日から学園再開だ。寝坊するなよ?」
それだけ言い残して部屋を去る。
フィーナやアークなど他数名は起こす必要がないから無視して下に戻る。・・・と思ったらラピィとばったり出会した。
「おっ、アヤト君おっはー!」
「おう、おはよう。早いな、どっか行くのか?」
「うん。もうガーストに追われる心配もなくなったし、いつまでもお世話になってるのもアレだし、そろそろ冒険者家業に戻ってお金を稼ぎに行こうかと思ってギルドにね!」
「って事はセレスとアークもか?」
「まあね、私たちパーティーだし。今までは宿屋暮らしだったけど、これを機に自分の家でも持とうかと思って」
「ほぉー、そりゃ立派な事で」
「・・・もしかしてバカにしてる?」
「そんなわけ。ただもし無理だと思ったらいつでもここに戻っ来ていい。こんな広い屋敷を俺たちで使え切れるわけがねえからな」
実際、住む奴が増えてきたにも関わらず、書斎や居間を含めてもまだ部屋が半分も埋まってないというのが現状だ。
前に住んでいた貴族様はどれだけの人間を住まわせる事を想定して作ったのだろうか・・・?
「ありがとう、気持ちだけ受け取っておくよ!」
「ああ。・・・もし何がなんでも家を建てたいって思うなら、俺がやってやるけど」
「え・・・君が・・・?」
「何を言ってるの?」とでも言わんばかりの視線を向けてくるラピィ。
確かにいきなり言われても冗談にしか聞こえないだろうが。
「簡単な木造建築なら作れる。ちゃんとした丈夫な家を建ててほしいってんなら材料費と多少の人件費くらいは貰うけど」
「本気で言ってる?」
「本気」
「おねやいしゃっす!」
チンピラやヤンキーのような言葉使いで頭を垂直に下げてきた。
やはり安く済むのならその方がいいらしい。
「おう。でも土地はどうにもならんから、そっちでなんとかしてくれ」
「もちろん!家を建ててくれるだけでも大助かりだよ!いやー、やっぱり持つべきものは友だね!」
嬉しそうにそう言いながらスキップして去って行った。
ーーーー
学園に登校中、気になる事を口にする。
「なぁ、なんか見られてないか?」
「見られてますね」
「そうだね」と同じくらい適当な返事を返すカイト。
そりゃあまぁ、メンバーがメンバーなだけに注目を浴びやすいのは分かるが。
特にココアなど宙に浮いたまま移動しているし、ヘレナに関しては健全な青春真っ只中の男子には効果抜群のスタイルをしているから仕方がないのだけれど。
だがそれは夏休み前の嫉妬や敵意、奇異なものを見るような視線だったりとあまり良くないものだったが、今は何故か好奇の視線に晒されている。
「見られてるのはメア先輩・・・だけじゃないみたいですね・・・」
「ああ、俺も・・・いや、ミーナやカイトもだな」
「ん、なんかゾワゾワする・・・」
亜人がゲスな視線以外の好意を向けられるのは慣れていないらしく、寒気を感じているようで腕を摩っていた。
すると学園の入り口付近でキョロキョロとしている背の低い少女の姿が見え、ソイツは俺たちを見付けると走って来た。
「おはようございます!アヤト様と皆様!」
「ああ、おはようアトリ」
金髪ドリルに広く輝く額の少女、ベアトリクス・フィールド。通称アトリ。
学園に来た時一悶着あったが、それ以来何故か懐いてしまったのだ。
他の奴らからも挨拶を返されるアトリに視線の事を聞いてみる事にした。
「なぁ、なんかさっきからめっちゃ見られてるんだけど・・・なんでこんな見られてんの?」
「アヤト様が有名人だからですわ!」
「有名?」と疑問に思っていると、アトリが屈託のない笑みを浮かべてゆっくりと頭を下げた。
「遅れてしまいましたが冒険者SSランクへの昇格、おめでとうございます」
「・・・あー・・・、もしかしてそれでか?」
「それ「も」ですわ。アヤト様は前回の模擬戦でご活躍なさいましたではありませんか。そんな注目されたばかりの貴方様が夏休みに入りすぐにSSランク冒険者となったのです!しかも学園に在籍している齢十八の少年が!その年でSSランクに到達したとなれば最年少となりますので注目されないわけがありませんわ!」
腕を上下に振って、それはもう楽しそうに語るアトリ。
その言葉で「ああ」と納得した。
冒険者のSSランクになんて簡単になってしまったから忘れ掛けていた。
「そうか・・・そういえばそんな事もあったな」
「あぁ、やはり実力のある者は違いますわ。功績を鼻に掛けるでもなく謙虚になさるなんて・・・」
アトリはそう言うと恍惚とした表情で大きく溜息を吐いた。
別に謙虚とかじゃなく本気で忘れてたんだが・・・そこのとこは言わなくていいか。
授業に遅れたくはないのでアトリの話を聞きながら歩き続ける
すると向こうからまた学園の制服を着た少女が走ってやって来た。
その顔はほのかに紅潮していて、それは走ったからというより何かに恥ずかしがっているようだった。
「アヤトさん、貴方の事が好きです!コレ受け取ってください!」
少女は俺の前に来ると、そう言いながら頭を下げて手紙を差し出して来た。
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